庭を歩いてメモをとる

おもしろいことや気になることのメモをとっています。

paul mccartney driving japan 2002 - 11月14日その3(東京公演3日目・ステージ上へ)

ドーム最前列、ど真ん中

ポールが現れました。

東京ドームの最前列ど真ん中。夢ですら見たことのない席。そこから本物のポールを目の前にしたときには、喜びとか緊張とかいう感情を通り越して、まず最初には安堵を感じました。本当にポールが出てきてくれた。これは仮に夢だとしても、「いいところで目が覚める」なんて意地悪なものではないんだ、という安心感です。そしてその数秒後に、震えるような喜びがみなぎってきます。

ポールが私たちを見て明らかに驚いた表情を見せたのです。 そして、「よく来たね。まあ楽しんでくれよ」とでも言っているかのような笑顔を見せてくれます。

初日の、2列目でアイコンタクトをとれたときも奇跡が起こったかと思いましたが、今回は疑いもなく私たち、赤シャツ隊13人を見て反応しています。

この最高の場所で、最高の仲間に、最高のパフォーマンス。後は楽しみ尽くすことだ。そんな風に思った瞬間、"You say yes!"という歌声が聞こえてきます。


コミュニケーション

それから後は、とにかく1秒1秒を味わい尽くすことに集中します。たぶん、これ以上はもうないのです。ということは、もうこれはポールのマジックに身を任せるしかない

一方で、席が席だし、この出で立ちですから、自然とポールとの「コミュニケーション」も始まります。まず、"Hello Goodbye"の前か後かに、ポールが我々をずらっと指さして"You're Great!"と言ってくれました!当然狂喜する私たち。その後も、数え切れないくらいアイコンタクトをとれたように感じます。何度もこちらを見てくれている。

私たちも負けずにメッセージを発します。みんなが思い思いに叫んだり踊ったりしていますが、一致団結したときもあります。"Let Me Roll it"のあと、"Lonely Road"に入る前、自然と私たちの中から「ポー・マッカーニー!パパンパパンパン!(ハンドクラップ)」という声があがります。"Coming Up"のLive at Glasgowバージョンのラストに入っているあれです。なぜか"Coming Up"の後ではなくこのタイミングで出てきてしまったのですが、とにかくノってしまった私たちは何度もこれをやります。するとポールはMCに入るときクスっと笑ってくれました。ちょっと無理矢理だけど、ポールを笑わせることができて私たちはまた狂喜。周りのお客さんには迷惑だったと思いますが(ごめんなさい)。

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(BBC1 "Paul McCartney Back in the World"から引用)

他のバンドメンバーも驚いてくれます。一番はドラマーのエイブ・ラボリエル・ジュニア。コーラスをとるためにステージ前方にやってきたとき、私たちを見てものすごく驚いた表情をし(驚きの叫び声がオフマイクでも十分聞こえる)、私たちを指さしポールの方を見て、「おいポールこりゃいったいどういうことだい?」とでも言っているようです。そしてあきれたように笑い出します。ふふふ。してやったりという気分です。

そんな中、ギターを替えるときポールがローディの方を向きながら、しかし指はこちらをさして何かをけっこう長い間しゃべっています。なんだろう。「あいつらをちゃんとビデオで撮っておけよ」って言ってくれてるのかな。しかも、指は自分に向けて指されているような気がする。

ああ、こういう時に自意識過剰になるのがファンの悲しい性だな、なんて我ながら思っていました。


奇跡その2

時間があっという間に過ぎ去っていきます。心から愛する曲"Maybe I'm Amazed"が生で、このシチュエーションで聴けたときには自分はこのまま生きていていいのかとさえ思います。気がつくとアンコール。終わって欲しくない、そんな風に少し感傷的に思います。なので、ステージとアリーナの間の通路をジェフ・ベイカーともう一人のポールのクルーがやってきて、こちらを指さしているときも、それほど気になりませんでした。しかし。

"Lady Madonna"が始まってすぐ、そのクルーがこちらにやってきて、私と、となりにいる、「M」のTシャツを着ているMkさんの手をつかみ、アリーナ最前列の柵をどけるのです。そして言います「ちょっとこちらに来てもらえませんか?」

何が起こるのかわからないまま、Mkさんと私はそのクルーに連れて行かれました。ステージに向かって左側の袖の部分へ。そこには、ユニオンジャックの長袖Tシャツを着た男性と女性もいらっしゃいました。男性の方は、ヘフナーベースの模型もお持ちでした。

