放送大学の「ビートルズde英文法」第2回~第5回を聴いて学んだことのメモです。
この講義の聴き方、概要、先生方についてと、第1回で学んだことについてはこちらをご覧ください。
Session 2 Do You Want to Know a Secret?
シンタクス(syntax)、「単語が結びついて文をなすときのきまり*1」について。
例文: Can I bring my friend to tea? / ぼくが友だちをお茶へ連れていっていい?*2
- 日本語では「が」「を」「へ」が重要な役割を果たしている
- 一方、英語は「が」や「を」を言わない。何が主語で、何が目的語か。それは動詞を中心とした位置関係で決まる。
- 日本語の語順はけっこう自由。「友達をお茶に連れて行ったんだよ、僕が」みたいな言い方をすることもある。
- 助詞がついてまわるので、誤解はない。
- 英語に「に」や「へ」はあっても「が」や「を」は使わない。
- 「が」にあたる言葉はなく、主語と動詞は直接接する
- 「を」にあたる小辞はなく、動詞の後に直接、名詞をつなぐ
これは英語の基礎中の基礎、なんですが、私自身はこれを学校や教材でこういうふうに教わった記憶はありません。
英語は語順が決まっている言語だ、ということまでは教わりましたが、もう一歩踏み込んで、この講義のように教えてもらったなら、理解が早く進んだ気がします。
Session 3 Good Night / Because
韻文のfoot(歩格-ほかく)
この歩格という言葉、そもそも知りませんでした。これを書いているWindows10標準の漢字変換辞書にもなかった・・・
これは何かというと「文章での言葉の強弱のワンセット」のことなのだそうです。こんな種類があります。
- トロケイック(trochaic):強弱・強弱・・・
- 例:Across The Universe
- Words are flowing out like endless rain into a paper cup...
- 強弱がはっきりしていると歌いやすい(佐藤先生)
- アイアンビック(iambic):弱強・弱強・・・
- 例:Good Nightの出だしの"Now"を除いた部分。
- (Now) it's time to say good night...
- 曲想とぴったり合っている(中野先生)
- ダクティル(dactyl):強弱弱・強弱弱・・・
- この回では明言されていませんでしたが、最終講義で取り上げられるLucy in the Sky with Diamondsがそうですね。テキストにも書かれています。
- Picture your self in a boat on a river with...
聞いたことのない言葉でしたが、慣れ親しんだ歌とセットだと体感的に理解できますね。
Becauseの音楽的独創性
この回はキーボーディストの難波弘之さんがゲスト講師に。東京音楽大学の教授なのですね(すみません、教授までやっていらっしゃるとは存じ上げませんでした)。
- 有名なベートーヴェン「月光」との比較。キーは同じC#minだが、拍子が違う。Becauseはロックではあまり使われないマイナー6thの和音(イントロ3小節目)も使っている。
- これは月光のパクリではなくジョンのオリジナル。「ベートーヴェンよりよっぽど独創的」(難波先生)
- 「Roll Over Beethovenってことですね(笑)」(佐藤先生)
- ジョージが終わり際に弾いているのがMoogシンセサイザー。電子(electronic)楽器(音を電気的に合成)
- イントロから流れているエレクトリック・ハープシコードは電気(electric)楽器。電子楽器とは違う。
- イントロと歌い出しのコードが異なるのは、素人の強みともいえるが、天才的なひらめき。これと歌い出しのディミニッシュ(ah--の2回目)が浮遊感を作り出している。
- 歌の3番が終わったところの2小節目に、1番と2番にはなかった4小節が挿入される(F#2小節とG#2小節)。シンセサイザーによるホルンのようなアルペジオ("Love is Old, Love is New"のあと)。天才的なコード進行としか言いようがない。
- ここのシンセ、私も大好きなんです!
