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ポール・マッカートニーやビートルズのボックスセット値上げが意味すること

(2022年2月20日一部追記)

2022年2月14日、ビートルズの映像作品"Get Back"Blu-Rayの日本盤は、輸入盤より1万円程度高い16,500円になるとの発表がありました*1

これを知った時、私はとてもいやな気分になりました。

またか、ここでもか、と。


ポール・マッカートニー「スーパー・デラックス・エディション」価格の上昇

発端は、ポール・マッカートニーの一連のボックスセットでした。

具体的には、「スーパー・デラックス・エディション*2」の国内(日本)盤。

これが、どんどん値上げされてきたのですよね。

国内盤の価格が輸入盤よりある程度上がるのは理解します。歌詞や字幕の翻訳などのコストもあるでしょうから*3

そのことではなくて、同じ系統の商品が出るたびに次第に価格が上がっていっている、このことを確認したいと思います。

以下、実際に自分がいくらで買ったかをまとめてみました。

(なお、Wild Life以降は後述の理由で買っていないので、amazon.co.jpのリリース日価格を記載しました。)

価格上昇の詳細

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ポール・マッカートニー「スーパー・デラックス・エディション」リリース日販売価格の推移*4

この表をざっと見ていただくだけでもその高騰ぶりがおわかりいただけると思いますが、グラフにもしてみます。

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ポール・マッカートニー「スーパー・デラックス・エディション」リリース日販売価格の推移


一応、ディスク1枚あたりの価格もグラフ化しておきます。たとえばFlowers...では収録時間30分ちょっとのCDが2枚あったりの「水増し」もあったりするので、あんまり意味ないかもしれませんが。

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ポール・マッカートニー「スーパー・デラックス・エディション」リリース日販売価格(ディスク1枚あたり)の推移

ディスク1枚あたりで見ても「どんどん価格が高騰している」というトレンドは変わらないですね。

ちなみに、内容はたいして変わっていません。というか、個人的には特に欲しくない印刷物(ポール手書きメモのレプリカとかフォトブックとか)が増えていて、楽しみな音源・映像のコンテンツ量は変わっていないというのが現状です。

最初のころは

最初に、このボックスセットでBand on the Runがリリースされると発表されたときはうれしかったなあ。

こういうのを待ってたんだ!という気持ち。特に"One Hand Clapping"の画質・音質はどんなだろう?わくわくしたものです。

価格については疑問を感じていなかったと思います。


3年ほどたってリリースされたOver Americaからちょっと高くなるわけですが、付属の印刷物が異様に豪華だったので「個人的には別にこういうのいらんし、こんなところにお金をかけてほしくないけど、まあいいか。でも金銭的にはきついな。前みたいに1万円切るくらいにしてほしい」こんな感覚でした。

Flowers in the Dirtの大幅値上げ

しかし、2017年のFlowers in the Dirtリリースについては、怒りを感じたのを今でもはっきり覚えています。

発売元のユニバーサルミュージックジャパンは、一度発売予告を行った後、それを取り消し、CD番号まで変えた上で1万円ほど価格を上げ、再発表したのです。

これは、当時ポール武道館公演チケットで金銭感覚が麻痺した(させられた)身であっても納得しがたいやり口です。

最初の発表のとき「やっぱりフラワーズは今までのアーカイブで一番楽しみ。トラックリスト眺めるだけでしびれる。何物にも代え難い!情熱です!」とか浮かれたツイートをしていた自分は、その分とてもがっかりしましたし、自分の大好きなアルバムだけに非常に気分が悪くなりました。果てしなく萎える想い。

理由の説明が説明になっていない

そもそも、1万円も値上げする理由はなんなのか。

当時、ユニバーサルからは「昨年の前作『タッグ・オブ・ウォー』からのボリューム・アップ、又、原価の高騰に伴い、価格が変更となりました」との説明がなされました

「ボリューム・アップ」?比較してみます。


Tug of War スーパー・デラックス・エディションの内容

  • オーディオCD 3枚(SHM-CD) + DVD1枚
  • 64ページのスクラップブック
  • 112ページのエッセイブック

Flowers in the Dirt デラックス・エディション*5の内容

  • オーディオCD 3枚(SHM-CD) + DVD1枚
  • ポールの手書きの歌詞とメモが書かれた32ページのノートブック
  • リンダ・マッカートニー写真展覧会のカタログ
  • 『ディス・ワン』のMV撮影時の写真を収めた64ページのフォトブック
  • ポール、エルヴィス・コステロ、他の主要関係者との独占インタビューで語られた112ページの本


