庭を歩いてメモをとる

おもしろいことや気になることのメモをとっています。

放送大学「ビートルズde英文法」6~10 なぜWhen I'm 64であってWhen I'll be 64ではないのか

放送大学の「ビートルズde英文法」第6回~第10回を聴いて学んだことのメモです。

過去の講義のメモはこちらです。

Session 6 Ob-La-Di, Ob-La-Da

冒頭、大橋先生が「永遠のビートルズ少女と言われていた」とはにかみながら自己紹介。この講義での生き生きした英語を聴くと、過去形にする必要はないんじゃないかなと思いました。

さて、この講義で使われている"Ob-La-Di, Ob-La-da"はモノラルバージョン!(イントロのハンドクラップがない)こだわりを感じていいですね。

ちなみにAnthology 3に収録されているコンガバージョンも流れます。

barrow

この歌では「物売りが路上で使う手押し車」という意味で使われていますが、これはイギリスでの用法。アメリカでは「工事現場でセメントなどを入れて運ぶ手押し車」の意味になります。

カリブ圏の英語のアクセント

佐藤先生曰く、この歌の英語のアクセントはカリブ圏の英語っぽいとのことです。例えば"market place"。他にも"I like your face"の箇所も。

中野先生も、この歌での"market place"には裏拍感覚がある、とおっしゃっています。

標準的な英語だと、market placeは強弱弱。でもこの歌では弱強強、だからなのですね。

こういった、歌詞とアクセントやリズムの関係について学べる箇所は、この講義の醍醐味のひとつです。

そうそう、この歌の歩格(詳細は前回のメモ参照)はトロケイックだそうです。

トロケイック:弱 (Des-mond has a bar- row in the mar- ket place )

 

Session 7 You're going to Lose That Girl / When I'm 64

冒頭、このタイトルの邦題についてつっこみが。原題は「君はあの娘を失うだろうよ」という意味だけど、その娘を奪おうとしているのは自分(Youに語りかけている。)。だから邦題の「恋のアドバイス」は微妙、というお話。たしかにそうですね。アドバイスちゃうやろ、という。

ネクサスを使う

ネクサスとは?1920年代にデンマークの言語学者が提唱した概念で「文中のすべての動詞に主語がある」という考えをもとにしているのだそうです。

具体例を挙げます。

"you're gonna find her gone"のher goneは、文で示せばShe is gone.となる関係で結ばれています。

こういう"her gone"のような、主従関係を含む句のことを文法用語でネクサス (nexus) というそうです。

こういう概念があること自体知らなかったなあ。

このネクサスをとる動詞には、他にkeep, leave, makeなどがあります。

なぜWhen I'm 64であってWhen I'll be 64ではないのか

「僕が64歳になったら」という意味なら未来の話。なぜwillを使わないのか?

これには明確な理由があります。

  • willは現在の意志や推量を表す。
  • 一方、この時の「64歳になったら」は事実としてなるのであって、自分がなろうとしてなるのではない。
  • また、64歳になるときは必ずなるので、推量することでもない。
  • だからWhen I'll be 64.にはならない。

「こうするとき」「こうなるとき」という副詞句は現在時制で、と覚えておくといい、というアドバイスもありました。

ちなみにこの曲のスタジオ演奏では大橋先生のファゴットも披露されていました。英語の専門家が本職とは違った特技を総動員してこの講義を楽しいものにしようとするこの雰囲気そのものが楽しい。

最後に佐藤先生が「英語は生活の道具というより、生活そのもの。だから楽しい方が身に付きます」とおっしゃっていました。この講義は、この考えに支えられているということを実感しています。

Session 8 Norwegian Wood

"Norwegian Wood"が何を指すのか問題

この歌の歌詞といえばまずこの問題。

講義では、この歌が出た当時にはやっていた「アパートなどの壁に使われた木材のパネリング」が挙げられています。ポールがJackson, Andrew (2015). 1965: The Most Revolutionary Year in Musicでそう説明しているのだそうです。
1965: The Most Revolutionary Year in Music

参考:Google画像検索"Norwegian Wood pine wall"