英文法とまったく関係ない話ですし、私は音楽理論のことは何も知りませんが、ビートルズのひらめきの箇所と自分が好きでおもしろいと思っていた箇所が一致していたと学べること自体がとても興味深いです。
佐藤先生は「楽しいうんちくは授業に弾みをつけます」とおっしゃっていますが、うんちくレベルをはるかに超えている内容だと思います。
Becauseの佐藤先生による訳も味わい深いものでした。「なぜって世界が丸いから、心の明かりがぱっとつく」もそうだし、「愛は新た」と「愛はあなた」で韻を踏むのもさすがでいらっしゃる。
どんな英語が「普通」なのか
この回では、いわゆる「普通の英語」とは何なのかという点にも一石を投じていました。
- 英語の発音練習というと、アメリカ英語かイギリス英語、それもきまって白人のものがお手本とされる。
- これは、英語を学ぶのは出世をして社会階層の上に行くため、という時代のなごり。
- 私たち(講師陣)は違う観点。「グローバル時代の庶民の英語」なら、ビートルズは世界中で歌い継がれているし、英語が母語ではない人にも親しまれている(から、教材として最適)。
- それにビートルズの4人もご当地なまりの強い英語を話していたし、彼らが少年時代に真似て歌っていたのは(ロックンローラーの)黒人や貧しい白人の英語。
- そもそも「普通の英語」とは何か?韓国やシンガポールやケニアやメキシコで英語を話している人たちと通じ合える英語、では。
- そのためにはまず、日本語と英語の発音の違いを理解することが重要。
ビートルズで英語を学ぶことの意味や価値を、これほどまでに明確に説明した講義を私は知りません。
Session 4 All My Loving
"I’ll write home everyday"
- このhomeがあるということは、もう二人は一緒に暮らしているのか?
- そうではなく、このhomeはこの前の歌詞の"While I'm away"のawayと対になっていて、相手の家をさす
この意味は以前から知っていましたが、そうか、一緒に暮らしているという考え(誤解)もあるのかというのと、なぜそうではないのかというところの説明に納得です。
歌詞の強いところを1拍目に
- "Close your eyes, and I'll kiss you..."と、3拍目から歌に入り、重要な言葉を1拍目にもってきている
これは気づいていませんでした。歌詞とはこうあるべきですね。
「シェケナベイベー」を英文法の観点から見ると
- "Shake it up, Baby!" shakeだけだと自動詞になり「震えなさい」になるのでitをつける
- 「shake itだけで済むのになぜupをつけるんでしょうか」
- 佐藤先生「説明が難しいんですが、アゲアゲ感を醸し出す副詞って言うのかな…」
なぜitが必要なのか、考えたこともなかったな。
そして佐藤先生の説明、よく理解できるしおもしろい (interesting and funny)。
ハンドクラップとコーラス
中野先生が"I Want to Hold Your Hand"のギターを弾き歌を歌うとき、「この曲はどうしてもハンドクラップが必要」ということで佐藤先生と大橋先生が参加され、コーラスもつけていました。
この方々はもちろん英語研究・教育のプロであって音楽家ではないので、これは観賞するための音楽ではなく学ぶための英語、なのですが、とっても楽しそうだし聴いているほうも楽しい!講義として理想的。
Session 5 Hello, Goodbye
helloとgoodbyeの拍の取り方
- "You"と"I"だけが拍に合っていて、他の歌詞の歌い出しはすべてウラ拍。
- 手をたたきながら歌うと、手が鳴るときと単語の発声が一致するのは"You"と"I"だけ
- なぜこうなるのか?"hello"は"llo"にアクセント、"goodbye"も"bye"にアクセントがあるので、アクセントのある個所に拍が来る
- ウラ拍で英語を歌う練習をしておくと、のっぺりしない、表情豊かな英語が話せるようになる(中野先生)
これも、今までまったく意識していなかったことですが、聞くと大いに納得する話です。言語を音楽に乗せるということはこういうことなんですね。
でも、ドレミファソラシド~♪の部分の"hello goodbye, hello goodbye"はオモテ拍ですね。これは、言葉のアクセントより、ドレミファソラシド~♪という、一周まわって革新的な(ふつうの作曲家は使わない)メロディを優先した結果、なのかもしれません。
Love Me Doの語順
- 本来の語順は、強調のため、命令文の頭にdoをつけて"Do love me."
- なぜLove Me Doになったのか?
- (佐藤先生)たしかにユニークな語順。
- (佐藤先生)詞であることを考えると、doで終わらせたかったのかも
- (大橋先生)たしかに、doとyouで韻を踏んでいる (佐藤先生)always be trueのtrueもそう
Love Me Doって、たしかに他では見たことのない語順ですね。これも言われてはじめて気づいて、そして思ったのですが、私は"Love Me Do"はこのひとかたまりでひとつのキャッチコピーのような感覚で受け止めていて、だから変に感じなかったのかも。
この「ビートルズ de 英文法」は、放送大学の「英語学び直し」の一環だそうなのですが、英語だけでなく、ビートルズ作品の「学び直し」、つまり新たな魅力発見の教材としても非常に有益だと思います。
Session 6以降も楽しみ。
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