今日も台北市内を周ります。
地下鉄に見るマナーのよさと緊張感
市内のホテルから地下鉄で移動。
マスクなんてしてるのは日本人くらい、と言う話を時々耳にしますが、こと台北に至っては日本よりもマスク比率が高いのではないか?と思わせる光景。
それに、乗車前の列にかなりきっちり並んでいますよね。
なおかつ、これはマナーというよりルールなのですが、地下鉄車内は飲食禁止。
(なのでこんな啓発広告があります。左下の「楊貴妃さん出演ありがとう」的なメッセージも含めユーモラス)
そんなわけで、少なくとも台北の地下鉄は日本と同じかそれ以上に「きっちりしている」印象を受けました。
さらに、これは確実に日本より台湾のほうがちゃんとしているなと思ったのは、お年寄りが来るとほぼ確実に優先席(台湾では「博愛座」)にゆずること。あちこちで(台湾新幹線自由席でも)その光景を目の当たりにしました。
ただ、残念ながら痴漢行為は日本同様あるようです。
一方で、こんなサインが地下鉄の出入口や街のあちこちにあります。緊張感が日本とは全く違う。
二二八和平公園で見る「日本は犬、中国は豚」
この日最初に向かったのは二二八和平公園。
その名の通り「二二八事件」のメモリアルなのですが、二二八事件とは?
これは、シンプルにいえば「第二次世界大戦後、日本が去った後の台湾に、大陸からやってきた蒋介石政権が圧政を敷いた。これに対し台北市民が起こした抗議運動に対して、政権側が弾圧を行い市民側に2万8000〜4万人の犠牲者が出た事件*1」です。1947年2月28日に発生したので二二八事件といわれています。
ここはその事件の犠牲者を追悼するための公園・碑なのです。
なぜここを訪れたのか。
もちろん、この事件そのものに関心があったこともありますし、台湾の人たちがその後タブーとしてこの事件を封印した後、20世紀終わり近くにもう一度それに向き合ってこのようなメモリアルを打ち立てるに至ったというプロセスに関心があったこともあります。
しかし、最も大きかったのは、中国大陸から人々がやってくる前の日本統治時代について台北の人たちがどのように感じているのか、それを読みとれないかと思ったのです。
紀念碑
果たして、ここにもありがたいことに日本語の説明書きがありました。
これによると、日本統治時代について「不平等で正義にもとる植民地統治」とはっきり書かれています。決して肯定的な評価をしているわけではありません。
つまり、台湾であちこちで見かける「親日」のサインは、戦前からずっと続いていたというわけではなかったわけです。
一方で、この説明文からは、日本統治時代以上にその後の大陸からやっていた人々の支配が苛酷であった、ということもわかります。
このことを、台湾では「犬が去って豚が来た(狗去豬來)」というそうです*2。「犬(日本)はうるさいが守ってはくれる、でも豚(中国)はただ食べるだけで役に立たない、という意味らしいですが、説明文はその言葉を裏づけるような内容となっています。
たったそれだけではあるんですが、現地でこれを読み考えるというのはやはり特別な体験ですし、ただ本を読んで学ぶのとは違って、なんかこう「血となり肉となる」という感じがします。個人的な感覚ですが。
台湾総統府で感じる危機感
この公園から歩いて10分ちょっとで見えてくるのが台湾総統府。
日本統治時代は台湾「総督」府ということで、台湾を統治する日本人のトップである総督が執務をしていた場所です。戦後もそのままその建物が現在の台湾のトップである総統の執務場所として使われています。
一見して、東京駅に似ているなと感じる方も多いのではないでしょうか。まさに、この建物を実施設計した森山松之助は東京駅の設計者辰野金吾の弟子ですし、辰野はこの建築の監修もしています。どおりで、という感じです。
建物そのものもとても魅力的ですが、内部展示を見学することもできます。私は予約なしのツアーの列に並んだところ、列が50人ぐらいできていましたがそのまま入れました(当然、空港並みのセキュリティチェックが行われます)。なお公開は午前中のみ。
この建物は内側から見ても非常に品格があっていい感じなのですが、