なおテキストでは、村上春樹さんによるエッセイ「ノルウェイの木を見て森を見ず」(「雑文集」収録)の内容も紹介されています。この曲のオリジナルタイトルがKnowing She Would"(彼女がその気だと知って)だったということも。

to不定詞の多機能さ

to不定詞の説明では、この歌の他に"To Know her is to Love Her"も使われています。もちろん流れるのはビートルズバージョン(BBC出演時)です。

toはもともと方向を表す言葉で、それは不定詞になっても残っていることが多い(例:I crawled off to sleep in the bath.)しかし、この"to know her"や"to love her"ではそれはなくなっていて、動詞を「動詞ではない存在にする」(この場合は名詞化する)役割になっている。そういう説明でした。

to不定詞はいろんな用法があるので、文法の授業などでは難しそうに感じたものですが、「動詞ではない存在にする」という理解ならシンプルですね。

Session 9 I'll Follow the Sun

英語学習に向いた曲

この歌が題材になっているのを知った時は、ちょっと地味目だけどなぜ?と思ったものですが、佐藤先生ははっきり「英語学習に向いている」とおっしゃっています。

恋人と別れることを決めてこれからこうする、という内容なので「これからのこと」や「すでに起こったこと」をどう英語で表現するのかを学べるから、とのこと。なるほど。たしかにこの歌には過去、現在完了、現在、未来のすべてが出てきますね。

現在完了形でhaveを用いる理由

佐藤先生は、完了形で使うhaveと、持っているという意味の動詞のhaveの意味上の関係について述べておられました。

過去に起こったことはもう変えられないから手元にあるのと同じ、と考えれば、現在完了形にhaveを使うことにもつながるのでは、とのことでした。「完了した状態を有している」というわけですね。

"The Long and Winding Road"の完了形についてもこの講義では語られていて、「独りぼっちだったこと」「泣いたこと」「トライしたこと」が完了形になっているのはそれを今もひきずっているから・・・との解説でしたが、この「起こったことを今も所有している」という感覚で改めてこの歌詞を読んでみると、当時のポールの想いがよりダイレクトに感じられます。

この講義を通じて英語への理解を深めることはもちろん、こうしてビートルズの歌詞への理解が深まるのも、実にありがたい。

Session 10 No reply

テキストP.119の誤植の説明がありました。歌詞"I tried to telephone, They said you were not home"のTheyがYouになっている版は訂正が必要です。

知覚動詞とネクサス

いきなりNo Replyとは違う歌に基づく解説ですが、こんな指摘がありました。

  • "I saw her standing there"(ネクサス使用)・・・「そこに立っている彼女を自分が直接見た」
  • "I saw that she was standing there"・・・「彼女がそこに立っているという事実がわかった」

このあたりも、歌詞の感覚を理解するうえで大きな助けになりそうです。

副詞と名詞

"'Cause you walked hand in hand"のhandは、本来名詞ならa hand / the hand / a few hands / her handなど、単数複数が区別されますが、この歌詞にもあるように、副詞句として使われる場合は単数複数を区別せず、冠詞もつけない単なるhandになります。

そう言われてみればそうですね。これで、最初にon foot(歩いて)というフレーズを習ったとき、なぜon feetではないの?二本の足で歩くのに・・・と思ってそのままにしていたことを思い出しました。

まさに「英語学び直し講座」にふさわしい学びでした。

ところでこの回は、テキストのエクササイズに「ジョンと一緒に強く歌いなさい」という指示があるんですよね。こういうところがいいんです。

f:id:yositeru:20210613144439j:plain
佐藤良明「ビートルズ de 英文法」放送大学教育振興会 P.126から引用


つづきのメモ


ビートルズde英文法 第1回から読む


講義テキスト


これまで講義のメモ

この講義の聴き方、概要、先生方についてと、第1回で学んだことについて。

第2回から第5回。他の英語の講義ではあまり聞かれない「歩格」と、英語とは別に"Because"にいかに音楽的な独創性があるか、等。

関連メモ



よしてるの英文ブログ


(広告)