本
窪田新之助「対馬の海に沈む」
久しぶりに睡眠時間を削って読んだ本。
人口3万の対馬でなぜかJAの全国トップ営業であり続けた末自殺した男の不正を暴く本…かと思ったらそれは序盤に過ぎませんでした。その男を一方的に断罪せず、周辺の人々への取材からその不正を成り立たせる巨大な構造をあぶり出していく過程には、まさに手に汗握る感覚。
ほぼ全ての人物が実名で登場する上、言いにくいはずの話をどんどん語らせ背景を掘り下げている筆者の調査力にも感服しました。
ダロン・アセモグル&サイモン・ジョンソン「技術革新と不平等の1000年史」
技術革新で生産性が上がっても庶民に還元されないことが大半(例:中世→増えた富は教会に、産業革命→生産性は爆上がりだが庶民の生活は逆に苦しくなった)であるということ、だから政治参加・労組・教育等が必要で、20世紀の庶民の生活向上も実はこれらがあってこそ実現したということ - これらが興味深い実例をこれでもかと挙げつつ語られています。
ってことは… そう、いま巷で誰もが語るAIも、仕事や趣味で使うぶんには便利ですがひょっとして...ということを読み進めながら感じていたら案の定、下巻P.163には「われわれbの前にはAIという名の『すべての不適切なテクノロジーの母』が立ちふさがっている」との言葉が登場。以降はデジタル・テクノロジーのメリットが庶民に還元されない暗い将来についての言葉のオンパレード。
なにはともあれ、さすがノーベル賞受賞者、そういったことがわかりやすく語られています。
今村夏子「こちらあみ子」
こちらは小説。主人公あみ子は周りの人の気持ちを推測したり感じたりすることが苦手な女の子。その女の子が自分自身の心のままに(そして自分なりの思いやりのままに)突き進んでいた結果、周りの人々をどんどん破壊していく…というサイコホラーとも読めるし、でもそれだけではない生命の光のようなものも感じる不思議な小説。
併録の「ピクニック」も、主人公の女性に周りの人たちが翻弄されている話かと思ったら、実は周りの人が主人公を○○○○いるのだということが読み進めているうちにわかってくる仕組み。でも「こちらあみ子」同様、いわゆる嫌な話かというとそれだけとも言い切れない、このあたりの割り切れなさが魅力です。
スーザン・ロジャース「あなたがあの曲を好きなわけ」
なぜ私はあの曲が好きなんだろう - 音楽好きとしてそういった疑問をふと持つことはあっても、掘り下げることはしていませんでした。そこに切り込んだのが本書です。
著者スーザン・ロジャースはプリンスのエンジニアを経験した後、他のミュージシャンのプロデュースにもかかわり全米No.1も生み出した後、現在はバークレー音楽大学で認知神経科学者として教授を務めているというキャリアの持ち主。まさにこの疑問に切り込むのにうってつけの人。
しかも彼女は、本書冒頭で述べているように、ビートルズの偉大さは認めつつも4人の音楽よりストーンズの音楽のほうが好きなのだそうです。ということは、圧倒的にビートルズのほうが好きな私にとっては「自分とは違う視点で音楽の好みを分析してくれる本」との期待が高まりましたが、果たしてその通りでした。
本書では、音楽を七つの要素から分析しています。「 本物らしさ、リアリズム、斬新さ、メロディー、歌詞、リズム、音色」。これらをもとに、そのケーススタディとなる楽曲を具体的に挙げながら分析を進めていくのですが、この楽曲が(やはり)半分以上知らない曲で、そこがまずおもしろかった。ちなみにこの楽曲リスト(各サブスクサービスへのリンクあり)は無料でアクセス可能です。 → Listening Guide - This Is What It Sounds Like
で、彼女の分析結果には納得がいったのか - やはりなるほどと思ったところもあれば、自分は違うなと思った点もどちらもたくさんありました。きっと誰もがそうでしょう。なので本書は、音楽好きの人たちの間で読書会(ディスカッション)するのに最適な本といえるかもしれません(私自身もそうしました。実に楽しい4時間半でした)。
ジョン・ヒッグス「ザ・ビートルズ vs ジェームズ・ボンド」
1962年10月5日。この日は、ビートルズのデビューシングル発売日であり、007第1作「ドクター・ノオ」の劇場公開日でした。
これは単なる偶然です。しかし両者には他の共通点も「真逆」の点もあまりにも多い。ポール・マッカートニーによる007「死ぬのは奴らだ (Live and Let Die)」テーマ曲提供のような交点もある。このことに気づいた著者が年代順に両者のエピソードを列挙しつつ書き上げた約600ページ。
これはイギリス人にしか書けない、情報量も書き手の想いもてんこ盛りのとても読み応えがある本でした。付箋をつけまくり。
007周りの話はもともとほとんど知らないのでそこが興味深いのはもちろん、ビートルズと英国社会の関連についてもなるほどと思うことだらけ(左派政治家ウィルソンがビートルズを叙勲した理由の推測など)。
