本
D.H.ロレンス「チャタレー夫人の恋人」
古典新訳文庫。
どうしても「古典」「わいせつ物頒布罪」のイメージが先行してしまう作品ですが、読んでみて、現代でも(こそ)価値のある人間性と生命の賛歌だと受け取りました。「子宮」という言葉が頻出することからもそう感じます。
そして恋人の森番メラーズ、粗野で無教養で毛深く屈強な男と思ってたら全く逆で、やはり本物に触れるまえの偏見はよくないな、ジョージ・マイケルじゃないけどRead without Prejudiceってことだなと改めて思いました。
木村正則さんの訳と解説にも感謝しています。加えて、木村さんの次のインタビューを読んで、どうやら年齢も好きな映画も似ているようで、勝手に親近感もわいてきました。
大学では恩師としてもう一人、この古典新訳文庫で『嵐が丘』を訳された小野寺健先生がおられます。たくさんのことを教えていただいた小野寺先生ですが、その授業で映画『眺めのいい部屋』(監督・ジェイムズ・アイヴォリー)のビデオを見る機会を与えて下さったことにはとても感謝しています。80年代中期、この作品や『モーリス』(監督・ジェイムズ・アイヴォリー)など、イギリス映画がブームになっていた時期でした。『眺めのいい部屋』は、とてもいい作品で、原作がE・M・フォースターの小説ということもあり、これをきっかけに僕はイギリス文学にのめり込んでいきます。
〈あとがきのあとがき〉D・H・ロレンスの速さと荒さ、その異質性 『チャタレー夫人の恋人』の訳者・ 木村政則さんに聞くより
アガサ・クリスティー「春にして君を離れ」
鴻上尚史さんのこの記事がきっかけで読んでみました。
「友人に絶交されました…」 鴻上尚史が指摘する原因“無意識の優越感”とは (1/7) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)
『春にして君を離れ』という作品です。クリスティーですが、ミステリーではありません。完璧な母親だと思っていた女性が、旅の途中、ふと自分と娘達との関係、夫との関係に疑問を持つ話です。
人が殺されるわけでもないのにかなり「怖い」反面、励みにもなる、非常に強い力をもった小説です。
この「完璧な母親だと思っていた女性」ジョアンが主人公なのですが、どうやら私と同い年らしい。こういう偶然もあって「主人公が自分の人生を疑う」というストーリーがより身近に、現実性をもって迫ってきました。
感じたこと(読了された方を念頭に置いています):
- 登場人物のそれぞれの生き方は人生選択のカタログみたい
- レスリーに一番共感したが、同じように生きるのは難しい
- ジョアンも悪人というよりは怖がりなのではないか。映画「 バトル・ロワイアル」の毒殺少女の心境に近いものがあるのかも
- 人生も折り返し点を過ぎると路線変更は難しいのは事実。だからこそこういう作品の意義も高まる
文庫本にある栗本薫さんの解説も、ご自身の経験からくる切実な内容で、この作品が特にジョアンのような親と暮らした人々にどれほど強い力をもつのかを教えてくれます。
音楽
The Beatles "Abbey Road"のカッティングマスターテープ
新しく出会えた音楽をここに挙げられないのは残念ですが、親しんでいる音楽の新しい側面を見せてもらえたのとその衝撃の大きさという点でいうと、近年ちょっとない経験でした。
映画
五つの銅貨
そもそもレッド・ニコルズを知らなったのですが、友人に薦められて観ました。
俳優たちのあふれる魅力が光り輝いていました。ダニー・ケイの軽快さと陽気さ。サッチモの太陽のような笑顔(レコードジャケットだけじゃないんですね)。
そして音楽の素晴らしさ。音源はレッド・ニコルズのオリジナル。この時代の音楽には興味なかったのに聞きほれました。特にあの三重奏のシーンは何度も繰り返し愉しませてもらいました。
ミュージカルって突然歌いだすから苦手なんですが、これは全く違和感がないですね。そういうところもよかった。
イエスタデイ
最初に一人で観た時も二度落涙しましたが、その後友人たちと語り合ってさらに魅力が増しました。
全裸監督
配信が始まってすぐ観ました。
最初は2時間1話完結くらいのボリュームを想像していたのですが、実際は約50分×8話。でも第1話のあとやめることができなくてほぼ一気見。
お金と情熱を注ぐといいものができる、ということを痛感した作品でもあります。最初はセットや映像を見て「お金かけてるなあ」と驚嘆していたのですが、それだけではないのです。視聴後、次のインタビューを読んで、撮影に時間をかけ役者さんたちに余裕を持たせるという点でもお金をかけたことがわかり深く納得した次第です。
Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』主演・山田孝之インタビュー | Cinema Art Online [シネマアートオンライン]
search/サーチ
全編がPC画面上で展開、という設定も興味深いですが、それ抜きでも十分どきどきし驚かされました。
美術
リンダ マッカートニー:ザ ポラロイド ダイアリーズ
ポール以外の写真にむしろ惹かれました。家族や自然。そしてポラロイドの味わい。
何よりリンダの人間性が伝わってきました。他の誰の写真とも違う、見てすぐにわかる感触は、そこから来ているのかもしれません。
会場での、無料で自分とリンダ作品のコラージュポラロイドを撮ってもらえるサービスもうれしかったですし、意義のある企画だと感じました。
旅行
大和三山
すべて歩いてまわったのは少し無謀でしたが(三山間の移動は自転車がいいかも)、三山それぞれをこの足で上って、単なるハイキングとは違った感覚があったのはたしかです。
ヨドコウ迎賓館
今年は阪神間モダニズム建築を眺めに散策に出る、という週末が多かったのですが、別格なのがこちらでした。夜間特別公開にも行けて幸運でした。
ゲーム
ただでさえ貴重な機会でしたが、かつてこのゲームにときめいていたころの自分と同じ年代の息子と一緒に行けて、ますます貴重な機会になりました。
食・酒
伊勢廣(東京・京橋)
今までにいただいた焼鳥丼の中で間違いなく最高。
ということで今年の数少ない東京出張時に2回いただいたのですが、その後小沢健二さんの「SONGS」がこのお店で収録されていてびっくり。最初は気づかなかったのですが、ひょっとして・・・と思って調べてみたらそうでした。
東京駅のすぐ近くにあるとは思えない風情も貴重です。
バー・ロッキングチェア(京都・河原町の南)
実に素晴らしいバーでした。友人に教えてもらいました。
雰囲気、内装、ホスピタリティ、音楽(無伴奏チェロとモーツァルトのディベルディメント、しかも楽章順再生)、グラス、そして何よりオーダーメイドカクテル(上の写真)のおいしかったこと。
かなりの賑わいでしたが、そら人気もあるやろな、と納得するしかなかったです。
公式サイト:Bar Rocking chair