その私たちに、そのクルーは言います。「あなたがたには、日本のファン代表として、ステージで踊ってもらいたいのですが」

本当に、全く、一瞬たりとも想像したことのないことを言われてめまいがします。何で俺が?と思う暇もなく、説明がはじまります。しかし巨大なスピーカーの前だし、そのクルーの日本語もちょっとたどたどしかった(白人で、日本語ネイティブではない人だった)ので、情けないことにうまく聞き取れません。で、Mkさんに聞きます「何て言うてたん?」「あの、ステージでは元気に踊って欲しいって。それと、ポールから求められたとき以外は、ポールに近づいたりしないようにって。」

とんでもないことになった。でも、緊張とかいう状態はもうすでに通り越して、逆にとても落ち着いた気分になってきます。いや、興奮はしているのですが、夢だとも思えず、地に足がついている感覚です。そうなった後は、やさしい笑顔を浮かべたクルーの言葉もはっきり聞き取れました。「夢じゃない、夢じゃないんだよ。」

Mkさん、私、ヘフナーの男性、女性の順番で並びます。するとポールのMCが。「ニホンジンノファン、ヨニン!」 クルーに促され、黒い階段を、実感をもって踏みしめながらステージに上がります。 ああ。

ポールがこちらを見ている。バンドメンバーもみなこちらをほほえみながら見てくれているようだけど、申し訳ないことにこちらはポールしか目に入らない。

Mkさんが握手をしてもらっている。次は私か?

ポールが握手をしてくれました。

何も考えていなかったので自然と右手を出しますが、ポールも右手で握手してくれます。あたたかい、しかし意外と大きくはない手。汗ばんでもいない。包み込むように握ってくれた後、こちらは"How can I thank you?"を言うのが精一杯。背も、約180cmとはわかっているけども、それほど大きくは感じません。史上最高の音楽家というよりは、一人の人間という感じです。

私の立ち位置はステージに向かって右から2番目。ポールの左斜め後ろです。小学校の運動会以来、踊った覚えのない私ですが、元気に踊れといわれたので、とにかく元気に踊ることにします。それ以外思考する力が残っていない。ポールが「祭」と書いてあるはっぴを着ていることに気づいたのもその時だったくらいです。

"One, Two, Three, Four!"
"I Saw Her Standing There"が始まりました。


ステージの上で

何が起こっているのかはっきりわかっていないうちに曲が始まってしまった。聞こえてくるのはまぎれもない"I Saw Her Standing There"。ポール初来日の時、ヘフナーを弾きながらこの曲を歌うポールを見て夢ではないかと思ったものですが、今の状況は夢にも見たことがありません。

夢以上の光景をしっかり目に焼き付けようと思いポールの方を見ようとしましたが、直視できない自分に気づきました。それで、目はまずヘフナーを弾く指に向かいます。ポールは、紛れもなくすぐそばでへフナーを弾いています。ニスでぴかぴかに光っているそのボディから、その光以上にまぶしい指さばきが見えます。しばらくそれを見つめます。

意を決して(そうしないと視線を変えることができない)、ポールの顔を見ようとします。しかしやっぱりはっきり見ることができません。よくわからないのですが、こんなことになったのは初めてです。ポールの全身を見るようにしてみて、やっと顔を見ることができました。ベース以上に、光り輝いています。姿勢は、ステージに向けて強烈なエネルギーを放っているせいか、かなり前屈みになっているような印象を受けます。客席からだと堂々とまっすぐ立っているように見えるのに。

ポールの全身を目でなんとか捉えた直後、めまいがするような衝撃が体を突き抜けました。何が起こったのかわかりませんでしたが、しばらくたってわけを理解し、今度は体が震えてきました。ポールの地声が聞こえているのです!ポールとバンドの演奏は、ステージ上のスピーカーを通じてこちらにプレイバックされるので、最初は客席と同じような音だな、と思っていたのですが、ときおりポールの、マイクを通さない歌声が耳を捉えるのです・・・それは、基本的にマイクを通した声と同じなのですが、すぐ近くで歌っているということがわかる別の何かがあります。特別なものです。歓喜の感情と、禁断の果実を口にしたような畏れが同時にわき上がってきます。

少し意識の方向を変えようと思い、自分の立ち位置の前に視線を移すと、あの「マジック・ピアノ」がありました。昔バンドでキーボードをやっていたことのある私としては、いったいどんな機種を使っているんだろうと気になりますが、次の瞬間、今はそんなことをしている場合じゃないと思い直します。今は本当に1秒1秒が貴重なんだ。もっとポールの歌に身を任せよう。

踊り方がわからないのでとりあえず飛び跳ねていますが、本当にこんなのでいいのかちょっと不安になり、隣のMkさんを見てみます。映画「ア・ハード・デイズ・ナイト」の"I Wanna be Your Man"のときのような踊りを披露しています。バンドでフロントウーマンとしてステージアクトをこなしているせいか、うまい。これは自分には無理だと思い、逆にふっきれた気持ちになります。