全編が「牽強付会」とも言えますが、でっちあげレベルになっているものはなくあくまでしっかりした史実・データをもとに考察・推測を爆発させている感じで、最初から最後(1962年から2022年)まで熱量がまったく衰えていないのにも感心しました。まあ、好き嫌いが分かれる本だとは思います。
ちなみに原題は"Love and Let Die"なのですが、本書を読み終えるとさらに「うまいことつけたな」と思うこと請け合いです。
音楽
坂本龍一 / 水の中のバガテル
坂本龍一教授のファンとして、この曲はもちろん以前から知っていて、そこそこ好きでした。けれども、今年、この曲への想いがぐっと深まりました。
特にきっかけはないのですが、シンプルなメロディーにつけられた和音が繰り返されるたびにそれぞれ微妙に変わっていくことと、その和音の奇妙さ(というか引っかかりのようなもの - 素直な和音はほとんどないと思います。音感がないので適当に書いてますが)が、まるで身体のツボを適切に刺激してちょっとした痛みが快楽につながるような、そんな気持ちよさを心身にもたらしてくれることに気づくようになったのです。
この曲にはいろんなバージョンがありますが、上記の2020年スタジオライブのバージョンがそのシチュエーションも相まって心を打ちますし、何度も聴いています。
I Am Robot And Proud / train dream
Standard Products(ダイソーがやっている無印良品のジェネリックみたいな…それは言いすぎか、マネじゃない独自の商品もたくさんありますしわりと好きです)でかかっていて「一聴き惚れ」。いきなり余談ですがこのStandard Productsと百均のセリアは店内BGMが自分の好みのことが多くて、時々も用もないのに音楽を聴きに行くことすらあるくらいです。
それはさておき、このI Am Robot And Proudは中国系カナダ人Shaw-Han Liemさんによる1人ユニットなんですが、どの曲もエレクトロニカながらシンプルな明るさと気持ちいい音色が織りなす音像が気持ちよく、つい何度も聴いてしまいます。今年新しく出会ったミュージシャンの中ではこちらが一番。
SINGER SONGER / 初花凛々
こちらは2005年の曲ですが、息子が聴いていたのを耳にしてから気に入って…という流れ。メジャーの曲ですが全編を通じて切なさが貫いているこの感覚に一時期どっぷりはまっていました。
Coccoとくるりの岸田さんのユニットなんですね。当時はまったくスルーしていましたが20年後にまたこうして出会えてラッキー。
渡辺美里 40周年 BITTER☆SWEET ULTRA POP TOUR 2025 @ロームシアター京都サウスホール

7年ぶりに行った美里さんのライブ。タイトル通りポップなヒット曲連発で気分爽快。私の記憶ではどの曲もオリジナルからキーを変えずに歌っていて歌の職人としての美里さんの気概にも感心しきりでした。
再生回数ランキング(主にSpotify)
- J.S.バッハ
- ザ・ビートルズ
- 坂本龍一
- 渡辺美里
- I Am Robot and Proud
- SEGA Sound Team ・・・ ドラムスクールで無謀にもAfter BurnerのFinal Take Offにチャレンジしており、練習のために何度も聴いてます。
- SINGER SONGER
- Chappell Roan・・・一応はやりの曲もチェックしたいと思っていくつか聴いていましたが、チャペル・ローンの中で一番リピートしたのはちょっと前の曲"Good Luck, babe!"でした。
- W.A.モーツァルト
- スティーヴィー・ワンダー ・・・ 突然A Place in the Sunが気に入って一時期こればっかり聴いてました。スティーヴィーの作曲じゃないけど大好き。歌詞も。
- Vaundy 、アリアナ・グランデ(再生回数同一、以下同じ)・・・ 台湾旅行中なぜか「踊り子」をヘビロテしていてすっかりこの曲を耳にすると台湾を連想するように。
- サブリナ・カーペンター、L.V.ベートーヴェン
- B.B.キング、Doechii・・・いわゆるはやりの曲の中でもっとも中毒性が高かったのがDoechiiのAnxietyでしたが、再生回数は比較的少なかったんだな…
- yung kai、ジョージ・ガーシュウィン、バルトーク・ベーラ、ビル・エヴァンス・・・yung kaiのblueはバンドメンバーがこの曲をやりたいと言ったから知ったのですが、練習以外でも聴いていました。
- ビリー・ジョエル
食
国産うなぎ重箱@うなぎ淡水(福井・若狭町)

福井県の三方五湖のほとりにある老舗うなぎ料理店でいただいたこのうな重は、間違いなく今までの人生で最高のうなぎであり、食体験としても随一の逸品でした。
タレは薄味なのですがそれがうなぎ本来の香りと美味しさを引き立ててましたし、炭火で焼き上げられたパリっとした表面とうなぎの身の柔らかさとのコントラストも見事としか言いようがない。しかも目の前には三方湖の静かな湖面が広がっているという絶好のロケーション。
