1993年2月、つまりポール・マッカートニーのアルバム"Off the Ground"がリリースされた月、私はギリシャを旅行していました。
で、アテネを歩いていて見つけたのがこの雑誌。
こんなん買うしかないやろ、と財布の中からドラクマコインを取り出し(もちろん頭の中には"The Pound is Sinking"が流れています)購入、ページを開いてみると中には6ページにわたるポールの記事が。
(なぜかポールの写真はFlowers in the Dirtのときのものばかりですが)
しかし・・・何が書いてあるのかまったくわからない。知り合いにギリシャ語が読める人もいないし。
なので、この雑誌は長い間、ただしまわれていただけでした。
Googleレンズでギリシャ語翻訳
それから30年。そうだ、今はGoogleレンズがあるじゃないかと思い出し、使ってみたところ・・・
なんとかなりそうだ!テクノロジー万歳!
しかもこれ、独占インタビューだったのか。ますます読みたい。
ということで、Googleレンズで拾ってみた内容のうち、興味深かったパートをピックアップしてみます。
ギリシャの雑誌「ENA」1993年2月17日号
ポール・マッカートニー独占インタビューの内容
最初にお伝えしておきますが、インタビューの内容にそれほど目新しい内容はありませんでした。
ビートルズ時代のこと、ツアーのこと、新作のこと、ジョンそしてビートルズ再結成について。当時のポールは世界中でこういう質問を受けていましたが、ギリシャでもそれは同じだったようです。
そんな中でも、個人的に目を引いたのが次の部分です(Googleレンズの翻訳結果をもとによしてるがアレンジしています)。
50代は頑張らなきゃいけない年齢だと思う。僕がいつまで創造的でいられるのかはわからない。けれども僕らの周りには多くの不穏なものがある。それに気づき、表現することは必要なんだって思う。だから最新作は音楽よりも歌詞が基になっているんだ。
自分自身が今50代なので、冒頭の言葉はストレートに響きます。
それはさておき、たしかにアルバムOff the Groundには動物愛護や環境保護のメッセージが前面に出ている曲が複数ありました。当時のポール(とリンダ)のことが懐かしく思い出されるコメントです。
("Hope of Deliverance"について)キャッチーで美しく、覚えやすいと思うけれども、何よりも伝えたいのは楽観的でいることだ。ボブ・マーリーの"Everything's gonna be Alright"みたいにね。現実を見ていないって言っているようなものだけど、僕はいつもそう願ってるんだ。(中略)アルバム制作中は特定のテーマを追っていたわけではなかったけど、いざアルバムを完成させてみると"Hope of Deliverance"や"C'mon People"などいくつかの曲にポジティブなエネルギーがあることを発見したのさ。(中略)新聞やテレビで見た悪いニュースに対する無意識の反応だったのかもしれないね。
当時のシングルB面曲"Big Boys Bickering"はポール自身が「"Give Ireland Back to the Irish"以来のプロテストソング」と語る*1作品ですが、「悪いニュース」への反応がこうしたストレートな抗議になる場合もあれば、ポジティブな歌になることもある、ということですね。どっちのポール作品も好きですが、この楽観パターンのほうがポールの性格の根っこにつながっているような(つまり自然な)気がします。
インタビュアー「ロックスターはその名声を利用して政治問題・社会問題に介入すべきなのでしょうか?」
ポール「人気取りのためでなければ、みんなやればいいのに、と思っているよ。マドンナの写真集"Sex"、僕の国の王室スキャンダル批判、第三世界の貧困など、いろんなミュージシャンたちがいろんなスタイルで表現しているように。」
特にスウェードのようにギターを多用するバンドが好きだね。
「ビートルズは過去のものだから、僕は違う方向に自分を進ませなきゃならない」なんて考えていたこともあった。(中略)でも、たくさんのミュージシャンが僕らビートルズのスタイルを再現しているよね。サージェント・ペパーズを彷彿とさせるティアーズ・フォー・フィアーズの"Sowing the Seeds of Love"とかね。だから、僕は自分のスタイルに引け目を感じることがなくなったんだ。
ポールが他のミュージシャンについて言及するのはいつも興味深いです。
