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村上春樹再読会(2)-「回転木馬のデッド・ヒート」

村上春樹さんの作品をファンの友人二人と再読する会、第2回は短編集「回転木馬のデッド・ヒート」。1985年刊。

回転木馬のデッド・ヒート (講談社文庫)

3人がZoomで語り合った内容の一部をメモします。

(以下では、小説のあらすじは書いていませんが、いろんな場面について言及していますので、今後この作品を読む予定のある方にはおすすめしません。また、作品の解題ではなく、単なる読書経験にすぎない内容です。)


レーダーホーゼン

あらすじ:母はドイツに旅行した時、父にそっくりな体型をした現地の人におみやげのレーダーホーゼン(皮製の半ズボン)の採寸をお願いしたとき、父と離婚することを決意していた。

不条理な話だが、納得させられてしまう話でもある。

この作品は、春樹さん(この短編集の「語り部」でもある)が春樹さんの奥さんの友達から聞いた話がもとになっている(という設定)。これと、採寸のためにレーダーホーゼンを履いてくれた「春樹さんの奥さんのご友人のお父さん」とそっくりな体型の見知らぬドイツ人と「お母さん」関係。このパラレルな関係性が興味深い。

「レキシントンの幽霊」収録の「緑色の獣」とテーマが似ている。どちらも「女性の残酷さ」「男の愛は『名前を付けて保存』、女の愛は『上書き保存』」を鮮やかに描き切っている点が共通しているのでは。
レキシントンの幽霊 (文春文庫)

タクシーに乗った男

あらすじ:画廊経営者に「いちばん衝撃的だった絵」についてインタビューしたところ、それは、ある才能のない画家の描いた「タクシーに乗った男」という作品だったと、彼女は語り始めた。

春樹さんはこのあとギリシャに滞在し、イタリアなどに移動しながら「ノルウェイの森」を書き上げるのだが、そのギリシャ行きのきっかけになっている気がする(作中にギリシャの場面が出てくる)。


プールサイド

あらすじ:「35歳になった春、彼は自分がすでに人生の折り返し点を曲がってしまったことを確認した。」

よしてる自身はこの「人生の折り返し点」という考え方にけっこう影響を受けた。

ビリー・ジョエルのアルバム「ナイロン・カーテン」(「閉鎖された鉄工所とヴェトナムの唄が入ったLP」)について、どちらかというとあまり評価をしていないような書き方になっているが、私はこのアルバムはかなり好き。
ナイロン・カーテン

男性が不倫をしている点は、「女のいない男たち」所収の「独立器官」を連想させる。
女のいない男たち (文春文庫)


今は亡き王女のための

あらすじ:「他人の気持を傷つけることが天才的に上手かった」女性と雑魚寝した大学時代の夜と、現在の彼女。

  • 「他人の気持を傷つけることが天才的に上手かった」女性・・・「ノルウェイの森」のピアノの生徒
  • 女性と雑魚寝・・・「海辺のカフカ」のさくら

この作品に限らず、微妙に他の作品の世界と似ていたりつながっている(ように感じてしまう)点がけっこうあるところにマーベル・シネマティック・ユニバースみがある。


嘔吐1979

あらすじ:彼の吐き気は1979年6月4日にはじまり同年の7月14日まで続き、そのあいだ見知らぬ男から毎日電話がかかってきた。

つまらない(少なくとも私はそう感じた)。


雨やどり

あらすじ:雨やどり中に、女性向き月刊誌の編集者としてインタヴューしてくれた女性と再会したが、彼女は2年前の春に会社を辞めたとき休暇をとり、その間彼女はお金をもらってぜんぶで5人の男と寝たと話し始めた。

季節は夏の終わりで、街には夏の終りにふさわしい空気が漂っていた。女の子はみんなよく日焼けしていて、「そんなことはわかっているんだから」という顔をしていた。大粒の雨がアスファルトの道をあっという間に黒く染め、街のほてりをさました。

この文章、リズムも表現も絶妙で、描写も見事で、描かれている情景も大好き。

表現や言葉選びにおかしみがあるのが多めの作品。「三年定期」とか。


野球場

あらすじ:僕に小説を送ってきた青年は、彼が意中の女性の部屋をのぞき見するために引っ越した話を始めた。

青年の小説より、青年の経験したことのほうが興味深いという点について、春樹さんが、春樹さんの自筆原稿を無断で売却していた編集者・安原顯氏が書いた小説についてこう書いていたことを思い出す。

正直言って、とくに面白い小説ではなかった。毒にも薬にもならない、というと言い過ぎかもしれないが、安原顯という人間性がまったくにじみ出ていない小説だった。どうしてこれほど興味深い人物が、これほど興味をかき立てられない小説を書かなくてはならないのだろうと、首をひねったことを記憶している。(「ある編集者の生と死 安原顯氏のこと」文藝春秋2006年4月号から引用)


ハンティング・ナイフ

あらすじ:リゾートビーチで出会った車いすの青年は、深夜、ハンティング・ナイフを取り出して見せた。

この短編集の最高傑作(だとよしてるは強く思う)。

小説にしかできない表現であり主張とは、まさにこういったものをいうのでは。

資本主義社会における「生産しない人たち」。障害者も当然持っているであろう「破壊への衝動」。そういったことを、ほんの少しだけ「生産しない人たち」に思いを巡らせながら、冷徹に描き出している。

おそらく沖縄だと思われるリゾートビーチが舞台で、米軍ヘリコプターも登場するのに、徹頭徹尾静謐さを感じる文章も、逆に凄みを感じる。



関連メモ


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