同行の友人も今まで食べた中で一番おいしいうなぎだったと絶賛、また来年秋(うなぎの旬。今回も11月に行きました)に来ようという話になるくらいの満足感でした。ちなみに最上グレードメニューである三方五湖特産の「天然口細青鰻」は当日売り切れだったので次回はこちらにチャレンジしたいです。
※絶滅のおそれがあるうなぎを今食べることについてはいろんな意見があると思います。私自身もこのことは十分考えた上でうなぎをいただきました。
パスタランチ@ワインビストロ アンフォラ(東京・千駄ヶ谷)
味だけでなく、お店全体の雰囲気が素晴らしかったのです。ハッピーが満ちた空間というか。3月初めの暖かさを感じる日曜のお昼というそのタイミングもあったかもしれませんし、お店で受けたサービスのよさも影響しているのは間違いないですが、まあとにかく印象深い空間でした。もともとは村上春樹さんがここでかつてジャズ喫茶を経営されていたという、そういうきっかけで訪れたお店なのですが。
時忘舎(京都・東山)
一方で今年残念だったのは、京都白川のほとりにあった会員制の喫茶店がやむなくお店を閉められたこと。平安神宮のすぐ近くなのにひたすら静かなその環境、大声で話す人が皆無なお客さんたち、フレンドリーな接客、他とちょっと違ったオーガニックなメニュー、大正時代の精麦所を丁寧にリノベーションした清潔かつノスタルジックなインテリア・エクステリア…その全てがお気に入りだったのですが…本当に残念。
旅
台湾
10年以上ぶりの海外旅行は、初めての台湾。一人で行きましたが本当に濃密な時間でした。どこに行って何を経験したのか、詳細はこちらへ。
岐阜・高山
友人たちと出かけた高山。自分にとっては2回目ですが、やっぱりたった一日では全く見切れなかった。
そんな中でも、光ミュージアムの展示品の凄さ(富嶽三十六景の全46図の本物とか)と、アニメ「氷菓」の舞台になった喫茶店バグパイプでのひとときは特に忘れがたいものでした。他にも、インバウンド観光客でごった返している通りから少し離れたところにも見所がたくさんあります。もっと長く滞在したい、住んでみたいとさえ思える街。


アート・イベント
関西・大阪万国博覧会
もともとはお金の無駄遣いぐらいにしか思っていなかった万博ですが、世界の人々と交流できる場だと気づいて実際に18か国のパビリオンの方々とお話しできたのは本当に幸運だったし、一生忘れられない経験になりました。
しかも、その対話内容をまとめた以下の記事が、当ブログ史上最多のアクセス(1日で約10万人)をいただき、2025年にもっとも注目を集めた「年間総合はてなブログランキング」7位、はてなブックマーク年間ランキングでも70位という思ってもみなかった結果となり、その点でも大きな思い出となりました。
佐藤雅彦展@横浜美術館
関西に来ないと聞き、次男と新幹線で。これだけの発想を一人で、かつクオリティ高く(たとえばCM上映コーナーでは30分間、老若男女退席ほぼ無し。「ポリンキー」「バザールでござーる」とか)産み出した創造力に改めて絶句。
小沢健二さんのギターが3作品(JR東日本と「カローラIIにのって」)で聴けたことと、無名時代にYMOに絡んでいらっしゃったことを知れたのは音楽ファンとして嬉しい想定外でした。
神戸塩屋の洋館
塩屋駅から見えるあの洋館、個人宅だから見学の機会は永遠にないと思っていましたがなんと「神戸建築祭」の一環で一日だけ見学可能に! 内装にも大感激。レコードプレイヤーとタンノイのスピーカーもありました。現在は別荘としてお使いとのことです。
PC・ネット関連
Evernote→Joplin、Pocket→Instapaper
15年近く愛用していたサービス2つを完全に乗り換えました。
まずノート・メモアプリEvernoteは、料金が看過できないほど値上げされたので代替サービスを探すところから始めました。そもそもEvernoteでクリップしたWeb記事等12,000件をエクスポートするところから難儀しましたが、これはEvernoteのLEGACY版をインストールすることで解決。
そして移行先候補として、Notion, Obsidian, UpNote, Joplinを比較。NortionとObsidianは複雑そうなのと私の利用用途である「Web記事のクリップ」以外の機能が豊富なようだったので自分向きではないなと感じ早々に対象外に。
残るUpNoteとJoplinについては、Joplinはタグの階層化ができないところは引っかかりましたが、オープンソースだしマルチデバイスでなければ無料という点と、何よりデータをローカルにおけるという点にまず惹かれました。そしてUpNoteよりもWebクリップ(Evernoteでやってたことのメイン)がしやすそうだという点が決め手になりました。昨年からスイッチし、今年Evernoteの年プランを解約、完全移行となりました。
Joplin(ジョプリン)とは?特徴と使い方、Evernoteからの移行を紹介 | マネーフォワード クラウド
そしてWeb記事を「あとで読む」サービスであるPocket。こちらは突然サービス終了がアナウンスされたので、昔からある類似サービスInstapaperにスイッチ。今のところPocketとなんら変わりなく使えています。