内部の一般公開エリアの展示物も興味深いです。もちろん歴代各総統の写真が展示されている部屋などもありますが、
より興味深く感じたのは、もう少し奥にある、台湾の民主主義は自分たちの手で勝ち取ったことを誇る展示です。イラストでそれを表現するコーナーもあったり、
今の台湾がどれだけ言論の自由を大切にしているか、という点を強調した展示も多かった。
以下の展示も、言論の自由を表す統計データでですが、このマップを見て思うのは、隣にある巨大な中華人民共和国と、台湾(中華民国)は、全く言論の自由においてレベルが違う国なんですよ、ひとつの国だなんてとんでもない、と危機感をもって主張しているように私には見えました。
それにしても漢字という共通の表意文字のおかげで、外国語なのに一目瞭然。「自由」「一部不自由」「不自由」
そして極めつけは一般公開エリアの最後。
台湾は「民主の方舟(はこぶね)」なんだという宣言の後、
台北都心や桃園国際空港、台湾最東端の灯台などの映像をライブ配信。パンフレットには台湾の名所を配信していると書いてあったけど、「私たちは国防上の重要拠点を常に監視しています」というメッセージだと私は受け取りました。やはり危機感が違う。
今日のまとめ
もともとこの旅行は、台湾の人たちはなぜ親日なのか、そもそも本当に親日なのか、そういうことを現地で確認したくてやってきたわけですが、たしかに台湾は世界のどの外国よりも日本語や日本文化、そして日本のお店があふれているし、日本のことを評価してくれている国のように見えます。
しかし一方で、日本を全肯定しているかといえば、そうではない。そして中国への強烈な緊張感・危機意識があちらこちらで肌感覚で伝わってくる。
このふたつ「全肯定ではない親日」と「中国への強烈な緊張感」は根っこでつながっている。そういう複雑さに立脚した「親日」なんだな、と現地で感じることができています。これこそが旅の醍醐味。
その他
円安でも安い台湾の食事
現時点での台湾旅行の魅力のひとつは「円安の影響はあまり感じない」というところにもあると思います。要するに、高くつかない。
ここ数年、欧米に旅行した人たちからは「食費などが日本の数倍かかるのであっという間にお金がなくなっていく・・・」というような話をよく聞きます。でも、台湾においてはそれは全く感じませんでした。しかも、食事においては日本より安いと感じることが多かったです。
例えば、このメニュー、前回のメモで書いた台湾に詳しい同僚に教えてもらった台北のセルフの大衆食堂ですが、この2つ合わせて400円くらいでした。
こちらも人気の牛肉麺ですが、1,000円程度(190台湾ドル)で、牛肉ということを考えればまあこんなものかな、という感じです。
少し話は変わりますが、この店で見かけたのが金属の食器を紫外線消毒するこの装置。日本では見ませんよね(そもそもお箸が木製なので当然ですが。)。こういう、日常とのちょっとした違いを感じられるのも海外旅行のおもしろいところ。
公衆電話にお経
私は外国に行くとその国の公衆電話をのぞくというちょっと変わった癖があります。一種の職業病のようなものです(通信会社勤務のため)。
なので、総統府を訪れた後は、そのすぐ近くにある台湾の通信会社のビルに行き、そこにあった公衆電話ボックスを見てみました。すると・・・
なんとそこにはお経が。それだけ仏教が生活に目指しているのかなあと思いつつ、隣の電話ボックスを見てみると・・・
そこには、タイトルの漢字から推測すると、孤独を慰め支えるような感じの本が置いてありました*3。
自殺防止の一環なのかな(確実な根拠は見つけられませんでしたが)。
国立故宮博物院で大好きな「玉」を堪能
戦後、大陸から台湾に運び込まれた宋・元・明・清四朝の宮廷の宝が保管・展示されているのがこの故宮博物院です。
話に聞いていた通り、非常に大きい。展示物の前を素通りするだけで1時間半かかりました。
私は、美術館や博物館では、まずざっと全体を観て、それから気に入ったものだけをじっくり鑑賞するというやり方で愉しんでいるのですが、ここではその「ざっと全体を観る」だけで1時間半かかったということです。
