(2024年8月24日 人口・GDPデータを中心に全般的に更新)
北欧の国って、どれもよく似ている気がします。でも、調べてみるとやっぱりそれぞれ違いもあることがわかりました。
どういう点が違っていて、どういう点は似ているのか。日本とも比較しながら、グラフなどを使って整理してみました。
なお、「北欧」がどこまでを指すのかはいろいろですが、ここでは北欧理事会の加盟国5か国、つまりアイスランド、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、フィンランドを対象にします。
位置関係
まず、北欧諸国の位置関係から確認します。
Wikipediaから。よしてるが赤線を追加。グリーンランド(デンマーク自治領、面積は日本の約6倍)、スピッツベルゲン島(ノルウェー領、面積は九州とほぼ同じ)など一部の島は含まれていない。
アイスランドが離れていて、他の4か国は接近していますね。
私のもともとのイメージでは、アイスランドがこんなに離れていて英国にも近いとは思っていなかったので少し意外でした。
ここから先は、「北欧諸国がそれぞれ違っている点」を挙げていきます。
人口
右記出典をもとによしてるが作成:外務省(確認日:2024年8月24日)
アイスランドが極端に少なく(日本の地方都市レベルですね)、スウェーデンが飛び抜けて多い(それでも日本の10分の1以下)。他の3国は似ているけど、日本の大きな県程度。
なので整理すると「デンマーク、ノルウェー、フィンランドは似たような人口だけどスウェーデンとアイスランドはかなり違う」ということになります。
面積のグラフとあわせると、デンマークの人口密度は他国に比べてかなり高いということもわかります。
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一人当たり名目GDP
右記出典をもとによしてるが作成:世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング - 世界経済のネタ帳、IMF World Economic Outlook Database List, information about Gross Domestic Product (GDP)(2023年)
一人当たりGDPは、北欧5か国すべてが世界ランキングの上位に位置しており、3国はベストテン入りまでしています。
(なお、2023年時点で、日本は33,385USドルで32位、1位は129,810ドルのルクセンブルグ、2位はアイルランドです。)
その中でノルウェーはなぜ特に一人当たりGDPが高いのでしょうか。
ノルウェーが特に豊かな理由
それは油田です。北海とバレンツ海の油田がノルウェーの経済を豊かにしているのです。
1965年、ノルウェー、デンマーク、イギリスの間で北海の大陸棚の分割について協議されましたが、その時にノルウェーが有利な条件を勝ち取ったのがきっかけです。
なぜノルウェーが有利になったのか?いろんな説がありますが、デンマークとイギリスは、当時北海で油田が見つかるとは、そして見つかったとしても採掘できるとは本気で思っていなかった、ともいわれています。
この富からくるノルウェーの現状(2014年ごろ)は以下です。
- 世界最大の政府系投資ファンドがある
- 運用利回りのうち国内で使う額は年間4%のみ、残りはすべて海外の投資に回している
- 結果、世界の上場企業の株式の1%以上を保有している
- 石油ブーム後、ノルウェーの年間労働時間は23%減少
- 労働年齢にある国民の約1/3が国からの給付金で生活
- 障害手当、失業手当、疾病手当を受けている人数の人口比はヨーロッパ最多
出典:マイケル・ブース「限りなく完璧に近い人々」(原著は2014年発行)
ノルウェーは、石油で得た富をかなり賢明に運用してはいるけど、結果的に働く人が減っている、ということになります。
スウェーデン
一方、北欧5か国の中で工業生産高トップなのはスウェーデンです。
IKEA、ボルボ、H&M、エリクソン(通信機器)、テトラパック(世界最大の食品パッケージ会社)など、日本でも知られているスウェーデン発祥の会社もいくつもあります。
スウェーデンがなぜ工業が盛んになったのか。いろんな理由があると思われますが、その一因は後述します。
歴史
右記出典をもとによしてるが作成:Microsoftエンカルタ2002
一時期は北欧5か国すべてをデンマークが直接的または間接的に支配していた時期があったのですね。そしてその後スウェーデンが力をつけた。残りの3国が独立したのは20世紀に入ってからなのですね。
EU関連
- EU加盟国:デンマーク、スウェーデン、フィンランド
- EU非加盟国:アイスランド、ノルウェー
- ユーロ導入国:フィンランドのみ
