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外国人に「単身赴任」を説明して気づいたこと

(2021年10月3日更新)

英語の先生(20代後半のアメリカ人男性)からこんな話を聞きました。「日本では家族と離れて転勤させられることがあるらしいね。アメリカだったら人権問題になるよ。」

先生のこの話には合っていることも間違っていることも含まれていたので、きちんと説明をしたいと思い、次のレッスンに以下の文章を書いて持っていき、説明しました。


単身赴任について英語で説明してみた

(先生添削済みの英語原文はマイ英文ブログ ↓ 参照。なお、日本語訳にあたっては内容を一部省略しています。)

日本で「家族と離れての転勤」はどの程度あるものなのか

日本の男性サラリーマン(女性は除く)が「家族と離れての転勤」を経験することはそれほど珍しいことではない。彼らはだいたい3年くらい、次の職務と引き換えに家族から遠く離れて暮らす。

これは日本でどの程度一般的なのか

政府の調査では「有配偶男性の単独世帯」の率は2.5%である*1

しかし、これは私個人の感覚とはいささか異なる。オフィスが日本各地にある企業に勤務する者の実感としては、本社組織なら家族持ちの男性同僚の10~20%、支店組織なら5%くらいが家族と離れて働いている(これを「単身赴任」という)。ちなみに女性の単身赴任者が同僚にいたことはこれまで一度しか経験がない。


Photo by Pawel Janiak on Unsplash


なぜ日本の大企業はそんな異動をさせるのか

実は、企業は「単身赴任しろ」と命令するわけではない。異動先の家族の住まいや引っ越しの費用も企業が用意する。だが、社員のほうが、家族と話し合った結果として、単身赴任を選ぶのだ。彼らは「家族が離ればなれで暮らさないこと」より「子どもたちの学校や友達が変わらないこと」や「教育環境が変わらないこと(たいてい、それは妻の母親がそばに住んでいることを意味する)」のほうが大切だと考えている。

とはいえ、こういうハードな選択は、企業が転居を伴う異動を家族のいる社員に命じなければ起こらないことだ。なぜそんなことをするのか?多くの企業は「本人の能力に最適なポジションを検討した結果」と説明するが、私は明確な理由は聞いたことがない。個人的な意見としては、企業の言い分にも正しい面はあるのかもしれないが、これはコスト(社員と家族の生活の質が落ちること)が非常に大きいことを考えると、合理的とは言い難い。

ひとつの「良い結果」

今月(2020年7月)、日本の著名菓子メーカーが単身赴任をなくすことを決めた*2。テレワーク環境が普及したからである。富士通も単身赴任をテレワークで置き換える決定をした*3。コロナウィルスは世界中に甚大な問題をまき散らしているが、いくつかの良い結果も残している。単身赴任が減ることはそのうちのひとつだと言えるだろう。



(2021年10月3日追記)NTTグループも、2021年9月29日に「2022年度以降、転勤や単身赴任については廃止する方向で検討する」と発表しました*4


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先生が教えてくれた、もうひとつの価値観の違い

先生は、私の英作文を真っ赤に添削しながら、ありがとう、これで二つ知ったことがある、といいます。

命令ではなく選択

ひとつは、単身赴任は命令ではなく社員の選択だということ。「それまでは、会社が「家族と離れて暮らせ」と命令しているのかと思っていた」とのことでした。

まあ、事実上命令といえるような単身赴任ももちろんある、とも説明しておきましたが、先生の誤解がひとつ解けたかなとは思います。

あと、「単身赴任だと夫婦お互いが気が楽という人もいる」とも一例として伝えましたが、「その夫婦って夫婦でいる必要があるのか疑問だね」と予想通りのコメントでした。

もうひとつの価値観の違い

もうひとつは、予想外のものでした。

「アメリカでは、親が転勤するのに、子どもの友達のことなんか考慮に入れないよ。お父さん(お母さん)の新しい仕事場所が決まった、みんなでそこに住むよ、以上、って感じ。」

「そもそも、幼稚園や小学校のときの友達で大人になってもつきあってることってあるかなあ?僕はないよ。友達は、特に子どもの時は、出会って別れてを繰り返していくものだ。」

「まあ、後半は僕個人の価値観だけど、前半はアメリカでは一般的な価値観だと思うよ。」

Photo by note thanun on Unsplash

たしかに、「単身赴任がない(どこで働こうが家族は一緒が当たり前) → 子どもはその度に学校が変わり友達と離れる」となりますね。

この意外な差異に、二人とも「日本は家族より仕事、アメリカは仕事より家族ってイメージがあるけど、少なくともここに関しては逆だね。おもしろい。」と同意し、今月のレッスンは終わりました。


本当に価値観の違いなのか

ただ、レッスン終了後しばらくして、こんなふうにも思いました。


「日本ではアメリカより子どもの友達関係が重視されるのは、学校での友達関係が学校生活に及ぼす影響が、アメリカより大きいからでは?

つまり、学校で友達がいないことや友達をつくることの大変さが、アメリカよりきついのではないか。

さらにいえば、アメリカより日本のほうが、学校で友達はつくるべき、という観念が強いのかも。」


これは、客観的な比較が極めて困難ですし、ちょっと調べてみましたが調査結果ももちろん見つからなかったので、単なる「根拠のない思いつき」に過ぎません。

まあでも、可能性としてはゼロではないかなと思い、書いておきます。



何はともあれ、価値観の違う人たちとのやりとりは、ときに自分自身の価値観や社会の傾向を再発見する機会になりますね。

そしてその違いは、たいていが「おもしろい」。

価値観が違うことでストレスになることももちろんありますが、おもしろいケースもたくさんある。私が英語の先生から教わっているのは、英語だけでなくこのこともだな、と感じています。


関連メモ

この先生に紹介してもらった本。


この先生との会話がきっかけで調べてみたこと。


外国人との価値観の違いについての本を読んで知ったこと。


引用・参照元


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