2017年12月、母が脳梗塞で入院しました。幸い命には別状はなく、会話もほぼ以前通りにできます。しかし、行動の自由度は落ちており、現在は退院しているものの家族のサポートが必要な状態になっています。
このことをきっかけに、脳卒中・脳梗塞に関する本を探してみたのですが、まず本の数が非常に多い!どんな特徴があって、今の自分に適しているのがどの本なのかがわからない。
そして、脳梗塞になった後のことが知りたいのに、病気そのものの解説にかなりのページ数を割いている本が目立ちました。
もちろん、病気そのものについて知ることも重要ですが、脳梗塞は基本的に突然起こる病気です。患者の家族としては「家族が脳卒中になってしまった!入院した!さて、私は何をすればいいの?」が知りたいのです。
以上の経験から、「病気が起こってしまった後どうすればいいか」、つまりリハビリ開始後・退院後に焦点をあてた本の中で、そんなに古くなく、医師の目が入っている本を選び、読んで感じた特徴をまとめます。
脳卒中、脳梗塞、脳出血の概要
本を紹介する前に、簡単にまとめておきます。
- 脳梗塞は「脳の血管が詰まる病気」、脳出血は「脳の血管が破れる病気」。脳梗塞と脳出血をまとめて「脳卒中」という。
- 手足のマヒや言語障害などさまざまな障害が起こることが多いが、リハビリで回復できる場合がある
- 発症したら即治療を受けることが極めて重要(「脳梗塞は時間との闘い」) → 前兆症状はこちら
- 国内患者数150万人
- 脳卒中は、がん、心臓病に次いで日本における死因の第3位
(出典:田辺三菱製薬「No!梗塞.net」)
たしかによく名前を聞く病気ですが、ここまで一般的だとは思っていませんでした。
これほど一般的なら、前述の「脳梗塞の前兆症状」はすべての人が知っておいたほうがよい知識だと思います。「脳梗塞は時間との闘い」、つまり前兆を理解し即治療を受けられるかどうかがその後の回復に大きな影響があるからです。実際、母も幸いにも発見が早かったので大きな障害が残らずにすみました。
以降は、おすすめ順に、本をご紹介します。
身近な人が脳梗塞・脳出血になったときの介護と対策
概要
- 発行年:2017年
- 退院(リハビリ開始)後記述率:76%(全191ページ中46ページ以降)
- 著者は医師か:Yes(監修)
特徴
- 脳卒中に関する情報を、退院後を中心に広範囲に扱っている
- 見開き2ページでひとつのテーマを扱っておりイラストも豊富
- 保障関係(介護支援、障害者手帳による割引など)も網羅
- 大きすぎずページ数も適当で持ち歩きやすい
- 発行が最近
よしてるの感想
家族が脳卒中になったときにとりあえず全体を理解する入門書として、とても適していると思います。
バランスがとれており読みやすくコンパクトなので、「家族が脳卒中で入院した」という一報を聞いてから職場や家から病院へ向かう道中に本屋さんで買って電車の中で読んだり、今後のことを考えるのに他の家族にも脳卒中のことを理解してもらうため読んでもらう・・・そんなシーンでおすすめしたい本です。
(ただ、現時点(2018年3月14日)ではkindle版がないので、同様のシーンでもしこの本が本屋さんになければ、次の選択肢は後述する「脳梗塞 最新治療・再発予防・リハビリのすべて (別冊NHKきょうの健康)になるかと思います。)
目次
- 第1章 脳卒中について知っておきたいこと
- 第2章 脳卒中の治療はこうして行われる
- 第3章 自宅に戻ってからの家族による介護
- 第4章 生活を再建するためのリハビリテーション
- 第5章 再発を防ぐための日常生活の送り方
- 第6章 介護保険やその他の公的サービスの利用法
身近な人が脳卒中で倒れた後の全生活術
概要
- 発行年:2016年
- 退院(リハビリ開始)後記述率:92%(全277ページ中21ページ以降)
- 著者は医師か:No(元外資系コンサルタント)、ただし医師が監修
特徴
- ほぼすべてが退院(リハビリ開始)後についての記述
- 文字中心の記載で内容が濃い反面、短時間で全体像をつかむのには適していない
- 保障関係(介護支援、障害者手帳による割引など)が非常に充実
- 著者の奥様(脳梗塞患者)の退院後の詳細事例紹介としても読める
- 発行が最近
よしてるの感想
脳梗塞になった奥様を支えている元外資系コンサルタントが自らの経験を綴った本。医師が書いた本ではありませんが(医師による監修はなされています)、それだけに「一般人目線」「当事者目線」が一貫しているので参考になる情報が満載です。