このEU関連の受け入れについては、北欧5カ国はそれぞれ独自の道を歩んでいますね。
フィンランドだけがEU参加に積極的な理由は後述します。
第二次世界大戦時
第二次世界大戦時も、各国で状況は違いました。
- アイスランド:イギリスに占領される(当時デンマークの支配下にあったが、そのデンマークがナチスドイツに占領されたことから)
- ノルウェー:ナチスドイツに占領される
- デンマーク:ナチスドイツに占領される
- スウェーデン:非同盟・中立政策
- フィンランド:ソ連と戦い休戦に持ち込む
スウェーデンだけがうまく立ち回ったという感じです。
よしてるが思ったのは、これは地理的特性にもよるのかもしれないなということです。
アイスランドはイギリスに近いし、フィンランドはソ連に、デンマークはドイツに接しています。このことが各国の状況をかなり左右したのでは、と考えています。
歴史が及ぼす影響
上記のような歴史の違いが、次のような各国の「違い」を生み出しているようです。
- スウェーデン:
- 第二次世界大戦中、中立国としてナチスドイツやイギリスに原材料を供給し経済的に潤った
- かつて自国の領土だったフィンランドがソ連と戦っている間も特にフィンランドを支援しなかった上、フィンランドを支援しようとした国際連盟や連合軍を阻んだ。
- フィンランド:
- 1918年の内戦で、国内でロシア派(共産主義)と反ロシア派が分かれ戦った(結果は反ロシア派の勝利)。今でも田舎ではどの家族がどちら側だったかがわかるくらいの影響が残っている。
- 1939年にもソ連軍120万人に対し20万人で戦った。
- 戦後も、ソ連に侵略されずにはすんだが、ソ連から「ホーム・ロシアン」という制度を押しつけられた。これは、フィンランドの政治家全員にソ連の外交官が担当としてつき、家族ぐるみのつきあいをさせられる制度。
出典:マイケル・ブース「限りなく完璧に近い人々」
スウェーデンの工業が発展し、石油で潤うノルウェー以外でトップの経済力を持つようになったきっかけの一つは、第二次世界大戦中に中立の立場で儲けたことがきっかけのようです。
また、フィンランドが北欧5か国中唯一ユーロを導入するなど他国との結びつきに積極的なのは、ソ連という大国一国に翻弄された経験から、より大きな連合に加盟し自国を守るという考えが国民に浸透しているのからではないでしょうか。
その他
その他、引き続き「限りなく完璧に近い人々」から、北欧諸国の違いをリストアップしてみます。著者マイケル・ブース氏の主観も含まれていますが、ひとつの見方としてご紹介します。
ノルウェー
- ノルウェー人は特に自然が好きで「フェリーに載せたカメラが6日間風景だけを映すテレビ番組」を国民の半分が観た。
デンマーク
- デンマーク社会の原動力は「ヒュゲ」と「フォルケリ」
- ヒュゲ:デンマーク独特の親密性や仲の良さを表す。一見和気あいあいとしているが実は厳密な行動規範を持つ
- フォルケリ:ブース氏曰く「ビアガーデンで演奏されるディキシーランドジャズ的な押しつけがましいお祭り騒ぎ」
- デンマーク人はあらゆる社会的行事で国旗を掲揚する。結婚記念日や葬式でも。これも「フォルケリ」のひとつ。
- ルールや法を破った公人にも寛大。一例として、ドーピングを何年もしていたスポーツ選手も引き続き活躍している(ツール・ド・フランス優勝者ビャーネ・リース)
スウェーデン
- 失業率、特に若者のそれが他の北欧諸国より高い(約30%)
- 1972年から2013年まで、トランスジェンダーに対し不妊手術を義務づけていた(参考:不妊手術強制されたトランスセクシュアルに賠償の方針、スウェーデン 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News)
フィンランド
- フィンランド人と日本人は似ていると言われる。両者ともボディランゲージをほとんど使わず(よしてるは日本人がそうだとは思いませんが)、聞き上手であり、対立を好まない。しかしその日本人でさえフィンランド人の率直さやぶっきらぼうさには驚く。
- 国民の同質性が極めて高い(移民は人口の2.5%のみ)
- フィンランド人は危機的状況において頼りになる(ブース氏の取材時の録音機器トラブルがあったときなどもすぐに代替機を用意した等)
- 北欧諸国の中では最も自殺率が高い
- 飲酒が社会問題化しており、男性の死因トップがアルコール(よしてる注:本当かなと思ってデータを探しましたが、フィンランドの死因に関するデータは見つけられませんでした)
- OECD諸国の中で学力がトップレベルであるだけでなく、学校間の格差が極めて小さい。(よしてる注:東京大学大学院教育学研究科・教育学部の記事によると、学校間格差はOECD平均33.6に対してフィンランド3.9、日本は62.1)
その他
