(2022年9月26日更新)
日本経済。「失われた10年」が「20年」になり「30年」になった、と言われています。
本当にそんなに長い間、日本経済が伸びていないのか。もしそうなら、なぜなのか。それを確認してみます。
日本は本当に伸びていないのか
バブル時代との比較はしない
まず最初に押さえておきたいのは「バブル時代との比較はしない」という点。
たとえば、バブル時代の株式時価総額は、
- 日本の株式時価総額がアメリカの1.5倍、世界の45%だった
- NTTの時価総額がAT&T、IBM、エクソン、GE(ジェネラル・エレクトリック)、GM(ゼネラルモーターズ)を合わせたよりも大きかった
- 野村證券はアメリカの証券会社全体より大きかった*1
・・・という、今では想像もできないような「異常な好調」でした。
なので、この時期と今の日本を比べるのはちょっとナンセンスな気がします。
だから「日本は本当に伸びていないのか」は、諸外国との比較で確認していくことにします。
国際比較:日米の株式時価総額
ちなみに、日本の株価がバブルのピークである1989年の水準にまで戻ったのは、2021年末です。
しかし、アメリカ企業の時価総額合計は、この間になんと12倍になっています*2。
バブル崩壊後、日本の株価がまたバブル期のレベルまで戻るのには時間がかかった。これはまあしょうがないとしても、その間にアメリカ企業の時価総額は12倍になっている。そうなると、やっぱり「日本が伸びていない」というのは本当にそうなんじゃないか?と思えます。
ただ、この場合、GAFAなどを抱えるアメリカの伸びが異常なだけ、という考えもできます。なので、他の指標でも比較していきます。
国際比較:一人当たり名目GDPの推移
他に国際比較ができる指標がないかを探してみたところ「一人当たり名目GDP」がありました。
G7・韓国・中国と日本を比較
以上のように、G7・韓国・中国と日本を比較してみると、次の傾向が読み取れます。
- ほぼ右肩上がりが継続・・・アメリカ、韓国(90年代後半にIMFショックで下がっている時期はある)、中国
- リーマンショック前(2007年ごろ)がピークで、その後は伸び悩み・・・ヨーロッパ、カナダ
- 1995年がピークで、その後は伸び悩み・・・日本
一人当たり名目GDPの比較からは、日本だけが伸び悩んでいるわけではないけれども、30年近く伸び悩み続けているのは残念ながら日本だけ、ということがわかります。
世界ランキングの中の日本
さて、これはG7と韓国・中国とだけの比較です。もう少し視野を広くしてみるとどうでしょうか。
この指標を別の角度から見てみましょう。一人当たり名目GDPの世界ランキングの推移です。
これを見ても、残念なことに、日本の順位が低下し続けていることがわかります。
(補足)経済成長を見るのに名目GDPが適切なのか
ところで、日本の経済成長を国際比較するにあたって、GDPを用いるのが適切なのかという議論があります。
GDPは「一定期間内に国内で新たに生み出された財やサービスの付加価値の総額」のことです。
なので、たとえば、食事を自炊すればGDPは不変ですが、外食するとその分GDPは増えることにもなる*3わけです。なので、GDPは一国の経済状態を表すのに完璧な指標とはいえません。
また、名目GDPは、実質GDPと違って価格上昇の影響を受ける*4ので、その分、経済実態を反映する度合いが低いともいえます。
以上のように、名目GDPは経済指標としては不完全な面もあります。
しかし、一国の「富を生み出した実績」を見ることができる重要な指標ですし、何より、上記の国際比較は「同じ条件で、日本と諸外国を比較したものの推移」なので、名目GDPがどれだけ経済実態を反映しているかという議論が「日本が諸外国に比べ伸びていない」という結論に影響するものではないと考えています。
国際比較:賃金推移
念のため、名目GDP以外の指標も確認しておきます。
名目GDPは「国としてどうか」でしたが、今度は「働き手個人としてどうか」を見てみます。具体的には、賃金の変化です。
約30年、諸外国の賃金は上がっているが、日本は下がっているという、非常に残念なことが示されています。
(アメリカが同じ期間、名目GDPが伸び続けているのに給与がそれほど上がっていなかったりと、興味深いポイントがいくつかありますが、本題からそれるのでこれ以上は追いません)
仮説:労働人口が減っているから?
さて、日本の経済が諸外国と比べて伸びていないということはわかりましたが、これはどうしてなのでしょう。
働く人の割合が減っているから?
最初に思いついたのは、労働人口の比率です。
この30年、少子高齢化が進んでいる。もっとも人口の多い団塊の世代がリタイアしていっている。これによって、日本の人口のうち、働く人が占める割合が減っているのでは・・・
これを確認してみました。
これを見る限りだと、日本の労働力人口比率*6はそんなに減っていません。むしろ2010年代後半にはわずかずつですが右肩上がりになっています。
一方、名目GDPや賃金が伸びているアメリカの労働力人口比率は減っています。
これを見る限りだと、働く人の割合は経済成長に影響がないことになります。
高度成長期はどうだったか
念のため、日本の経済が伸びていた高度成長期はどうだったのかを確認してみましょう。
1955年 | 1970年 | 年平均成長率 | |
---|---|---|---|
実質GDP | 47.2兆円 |
187.9兆円 |
9.6% |
労働力人口 | 4,230万人 |
5,170万人 |
1.3% |
吉川洋「人口と日本経済」(2016年)P.79から引用
実質GDP(経済)の伸びに比べると、労働力人口はほとんど増えてません
ここでも、働く人の人口の割合と経済成長は関係がないことがわかります。もちろん、人口が半分になるとか(日本も2100年ごろにはそうなるという予測もありますが*7)、そういう極端な事態は別とすれば、でしょうが。
結論
以上から、日本がこの30年間経済成長していないのは、人口のせいではないことがわかりました。
では何が原因なのでしょうか。
よく言われるのは、「日本は生産性が低い」という点です。
本当にそうなのでしょうか?
そもそも、生産性って何なのでしょうか。労働者のやる気?てきぱき度合い?体力?それとも企業の「稼ぐ力」?
上記の例はどれも間違いらしいのですが、その理由も含めて、次回以降↓で調べました。
関連メモ
参考文献・注釈
*1:野口悠紀雄「平成はなぜ失敗したのか」P.37
*2:日本の株価が32年前の水準に戻る間に、米企業の時価総額は12倍に(野口 悠紀雄) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)
*3:吉川洋「人口と日本経済」P.145
*6:15歳以上人口に占める労働力人口(15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)の割合。(独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働統計用語解説より)