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音楽産業の規模は映像産業の5分の1にすぎない-出版・音楽・映像・ゲーム・美術市場規模比較

ふと、日本でどれだけのお金が芸術によって稼がれ使われていたのかが気になりました。

で、調べてみると、各分野を比較したデータが見当たりませんでした。なのでまとめてみました。


国内芸術市場規模(2018年)

「芸術」といっても、いろんな定義があると思います。

ここでは、独断で「本・まんが、音楽、映画やテレビ番組、ビデオゲーム、美術」を芸術、とします。(ゲームは芸術かというつっこみがあるかもしれませんが、私の中ではゲームは映画と同様の総合芸術という位置づけです。)

それらの市場規模は次の通りです。

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国内芸術娯楽分野市場規模(2018年)

集計対象は次の通りです。

  • ハードウェア(テレビ、家庭用ゲーム機、アーケードゲーム機等の販売額)は含まない
  • 「新聞」「地上波」「衛星・ケーブル放送」は広告費を含む
  • 「アーケード」はビデオゲームと音楽ゲーム(メダルゲーム等は含まない)のオペレーション額で、マシンの販売額は含まない

出典一覧はこちらにまとめてあります


各分野の比較と感想

上のグラフをつくってみて感じたことを列挙してみます。

音楽産業の規模は映像産業の5分の1にすぎない

個人的には、親族にも友人にも音楽が好きな人が多いこともあり、音楽産業は映像産業よりちょっと少ないくらいかな、と思っていたが、実態はすごく差があった。音楽産業の規模は映像産業のたった5分の1だったのか・・・

市場規模トップ5

(再掲)

地上波放送
2兆9,263億円
新聞
1兆6,619億円
紙書籍
1兆2,921億円
オンラインゲーム
1兆2,361億円
衛星・ケーブル放送
8,700億円


地上波テレビと新聞
  • 地上波放送の圧倒ぶりが目立つ。
    • たしかに、村上春樹の小説を1作も読んでいなかったりビートルズの曲を1曲も(フルで)聴いたことがなかったりする人はむしろ世の中の圧倒的多数派だと思うけど、サザエさんを1話も観たことがないという人はちょっと珍しいかも。
  • トップ2の「地上波放送と新聞」、特徴は2つ(このふたつを「芸術娯楽」の枠に含めることの是非はともかくとして)。
    • 1) ともに広告費が重要な収入になっている点。
      • 特に民放は「完全無料のサブスク(というかsubscription自体も不要だが)」とも言え、ここに挙げた芸術娯楽の各分野の中でも他に類を見ない。
      • テレビコンテンツのおもしろさ・わかりやすさだけでなく、この点もこの市場規模圧倒ぶりの理由のひとつかも。
    • 2) もうひとつは、基本日々更新され、毎日接することを想定してつくられている、という点。
オンラインゲーム
  • トップ5の中で20世紀には一般化していなかった唯一の分野がオンラインゲーム。短期間で紙の本と同レベル、映画興行の5倍、CD・レコードの8倍にまで成長している。ここまで大きくなっているとは思わなかった。
    • ここにもスマートフォン普及の影響がうかがえる。
    • 芸術娯楽市場は「可処分所得と可処分時間の奪い合い」と言われるが、オンラインゲームはその両方を既存分野から効果的に「奪っている」のかもしれない。



個人的な感想

音楽
  • CD・レコード市場は縮小の一途とは聞くが、ここまでになっていたとは。
    • ちなみにピークは1998年で6,074億円*1。約20年で1/4になっている。
  • 音楽ライブと舞台の金額はチケット代だけでグッズ売り上げが含まれていない(データを見つけられませんでした)が、含めるとけっこうな額になっていそう。
    • 実際、美術界では入場料とグッズカタログの額がほぼ同じ。
    • それにグッズは利益率が非常に高いとも聞く。Tシャツとかは特にそうかも。
配信系
  • 映像配信は逆に思ったよりも規模が小さい。
    • 映画興行とほぼ同額、衛星・ケーブル放送の1/4以下か。
    • これは2018年のデータだから、もちろんこれからまだまだ伸びていくだろう。特にコロナ禍によるプラスの影響は大きそう。
  • 「電子・配信系」、つまり電子書籍、音楽配信、映像配信、オンラインゲームについては、オンラインゲームは別格として、その次が電子書籍というのが少し意外。
    • 映像配信のほうが大きいと思っていた。
    • が、映像配信は定額のものも多い一方で、電子でまんがを読み始めるとあっという間にNetflixの月額料金くらいは超えてしまうので、わかる気もする。
アーケードゲーム(ゲームセンターのテレビゲーム)
  • アーケードゲームが稼ぐ額がゲームソフトの1/3の規模というのは、けっこう頑張っているという印象。
    • アーケードゲームもピークの1995年には2,500億円規模だった。約30年で約1/3になっている*2。そんな中でのことなので。
美術
  • 美術館入場料等の額は思ったより小さい気がするが、音楽ライブ等に比べてのチケット料金の安さを考えるとこんなものかとも思う。
  • 美術品は映画興行より市場規模が大きいのか。知り合いに映画を観た人はいても美術品を買った人はほとんどいない気がするが、単価がまったく違うということなんだろうな・・・



いろいろ書きましたが、今一番気になるのは、コロナ禍でこれがどう変わるのか、ですね。

プラスの影響、マイナスの影響の差が分野によって大きく違いそうです。データが出そろった時点で比べてみたいと思います。

続き:





出典一覧


関連メモ

出版とCDの売り上げがピークを迎えた1996~1998年は、日本社会の他の様々な面が変化した節目の年でもありました。


日本の出版市場のうち約1/3はコミックによるものです。2019年の売上は年間約5,000億円*3。そんな「産業」が日本だけで発展した理由を歴史社会学者が分析しています。

注釈


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