- フィンランドにはサンタクロースの住所があり、そこには世界中の子どもたちから実際に手紙が届くが、デンマークからは届かない。デンマークはサンタクロースが自国にいると考えているから。
- ノルウェー、デンマーク、スウェーデンの国民はお互いの言葉をおおよそ理解できるが、アイスランド語とフィンランド語は異なる。
以上、北欧諸国の異なる点を、各種統計データと「限りなく完璧に近い人々」をもとに整理してみました。
ここから先は、「北欧諸国が似ている点」を挙げていきます。
国旗
まず、北欧諸国が似ていると思う筆頭は国旗ですね。どれも同じ「スカンジナビア十字」が使われています。
左からアイスランド、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、フィンランド
似ている理由は、すべてがデンマークの国旗をもとにしているからです。
なぜそうなったのかは、前述の歴史からもわかりますね。もともと、北欧5か国全てがデンマークだった時期があったので、各国がデンマークの国旗をもとにして自国の国旗を制定したわけです。
支配されていた国には、独立するとき「支配していた国の国旗を真似るなんてとんでもない」と感じる国民がたくさんいてもいいように思えますが、北欧ではそうではなかったようです。
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税率
高い税率も共通点ですね。
消費税(付加価値税)率
消費税(付加価値税)率の国際比較
出典:http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/102.htm
これを見ると、北欧5カ国はすべて25%または24%のどちらかですね。デンマークを除けば軽減税率も導入されていますが、それでも日本よりかなり高い負担となっています。
国民負担率
消費税だけでなく、「国内で新たに生み出された商品やサービスの付加価値のうち、どれほどが国全体を支えるために徴収されているか」はどうでしょうか。
これを「国民負担率」といいます。税金だけでなく年金保険料や健康保険料なども含めた徴収率です。
北欧諸国と日本を比べてみます。
- デンマーク 66.2%
- フィンランド 61.5%
- スウェーデン 56.4%
- ノルウェー 54.0%
- (日本 44.4%)
国民負担率の国際比較(OECD加盟36カ国)(2019年)
出典:財務省 国民負担率の国際比較(OECD加盟36カ国)
北欧諸国は軒並み日本より高いですね。その分、年金や健康保険のサポートも手厚いのです(基本的に医療費は無料)。
ノルウェーがやや低めですが、ノルウェーは前述した石油の力がここに出ているのかもしれません。
なお、なぜこのような「高福祉高負担」が国民に受け入れられているのかについては、以下のメモで整理しています。
幸福度ランキング(2015~17年調査結果)
- ノルウェー(7.537)
- デンマーク(7.522)
- アイスランド(7.504)
- スイス(7.494)
- フィンランド(7.469)
- オランダ(7.377)
- カナダ(7.316)
- ニュージーランド(7.316)
- オーストラリア(7.284)
- スウェーデン(7.284)
World Happiness Report 2018 | The World Happiness Report
北欧諸国が幸福度ランキングの常連というのはよく知られていますが、こうしてみると見事といってよい結果ですね。
もちろん、こういった調査は調査方法や国民の傾向(幸せかどうかと訊かれて、堂々とそうだと回答する人が多い国と、控えめに答える人が多い国の差はあるように思う)によって変わってくるものですし、別の調査ではまた違う結果も出ているようですが、それでも。
北欧諸国のこの「強さ」の理由は、別の機会に調べてみたいところです。
(前述の「限りなく完璧に近い人々」の副題は「なぜ北欧の暮らしは世界一幸せなのか?」なのですが、この本ではその理由は明確には記されていませんでした。ただし、北欧5か国についての取材・考察は大変興味深く、参考になります。)
感じたこと
これまでは、北欧諸国ってどれも似ていて、国旗からして「なんで別々の国になる必要があるの?」と思っていたくらいでしたが、今回調べてみて、「実は昔はひとつの国だった」「その後、それぞれ違いがあり、独自の道を歩むようになっていっている」ことがわかりました。
そしてその理由は、究極的には、地理的要因が大きいのかもしれないなと考えているところです。
関連メモ
北欧諸国の特徴である「高福祉・高負担」。その実態と、それが実現できている理由。
フィンランドのある地域の歴史事情が、アレルギーの研究に活用された例。
世界の各地域の発展の差が地理的要因によるものであることを論証した本。