庭を歩いてメモをとる

おもしろいことや気になることのメモをとっています。

ウクライナ侵略から1年-ロシアとプーチンは孤立しているのか

今日、2023年2月24日で、ロシアがウクライナに侵略を始めてから1年たちました。

「これだけ世界から非難され制裁もされてる四面楚歌の状況で、ロシアとプーチン大統領はしぶといな」と感じていたのですが、どうも実態はそうじゃない、という報道もあります。

ほんとうのところはどうなのか、少し調べてみます。


ロシアを一貫して非難している国は世界の半分だけ

国連決議

まずは国連決議の投票結果です。

国連総会決議 投票結果(ウクライナ侵略関連 )

産経新聞2023年2月23日「中露が浸透、決議のカギはグローバルサウス 国連総会再開」を元によしてるが作成


世界中がロシアを非難していると思っていたのですが、そうではありませんでした。

たしかに、ウクライナ侵略については4分の3ほどの国が非難していますが、逆に言うと、4分の1は棄権またはロシア支持*1

さらに、人権理事会からの追放や損害賠償となると、賛成している国は半分強です。

おおざっぱにいえば、世界の国々はこんなふうに分けられそうです。

  • ロシアを一貫して非難・・・約2分の1(日本もここ)
  • ウクライナへの侵略はだめだが、人権理事会からの追放や損害賠償はやりすぎ・・・約4分の1
  • ロシア支持、またはロシアを敵にしたくない・・・約4分の1

たしかに、ウクライナ侵略に関しては世界の多くの国が非難しているものの、ロシアが四面楚歌というわけではないようです。

ロシアを支持する国の思いとは

ロシアの国際的影響力

これはやはり、それだけロシアは今も大きな国際的影響力を持っているということなのだと思います。

公益財団法人 日本国際フォーラムの坂本正弘上席研究員はこう述べています。

反対国、棄権国は、ロシア周辺国は当然として、アフリカ、中東、アジアの諸国へのロシアの影響力を感じる。ロシアが、強い関係を保ってきた旧ソ連諸国に加え、中国、北朝鮮、ベトナム、イラン、シリア、キューバなどの反対・棄権は当然だが、アフリカでは、ロシアは兵器供給、ワグネルの参与、鉱物資源開発、食料供給などを行ってきたことにより、アルジェリア、マリ、ウガンダ、コンゴー、エチオピアなどとの関係を深めてきた

ロシア自身の影響力とともに、中国が、中露枢軸として工作したことも考えられる。BRICS、上海条約機構諸国の反対・棄権が多いが、特に中国の影響力のつよいアフリカでは、多くの反対・棄権・無投票を生み出している

(以上 引用元:ロシアのウクライナ侵攻に関する国連決議に見るロシアの国際的評価 | 公益財団法人日本国際フォーラム

アメリカ・西側諸国への嫌悪感

こういったロシア・中国の影響力の他に、アメリカや西側諸国への嫌悪もあるのでしょう。

この記事には、イランの外交官が「ロシアの侵攻に反対するなら、アメリカのヴェトナム戦争、アフガン侵攻、イラク侵攻にも反対すべきではなかったか」と述べたことが紹介されていますが、たしかにこのコメントには反論は難しい気がします(ロシアもアフガニスタンには侵攻した、という過去はあるにせよ)。

また、産経新聞2023年2月23日の記事には、ロシアが「かつてアフリカに広大な植民地を持ったフランスを『現在もアフリカを裏庭と考えている』と非難し、アフリカに残る旧宗主国への反発につけいるような姿勢をみせた。」との記載もあります。過去に植民地支配を受けた国々においては、フランス、イギリス、スペイン、ベルギーなどに対して「過去にさんざん他国を植民地として利用した国が今さら何を言ってんの?」という思いは当然あると思います。

日本は「一貫してロシア非難」グループ、つまりアメリカ・ヨーロッパ陣営にいるからあまり感じないですが、アメリカやヨーロッパの元植民地宗主国を嫌いな人がそれなりにいるという事実は、海外旅行で現地の人と話していてもときどき感じることです。


プーチン大統領の支持率は高いまま

「ロシアを非難する国も多いが、四面楚歌というほどでもない」ということはわかりましたが、プーチン大統領はどうでしょうか。

日本やいわゆる西側の報道では、ロシア国民が反戦デモをしたり徴兵を避けるため国外脱出をしたりする映像を目にするので、プーチンの支持率もかなり落ちているのでは・・・そんな印象を持っていましたが、実態はどうか。

ウクライナ侵略後も一貫して高い支持率を維持

ロシアの世論調査なんてそもそもあてになるのか、という疑問もあるので、プーチン政権に「外国のスパイ」に指定され圧力を受けている*2独立系調査団体「レバダセンター」の調査結果を確認してみました。

すると、ウクライナ侵略開始後も、多少の上下はあるものの一貫して8割前後の支持率を維持していることがわかりました。

この強い支持率の源泉はどこにあるのでしょうか。もちろん「プーチンを支持しておかないと怖い」というような理由もあるのでしょうが、一方で不支持率も2割前後はあるわけですから(それが可能な程度には意思表示の余地はあると考えられる)、やはりプーチンがロシア国民に支持される理由は他にもあるはずです。