ここでもっとも有名かつ人気のある翠玉白菜(翡翠で作られた白菜)と豚の角煮のような「肉形石」は、両方ともが外部展示で貸し出されており観ることがかないませんでした。
しかし、私は最もここで観たかったのは玉(ぎょく・翡翠)の逸品たち。小学生のころからこの玉が好きで、中国に行ったらまとまった展示を見たいと思っていたのですが、おそらく世界で一番この玉の展示が充実しているところがここだと思われます。
しかもこのときは、運よくその玉を集めた特別展示が行われていたので、そこに重点的に時間を配分して鑑賞しました。
次から次へと古代から20世紀までの玉の名品が目白押しで、堪能することしきりでしたが、最も驚いたのが、こちらの翡翠でできた屏風です。
同じような緑色のトーンの翡翠を非常に微細なレベルで加工しています。しかも驚くべきことに、これが表裏全く同じ装飾。「表裏がない」ということを示しているそうです。それだけでもかなり圧倒されたのですが、
なんとこれは昭和天皇への贈り物だったそうで、それを知って二度びっくりです(戦後台湾に返還されたのでここにある)。
もう一つの名品はこちらです。彫象牙透花人物套球。
噂には聞いていましたが、実物を見ると、ただ唖然とするばかりの技巧の極致。
これを1本の象牙から親子孫3代に渡って掘り続けたというのですから、その執念というか業のようなものが自分にも覆いかぶさってくるような迫力がありました。
しかも、この中に見え隠れしている17層*4にわたるこの球はそれぞれ独立して回転するそうで、1本の象牙からの掘り出し・削り出しで(別で作ったものをくっつけたわけではなく、そのまま掘って多層球を実現)なぜそんなことができるのか、どういう仕組みになっているのかもさっぱりわかりませんが、まず、それを思いついてかつ実現させるところにそら恐ろしさを感じました。
九份(フン)はジブリまみれ
この旅行は航空券とホテルだけ旅行会社に手配してもらって、後はすべて自由時間と言うプランだったのですが、ひとつだけオプショナルツアーに申し込んでいました。それがこちらの九份です。19世紀末に金鉱が発見され栄えた山(1971年に閉山)の斜面にできた集落。
私が今回巡ったところで混雑していたところはどこもなかったのですが、ここだけは例外でした。
この日は平日でしたが、このとおり人だらけ。ここでは他ではあまり見なかった若干の欧米人(いわゆる白人)も見ましたが、多かったのは、というか、よく聞こえてきた言葉は韓国語でその次が日本語でした。
いちばんの人気スポットらしきところはこちら。これが「千と千尋の神隠し」に出てくる建物のモデルのひとつと言われているようです(宮崎駿さん自身は否定しているのですが)。
その関係か、ここの土産物屋ではジブリの曲を流しているところが多かったし、実際ジブリのグッズを売ってるお店も目につきました。なので見た目の異国情緒と聞こえてくるジブリメロディがミスマッチを起こして、それはそれで独特の雰囲気を醸し出していました。
この九份、上記のような街並みも興味深いといえば興味深いし、独特の情緒もあるので良かったとは思いますが、近代モダン建築を眺めて散策するのが好きな自分としては、こちらの建物「昇平戯院」が最も味わい深かったです。
もともとは日本統治時代に建てられた映画館で、1986年に閉館後2011年に再開、今も映画上映が行われているとのこと*5。
この旅行の別の日のメモ
翌日(3日目)。
前日(1日目)。
関連メモ
注釈
*1:二・二八事件(ににはちじけん)とは? 意味や使い方 - コトバンク
*2:李登輝元総統もこの言葉をこの意味で使っています:https://www.youtube.com/watch?v=lCHi9Hadlhk
*3:あとで本のタイトル「情到深慮人孤獨」をGoogle翻訳にかけてみると「愛が深いレベルに達すると、人は孤独になる」とのことでした。
*4:こちらのメモを書くのに参考にした「台湾「故宮博物院」で見るべき神業レベルの精緻な彫刻 | ORICON NEWS」には21層と書かれていますが、オフィシャルの「国立故宮博物院 故宮参観 > ガイドサービス > テーマ別観覧ルート > 必見ルート I (約60分)」には17層とあります。