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観た人同士で語り合いたくなる映画−「桐島、部活やめるってよ」

桐島、部活やめるってよ (本編BD+特典DVD 2枚組) [Blu-ray]

[物語]
地方の高校。校内で何かと注目される桐島がバレーボール部を辞めるという噂が広まった。バレー部員、桐島の友人達、桐島の彼女で校内随一の美人とそのグループのメンバー、それぞれが動揺する。その動揺は桐島と直接関係のない映画部や吹奏楽部の面々も巻き込み・・・



[感想]
いろいろ見事。一人の高校生が部活を辞めるという噂だけで人間のいろいろな心情と関係の変化を描くストーリー。同じシーンを別の視点から描くことで何かを浮かび上がらせる構成。そして桐島は最初から最後まで確実なかたちでは姿を現さないという仕掛け。演技。カット割。

そしてそんな評論視点から離れても、やはり心にずんとくるものを残してくれる、おもしろく手応えのある映画でした。

同じ出来事も視点で変わる、という真理を小気味よく映し出しています。アメリカ映画「ショート・カッツ」を思い出したりもしましたが、本作のほうが舞台が高校に限定されているし、時代は違えどかつて自分もそうだった「日本の高校生」というシチュエーションなのでわかりやすいし感情移入もしやすかった。

何より、この映画、観た人と話をしてみたいという気持ちがあふれ出てくるんですよね。その点では少なくともここしばらくで一番かもしれません。

桐島を日本にとってのアメリカだとか、あるいは人間社会におけるキリストだとか考える意見もネットで見ました。どれも正しいのでしょう。要は中心に依存することの悲劇。その見方もありだとは思いますが、他にもいろんなメッセージを感じ取ることができる映画だとも思います。

私が感じ取ったもののひとつは、芸術の力です。ワーグナー「ローエングリン」の曲が流れるシーンのドタバタとあの吹奏楽部長の表情の変化の対比。映画部の部長?がゾンビ映画にかける静かな執念と、それに触れた「リア充」元野球部員の表情。どちらも忘れられないシーンです。

何より、全編を通じて「皆まで言わない」美学が徹底していることがこの作品の素晴らしさの元になっている気がします*1。そのこともあって、また観たいという気持ちにすぐさせられる映画でもあります。あのシーン、あの人の表情はどうだったかな?あれはどうなってたっけ?って。繰り返しますが、いろいろ見事でした。

*1:この点では手塚治虫「ブラック・ジャック」の「刻印」を思い出したりもしました。ブラック・ジャックが幼なじみの大犯罪者・間久部の頼みに応じて彼の指紋を変える手術をするが、その後ブラック・ジャックは爆殺されかかる。これは間久部の差し金だったのか?それが最後までわからない構成。


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