ロシア国民にとってプーチン大統領は「国を立て直してくれた人」

その最大の理由とは「プーチンがロシアを立て直してくれたから」。

フランスの人類学者・歴史学者で、ソ連崩壊や英国のEU離脱、トランプ当選を予言したといわれるエマニュエル・トッドはこう述べます。

プーチンには、私たちの想像を上回る強みがあるんです。2000年代というプーチンの時代はロシア人にとって、国が立ち直った時代、普通の暮らしが戻ってきた時代です。(中略)

90年代にかつてない苦しみを経験したロシア人にとって、2000年代は普通の暮らしが戻った時期でした。これは単に生活水準の話だけではありません。自殺率も殺人率も下がりました。私が偏愛する指標である乳児死亡率も一気に下がり、米国を下回るようにもなった。

引用元:エマニュエル・トッドが仏紙に断言「第三次世界大戦はもう始まっている」 | 「クレイジーな反逆児野郎」が持論を展開 | クーリエ・ジャポン

本当かな・・・と思って確認してみると、そのとおりでした。

https://graphtochart.com/img/graph/suicide-mortality-rate-per-100-000-population-ru-mychart3-2019.webp
出典:ロシア連邦の自殺死亡率(推移と比較グラフ) | GraphToChart

https://graphtochart.com/img/graph/intentional-homicides-per-100-000-people-ru-mychart3-2020.webp
出典:ロシア連邦の意図的な殺人の発生率(推移と比較グラフ) | GraphToChart

https://graphtochart.com/img/graph/mortality-rate-neonatal-per-1-000-live-births-ru-mychart3-2020.webp
出典:ロシア連邦の新生児の死亡率(推移と比較グラフ) | GraphToChart

https://graphtochart.com/img/graph/gdp-per-capita-growth-annual-ru-mychart3-2021.webp
出典:
ロシア連邦の1人当たりGDP成長率(年率)(推移と比較グラフ) | GraphToChart

プーチンが大統領に在任していたのは2000~2008年そして2012年~現在ですが、2000年ごろから各数値が劇的によくなっていることがわかります。

これには運の要素ももちろんあるのでしょうし(例:リーマンショックは2008年)、ロシアにも様々な問題が山積みではありますが、政治家の実績とすれば見事といっていい結果です。

ロシア国民の中にはプーチン大統領に反対している人ももちろんいるでしょう。強権的なやり方で犠牲になった人も多くいるのでしょう。しかし一方で、ソ連崩壊後に混乱を極めていたロシア社会をプーチンが立て直してくれたという実感は、少なくても一定以上の年齢の国民にとってはなかなか忘れられないのだと思います。


私自身の考え

さて、これまでこのメモでは「ロシア支持する国にもそれなりの理由がある」「プーチンはロシアを立て直した実力者」ということを書いてきました。

ではロシアによるウクライナ侵略を支持しているのかというと、これは明確に「NO」です。私はロシアによるウクライナ侵略には反対です*3

また、プーチン大統領のような政治家・政治手法を称賛しているのかということ、これも「NO」です。プーチン大統領のような人が選挙で立候補しても投票しませんし、むしろ反対します。

ではなぜこのようなことを調べたのか。それはこの問題について、普段とは別の角度で考えたかったからです。

その結果、非常に残念なことにこの戦争はまだ続くだろうし、少なくとも現時点ではロシアを見くびることはやめたほうがいいと考えるようになりました。この考えが間違っているなら、そのほうがうれしいですが。

今は、ウクライナの人々への寄付以外に何ができるのか、日本で似たようなことを起こさないようにするにはどうしたらいいか、を少しずつ考えているところです。


関連メモ

エマニュエル・トッドの「本業」である家族システムの研究からわかる「家族制度が似ていると、その地のイデオロギー・価値観傾向も似てくる」という驚きの事実。


二大超大国だったソ連もアメリカもアフガニスタンを屈服させることができなかった。その理由とは。


日本がアメリカに戦争を始めるまでに何があったのかを淡々と時系列で記載。日本はアメリカに追い詰められたのか、それとも日本が戦争をしたがっていたのか、そのどちらでもないのか。

注釈

*1:ロシア支持の5か国はベラルーシ、北朝鮮、ニカラグア、シリア、そしてロシア。UN condemns Russia’s move to annex parts of Ukraine | Russia-Ukraine war News | Al Jazeera

*2:ロシア社会は“プーチンの戦争”を止められない | NHK

*3:ではウクライナは100%正義なのかというと、そうとも考えていません。この大前研一氏の指摘によると、種をまいたのはゼレンスキー大統領だという考え方もできます。このことから学べることは大きいと思います。大前研一「プーチンの怒りの根源を見抜けなかったゼレンスキー大統領は、決して英雄なんかではない」【2022上半期BEST5】 「政治家に恵まれていない国」に降りかかった悲劇 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)


(広告)