これに対し、価格差は7,000円以上(ユニバーサルの通販サイトの価格での差額は1万円)。

なんでこの差と「原価の高騰」が販売価格5割増し、7,000円以上の増額にまでなるのか。印刷物はなくてもいいくらいなのに。

こんな説明で納得できるわけがありません。こういうのは「しないほうがましな説明」だと今でも思います。説明を聞いて納得するどころか余計に不信感が増すので。

問い合わせても回答なし

売る方は何をいくらで売ろうが自由だし、買う方も同様です。しかし、売買は双方の合意に基づいて成立します。合意しがたい価格アップには、せめて理由の確認をしたい。

なので、ユニバーサルに価格改定理由についての問い合わせのメールを送りました。

が、「上記お問合せを承りました。お問い合わせへの返答には、お時間をいただく場合がございます。あらかじめご了承下さい。お問い合わせありがとうございました。」という自動返信メールが来たのみで、結局、今に至るまで回答はありません。

これで気分がさらに悪く、そして悔しい気持ちになりました。

結局、このセットは買ってしまったのですが(買ったのかよ)、「大好きなアルバムのボックスセットを手に入れたのに悔しさが残る」というこの思いを二度としたくないというのと、何より、そこまでの経済的余裕がないので、その後リリースされた"Wild Life"以降の同エディションは、買うのをやめ、今に至ります。


ビートルズ「スーパー・デラックス・エディション」価格の上昇

はじめのうちはまだしも

一方で、ビートルズのアルバムリリース50周年記念ボックスの「スーパー・デラックス・エディション」は違いました。はじめのうちは。

2017年、Flowers...でがっかりした気持ちを洗い流してくれるようなタイミングでリリースされたSgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandのスーパー・デラックス・エディション。

こちらは、かつてのポールのボックスに近い価格設定(少し高いが、その分音源が充実している)。特にうれしくない印刷物をゴテゴテつけることもなかったので、こちらも喜んで買い、聴きました(箱が大きく場所をとるという問題には今も悩まされていますが・・・)。

しかし、こちらも、昨年リリースされた"Let It Be"で暗雲が立ち込めてきました。

不気味な価格推移

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ビートルズ「スーパー・デラックス・エディション」リリース日販売価格の推移
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ビートルズ「スーパー・デラックス・エディション」リリース日販売価格の推移
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ビートルズ「スーパー・デラックス・エディション」リリース日販売価格(ディスク1枚あたり)の推移

この価格変化にとてもいやな予感がするのは私だけでしょうか。


こんな不気味な価格の推移を体験したすぐ後に、"Get Back"の映像ディスクが海外盤より約1万円高い価格で、しかもそれが16,500円で発売される(数日後に12,705円に突然値下げされましたが)というニュースを聞いたものだから、ただでさえ残念なこの知らせがよりいやなものに感じられたのです。


実は「適正価格」?

この価格設定の推移から推測できることが他にもあります。

それは、スーパー・デラックス・エディション新品1セット2万円台くらいまでなら、ある程度の数の日本のファンはこれを買っているのではないか、ということです。

同じセットの価格の推移

Chrome等のブラウザの拡張機能"Keepa"を使うと、amazonでの同一商品の価格推移をグラフ化できますので、これを使って確認してみると・・・(以下、名称は「デラックス・エディション」になっていますが、位置づけは既出の「スーパー・・・」と同じです)

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Flowers in the Dirt デラックス・エディション 価格推移 (amazon.co.jp + Keepa)

Flowers in the Dirtの価格(新品。以下同様)は、発売されてから多少の上下はあるもののだいたい2万円台前半のままです。


その後発売されたRed Rose Speedwayも・・・

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Red Rose Speedway デラックス・エディション 価格推移 (amazon.co.jp + Keepa)

在庫のある間は、新品の価格は2万5000円程度のままです。

同じ日にリリースされたWild Lifeも、もう少し安いですが、2万円前後で推移しているようです(グラフは省略します)。


しかし、最初から4万円台でリリースしたFlaming Pieは・・・

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Flaming Pie デラックス・エディション 価格推移 (amazon.co.jp + Keepa)

発売半年くらいで2万円程度まで下がり、その後もさらに下がっています。

うずまく妄想

そして、このFlaming Pieの約1年半後に出たLet It Beが、それまでのビートルズのスーパー・デラックス・エディションより1万円近く高い「2万円近い」価格でリリースされたわけですが・・・

このことから、ユニバーサルの人たちのこんな会話を想像してしまうのは、妄想が過ぎるでしょうか。

  • ほんとファンって好きなものにはお金使うよな・・・ビートルズ関連はファンも多いから得られる利益もなおさらだ。
  • ためしにFlowers...を値上げしてみたけど、販売数はそれほど減ってない。だったらこの価格で売っていこう!
  • (Flaming Pieリリースにあたって)まだ上げられるかな?思い切って4万円でどうだ!
  • (半年後)さすがに上げすぎたかな・・・やっぱり2万円前後が「いちばん稼げる価格」かな。
  • だったらビートルズのほうもこれでいけるかも!Let It Beは2万円弱でいこう!
  • (打ち合わせで)ディズニーさん、いやもうビートルズファンはすごいですよ。2万円前後くらいまではいけると思いますよ・・・


マーケティングとしては成功?