満員のドームってどんななんだろうと思い、客席を見ようとしますが、これも視線がそちらに向かいません。何とか全体をざっと見ましたが、ライブビデオで客席が映っている、そんな風にしか思えませんでした。以後、客席は見ずに、視界上方のライトのあたりを見たり、ポールを見たり、その繰り返しをしながら踊ります。なぜかポールの顔よりも、ベースの指さばきをよく見てしまう。でもそれで充分という気もします。

"I Saw Her Standing There"。 大好きな曲なんだよなあ・・・と思いながら飛び跳ねていると、曲が終わりに近づいてきます。悲しいとも、名残惜しいとも思いませんでした。「最後は大きくジャンプしよう」「ポールの地声を耳に焼き付けよう」と、それだけを考えます。そして、そのとおりにします。曲は終わりました。

(ここから後のことはよく覚えていないので、順番が前後しているかもしれません)

終わった・・・ステージから降りようとします。すると、Mkさんがポールの方向を振り向く。なんとポールが呼んでくれているようです・・・何が起こるんだ?・・・バンドメンバーも含めてのステージへのお辞儀!・・・順番からいくと私はポールと手をつなぐことになるが、ここは女性のほうがいいだろうと思い、Mkさんを呼んで場所を替わります。私は自分の右手をMkさんと、左手をブライアン・レイとつなぎ、ステージに向かってお辞儀をします。

その後、ポールが4人全員を迎えてくれます。一人一人と握手をしてくれるようです。私がいつもの癖でお辞儀をすると、ポールもお辞儀を返してくれました!ポールと挨拶を交わすなんて・・・また人生の目標がかなった。そして握手。さっきと同じ、あたたかく包み込むような手。そしてポールの目には、「どうだい、こんなことになって驚いただろ?楽しめた?」といういたずらをしたあとの少年のような光と、親が子供に向けるようなやさしく暖かいまなざしが同居しています。またここに、スーパースターではない、一人の人間としてのポールの側面を垣間見ます。そしてポールの瞳は、とても明るい灰色に見えます。

ステージから降りるとき、ブライアンも満面の笑顔で握手を求めてくれました。こちらは力強い手。ホテルの前の道で見た物静かな青年ではなく、こちらもまさにステージの上で輝いています。これがプロってものなのでしょう。

ステージ脇の階段を下りるとき、赤シャツ隊の叫び声に近い出迎えの声で、私は地に足がついた気がやっとしました。帰ってきたんだ。


And in the End

・・・その後のことはあまり覚えていません。記憶がとぎれとぎれなのです。ライブが終了して、ふぬけのようになって退場していくとき、近くの席の知らない方に「なんで選ばれたんですか?」と質問され、「わかりません。ほんとうに、わからないんです。」と応えたこと。

ドームの外に出た時偶然出会った友人のポールファンの方に「あれ、まさかよしてるさんじゃないよね?ひょっとして、と思ったんだけど・・・」と訊かれ「私です。」と応えたこと。

勤務先の同期が携帯に「見たよ!おめでとう!!」とメールをくれたこと(その後彼は「予感」があり翌朝の「ズームイン!!SUPER」を録画予約。するとこの夢が事実だったことを示す映像がしっかり録画されていたのです。彼はポールファンではないのですが・・・)。

その後向かった1.5次会でものすごい歓待を受けつつも、何をするエネルギーも残っていなくて部屋の隅で顔を伏せてうずくまっていたこと(泣いていると思った方もいらっしゃったようですが、泣くことすらできませんでした。)。

こりゃ2ちゃんねるにスレが立つよ、と言われたこと(本当に立った。Mkさんは「かわいかった。つきあってほしい」私は「普通の男の子」と書かれてました・・・もう30代なんですけどね・・・)

会がお開きになったあとカプセルホテルに向かうもほとんど眠れず、翌朝大阪で仕事に出たもののほとんど仕事にならなかったこと。でもまったく眠くなかったこと。

なんだか自分がこの世に存在していなくて、宇宙服のようなものを着て浮いているような、そんな感覚が24時間くらい続いたこと。

覚えているのはそれくらいです。

しかし、今もはっきり覚えているのは、打ち上げでの、共にはじけ、支えてくれたみんなの表情。手元に残っている打ち上げの写真でも、みんな最高の笑顔を見せてくれています。

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この日の経験は、宝物以外の何ものでもありません。ポール、バンドメンバー、スタッフ、そして一緒に楽しんだファンのみんな、ほんとうにありがとう。I'm So Glad to See You.