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ポール・マッカートニーの歌詞からの新しい発見 - 「ビートルズ・ソロ作品読解ガイド」

ポール・マッカートニーの歌詞について、以前から「これはどういう意味なんだろう」と思っていたことや、そもそも不思議に思うことすらなかったことの本来の意味をこの本から学ぶことができました。

ビートルズ・ソロ作品読解ガイド(3)

ビートルズ・ソロ作品読解ガイド(3)

  • 作者:秋山 直樹
  • 発売日: 2015/10/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
ビートルズ・ソロ作品読解ガイド (4) (MyISBN - デザインエッグ社)

ビートルズ・ソロ作品読解ガイド (4) (MyISBN - デザインエッグ社)

  • 作者:秋山 直樹
  • 発売日: 2021/01/05
  • メディア: オンデマンド (ペーパーバック)


翻訳者の秋山直樹さんが、元ビートル4人のソロ曲の歌詞を、シングルB面も含め(←ここが非常に大事)時系列で取り上げ解説。

CD対訳の誤訳の指摘から歌詞に含まれる文化的な背景まで含めた詳細な解説は、英語について詳しくない私が読んでも非常に興味深いものでした。

具体的にどんなところについてそう感じたのかをご紹介します。


「ビートルズ・ソロ作品読解ガイド(3)」

こちらは1977年秋~1985年末までのソロ作品が対象。

Daytime Nightime Suffering

歌詞:Musixmatch - Song Lyrics and Translations

シングルB面曲ながら、ポール自ら「特に気に入ってる」「女性賛歌」と述べ*1、ベスト盤"Wingspan"にも収録されたこの曲。私も大のお気に入りです(ベスト30↓にも投票しました)。

でも歌詞で気になることがありました。前から、"River"ってなんなんだろうと思っていたんですよね。ポールが"Come on, River"と呼びかける相手は一体誰なのか。

"Let your love for your people"(you = river)という箇所から、これは神様なのかな、でもポールはそんなに簡単に神を引き合いに出さない気もするし、とぐるぐるしていました。

本書ではこれを、「人間社会だと考える。」とのこと。

なるほど。これはしっくりきます。大きな流れであり、一つの方向に進み、簡単には変えられないが、流れが変わることもある。大きな川と人間社会はそういう点が共通しています。納得です。

"River"が力強い女性では?という解釈についても考察があります。

その場合は「"Mighty river, give her all she gets"を無視しなければならない」と矛盾が生じることを指摘しています。これも納得。

ではもう一つ、個人的に知りたかった"No less, No more / No sea, No shore / No sand, No pail"についてはどうか。

この部分は、著者の秋山さんは「正直なところ、私には読み方がわからない。」と率直に書かれています。

こういった点も、本書の信頼性を増しています(私には、本書で記載されている英文法や用法についての記述の正確性を確認できるだけの知識がありませんので、こういった記述の姿勢から信頼性を読み取ろうとしています。)。

あと、"the ladder of regret"は"the ladder of success"(出世の階段)のもじりという指摘も。

これはまったく気づいていませんでした。歌詞には女性が仕事での評価でも不利益をこうむっていることを示唆する箇所 "the games she entered with little chance of much success"もあるので、ポールはきっとこのもじりを、女性がdaytime nighttime sufferingされている現実を皮肉って使ったのでしょう。勉強になるなあ。


「ビートルズ・ソロ作品読解ガイド(4)」

こちらは1986年~1996年までのソロ作品が対象。

Loveliest Thing

このthingが女性であるということは、何の疑いもなく私もそう思っていました。

が、よく考えると、その理由は、ポールが男性だから、というくらいのもの。つまりほとんど根拠レス、なんとなくそう思っていただけだったのです。

一方、本書はきちんとした理由を挙げています。thingが人について使われるとき、それは「女か子どもが通例」なのだそうです。

これを知って連想したのが映画"Mad Max: Fury Road”。

武装集団の首領イモータン・ジョーの「子産み女」として囲われていた女性たちが脱走した際に壁に残した書き置きは"WE ARE NOT THINGS"でした。

もちろん「私たちはモノじゃない」という文字通りの意味なのですが、加えて、英語における「thing=女用法」についての批判にもなっているというわけですね。ポールと本書のおかげで映画の理解まで深まりました。

Soggy Noodle

これも前からちょっと気になっていたタイトルです。

「のびた麺」。まあほんとにそんな感じのインストナンバーですが、だとするとnoodlesではないのか。

ふつう、麺は複数で表記します。カップヌードルも海外では複数形です。参考:カップヌードルは海外では複数形? | 金融財務研究会・経営調査研究会

本書でも同じ疑問がぶつけられていました。

「ふやけた麺」にしては、単数形であることが不自然。「しまりのない間抜け」の意味としても、マッカートニーのユーモアとウィットのレベルではない。

そこで著者の秋山さんがOxford Dictionary of English (2nd Edition)をあたったところ、noodleに「楽器を即興で奏する」という意味があるということがわかったそうです。

noodleはダブルミーニングだったのです。これも勉強になったなあ。

結び

このように、読み進めるごとに新しい、時には予想もしていなかった学びと発見のある本書。

上記のご紹介した箇所の他には、解釈にちょっと性的な意味に結び付ける内容が目立ちますが、少なくとも、そういう解釈も可能ということもまた学びのひとつかと思います。

まだ読み始めたばかりなので、これからがとても楽しみです。ポールのソロだけでなく、ジョン、ジョージ、リンゴのソロ作品についてもっと深く知りたいときの有益なガイドになってくれそうな本です。


関連メモ



注釈

*1:「ビートルズ/レコーディング・セッション」収録のインタビューにて


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