私は、「Get Back日本盤、海外より一万円高」を知ったとき、こんなツイートをしました。


そしてリプライでこんなことも。


でも、実は「スーパー・デラックス・エディション」の価格設定は、前述のグラフを見る限りでは、短期的なマーケティングとしては成功だったのかもしれません。値上げしたあとでも新品の価格が安定しているアルバムについては、その価格でもある程度の部数は出ているかもしれないわけですから。

認めたくないし、実際どうだったのかはわからないけれど。


一番いやなこととは

でも私は、繰り返しますが、これでとてもいやな気分になりました。

好きな音楽、聴きたいトラックがだんだんと自分から離れていき、レコード会社(今はなんと呼べばいいのでしょうか)への不信感も募っていく、かなしい、くやしい気持ち。Worse and Doubtful.

このシリーズをリリースするために企画や翻訳、販促などに一生懸命取り組んできたユニバーサル(プライス決定権のある人以外)や他の関係者の方々の努力、そしてポールやビートルズの作品が、この値付けのせいで黒く塗りつぶされたような感覚。

中でも一番いやなのは、価格を徐々に上げることについてまともな説明をしないというやり方と、それによって変化する人(顧客)の心情を理解しようとしない=人を見下した態度です。

利益確保はいいんです。というか企業なら当然です。でもそれは人を見下さなくてもできるはず。

レコード会社のおかげで才能が発掘され育てられ、作品がリスナーに届けられる。こういったアーカイブコレクションの企画や歌詞等の翻訳などもレコード会社があってこそでしょう。そういった価値に、私は対価を払ってきたつもりです。

しかし「内容がたいして変わらないものを説明もなく値上げする」というやり方をし続けているユニバーサルミュージックジャパンには、そういう価値から乖離した「とにかく利幅を最大化する」という意思しか感じられなくなった、つまり信頼できなくなったわけです。

こんなやり方をする企業がポールやビートルズの音源をほぼ独占的に販売する権利を持っているという事実がとても残念です。

(2022年2月20日追記)Twitterにて、ボックスセット価格の上昇は、レコード会社だけの問題ではなくメンバーへの印税率も影響している可能性がある、とのご指摘をいただきました。印税率の変化を確認することはできませんが、ご指摘の内容はあり得ることだと思いますので、追記しました。

(2022年4月1日追記)上記の印税率の話も含め、価格上昇理由について以下のメモで推測してみました。ユニバーサルミュージックへの残念な気持ちはあまり変わりませんが、値上げをユニバーサルミュージックジャパン単体で行っているわけではないこと、レコード会社にも事情があるかもしれないということなどがわかりました。


関連メモ

このブログの、ポール・マッカートニー関連メモの目次。キンタイア岬への旅行記、東京ドームのポールのステージに上がった経験、ラスベガス「LOVE」の見どころから、「ザ・マッカートニー・ローズ」など、雑多な内容です。


CD販売数は1998年をピークに減少。


音楽産業の市場規模は映像産業の1/5、旅行産業の1/29。


注釈

*1:数日後、すぐに値下げされました。それでも16,500円だったのが12,705円(amazon.co.jp)なので、まだ高いですが。

*2:呼称はアルバムによって変わる場合もありますが、要するに一番高価なセットです。ただ、Flaming Pieの場合は2番目に高価なものを指します。

*3:再販制度が国内盤の価格理由になるケースもありますが、このメモで取り上げるポールやビートルズのボックスセットはたいていDVD等の「独禁法適用除外物品」が付属していますので、再販制度の対象になりません。根拠:7 著作物再販対象商品と非適用除外品のセット販売:公正取引委員会

*4:販売価格には消費税相当額含む。税率の変化は補正せず。ディスクはCD、DVD、Blu-Ray。購入先はamazon.co.jp、タワーレコード、楽天市場のいずれか。以下同様。

*5:名称は「デラックス・エディション」ですが、それまでのアルバムの「スーパー・デラックス・エディション」と同じ位置づけです。


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