ポールがスウェードについて言及するのを見たのは(私は)初めてです。このころはまだアルバムすら出していない時期なのに、ポール、よくチェックしてるよな・・・ちなみに彼らは後年"Coming Up"というアルバムを出しています。
"Sowing the Seeds of Love"はビートルズ云々を抜きにしても名曲ですよね(まあ、この曲からビートルズのエッセンスを抜いたらもはやこの曲ではなくなってしまいますが。でも決してビートルズの「真似」ではないんですよね。そこがいい。)。やっぱりポールも目をつけていたか。
父親の職業や家族の伝統に従うっていうのは弁護士や医者の家庭によくあることだけど、僕は息子が音楽でキャリアを積むことは望んでいないんだ。でも彼は音楽が好きでね・・・どうしたらいいんだろうね。
この数年後、"Flaming Pie"の"Heaven on a Sunday"では親子でギターの掛け合いをしているので、この頃にはポールも「吹っ切れた」ということなのでしょう。
ジョン・レノンとエルヴィス・コステロ、今思うと似ているところがあるね。二人とも、僕と2本のアコギで作曲する。歌詞が素晴らしい。そして、眼鏡をかけている。
インタビュアー「40年連続で成功を収め続けたアーティストであることについて、どう感じていますか?」
ポール「10年後のマドンナみたいなものかな。」
ポール独特のユーモアセンス。ノーコメント。
(参考)日本の相撲についての記事の内容は・・・
この雑誌には日本の記事もありました。
こんな感じなので、てっきり相撲文化の紹介だと思っていましたが、これもGoogleレンズにかざすと・・・
「戦後は相撲でも負けた!」・・・アメリカ人力士(曙関)が日本の角界で活躍している、という内容だったのですね。当時はバブルははじけているとはいえ、日本の経済力にまだまだ存在感があったころ。ちょっとした「ジャパンバッシング」の一種だったというのは考えすぎでしょうか。
なおこの記事には貴花田関と宮沢りえさんの記者会見写真もあったので(懐かしい・・・)これも翻訳してみると・・・
「日いづる国の人々は、タカハナンダが燃えるような日本人女性と別れた今、彼が再び良い自分を見つけ、最高の栄誉を日本人の手に取り戻すことを期待して、彼らの名声を高めたいと願っています。」
タカハナンダ!
なにはともあれ、外国で日本の記事を見かけるのはうれしいものです。
トルコの洋楽雑誌「Blue Jean」
ちなみに、このギリシャ訪問の前はトルコにいました。ここで買ったのが(トルコリラは"The Pound is Sinking"に出てこないので脳内再生はありませんでした。)この雑誌。
ティーン向けの洋楽専門誌、という感じ。ここにもビートルズとポールの記事がありました。
ビートルズの記事に登場する独特の比喩
こちらもギリシャ語同様、何が書いてあるのかまったくわかりませんが、Googleレンズをフル活用。
内容は、最近のビートルズのメンバーの動向と"Off the Ground"についての簡単な紹介で、目新しい内容はありませんが、興味深かったのはその比喩表現。
ビートルズの3人のメンバーは、樹齢50年のスズカケノキのように今も健在ですっくと立っている。
最新アルバム"Off the Ground"には"I Owe It All to You", "Golden Earth Girl"そして"Wine Dark Open Sea"のような傷を癒すバームのようなバラードが含まれている。
ビートルズのメンバーを「スズカケノキ」にたとえるのも、ポールのバラードを「バームのよう」と表現するのもはじめて見ました。が、これはひょっとするとトルコ語の慣用句か何かかもしれませんね。
トルコの洋楽チャート
この雑誌にはチャートも載っていました。アメリカのとあまりかわらない感じですが、興味深いのと懐かしいのとで載せておきます。
ポールの"Hope of Deliverance"が初登場19位ですね。
一生内容がわからないまま死蔵されたままだと思っていたこれらの雑誌を読むことができる日がくるなんて。この調子で、挫折したClub Sandwitchにもチャレンジしてみようかなあ。
関連メモ
同じOff the Ground収録曲に、これまた偶然にも古代ギリシャとのつながりがあった、という話。
ポールソロ初来日当時の記録と想い出。
ポール・マッカートニー関連のメモまとめ(100以上ある関連記事の目次)。
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