具体的には、転院のルール、転院先や介護用品の選び方に加え、個人的に非常に役立ったのは介護支援や障害者手帳による割引などです。母は別の疾患ですでに障害者手帳を交付されて数年たっていたのですが、この本で新たに知った割引制度が複数ありました。
脳梗塞についてほとんど何も知らなかった著者と奥様が、二人でどのようにして事態を切り開き脳梗塞とつきあっていくかという事例を究極まで掘り下げた詳細レポートともいえます。そこから得た経験に基づいた提言も充実しています。
そして一貫して、著者の「同じ立場の人に役に立つ情報を伝えたい」という強い気持ちが伝わってきます。本の帯にあった「血の通った実用書」というフレーズは言い得て妙だと思えます。
脳梗塞という病気をある程度理解し、状況が少し落ち着いてきた頃、今後のことを考えるにあたってじっくり読みたい、そんな本です。
目次
- 序章 発症
- 第1章 リハビリテーション病院に転院してからの30のポイント
- 第2章 自宅で続けるリハビリ生活30のポイント
- 第3章 精神的な悩みを乗り越える30のポイント
- 終章 人生、これから
あなたの家族が病気になったときに読む本 脳卒中
概要
- 発行年:2006年
- 退院(リハビリ開始)後記述率:62%(175ページ中67ページ以降)
- 著者は医師か:Yes(医師・看護師・ソーシャルワーカーの共同執筆)
特徴
- 医師が執筆する「病気の知識」=「知る」、看護師が執筆する「看護の仕方」=「看る」、ソーシャルワーカーが執筆する「生活の保障」=「得る」の3部構成(以上本書より引用)
- 記載対象が幅広い。今回とりあげた本の中でグリーフワーク(身近な人の死別による悲しみへの向き合い方)まで記載しているのは本書のみ
- 図も用いられているが比較的文字が多い。短期間で全体像を把握するには向いていないが、その分情報量が多く、示唆に富む箇所(様々な事例の紹介など)が多い
- かなり詳細な薬の解説がある
- 大判でやや重く、持ち運びやすいとはいえない
- 発行年がやや古い
よしてるの感想
全体的に、作り手の志の高さを感じる本です。医師・看護師・ソーシャルワーカーの共同執筆である点、充実した文面から得られる様々な情報などがその理由です。
たとえば「再発予防に気をつけましょう」という記述はどの本にもありますが、本書では、介護者が退院後に医師にCTなどの画像を見せられ「まだはっきりしない部分もあるので気をつけないと」と言われるとそれだけで頭がいっぱいになって不安に陥るというケースを紹介した上で、「漠然とした情報では、不安を和らげることができません。具体的なことから一つひとつ検討していくことが大事です。まず、患者は病気をする前に、どんな生活習慣をしていたでしょう。もし病気になる以前から高血圧や糖尿病、高脂血症があるといわれていたのなら・・・」と具体的に記載しています。
脳卒中・脳梗塞の全体像を把握した後、多くの事例から具体的なアドバイスを得たい、そんな方に向いている本です。
ただし、2006年発行のため、特に保障や薬に関する部分は読者が最新情報をアップデートする必要があるかもしれません。
脳梗塞 最新治療・再発予防・リハビリのすべて (別冊NHKきょうの健康)
概要
- 発行年:2016年
- 退院(リハビリ開始)後記述率:39%(95ページ中58ページ以降)
- 著者は医師か:Yes(医師5名が執筆・監修
特徴
- 図が多く文字が少ないので全体像を把握するのに向いている。図の豊富さは類書の中でも随一
- 大判だがページ数が少ないので持ち運びに向いている
- kindle版あり
- 退院後の記載が少ない
よしてるの感想
大判でページ数が少なく図が豊富なので、概要を知るには最適です。ただし退院後の記述は少なめ。
また、ページ数が少ないのだから当然ですが、情報密度(事例紹介等)は先に挙げた本に比べて少ないです。
一方で、先に紹介した本に比べて(2018年3月14日現在)の大きなメリットとして、kindle版があります。
なので、今すぐ脳梗塞について知りたいが、先に紹介した本が書店で見つからなかった・・・そんな方にはおすすめできる本です。
目次
- 第1章 知っておきたい脳梗塞の基礎知識
- 第2章 脳梗塞になってしまったら
- 第3章 脳梗塞のリハビリテーション
- 第4章 退院後の生活を豊かにするために
- 第5章 再発予防のためにできること
イラストでわかる脳卒中ケア事典―再発予防・家庭介護・リハビリ
概要
- 発行年:2007年
- 退院(リハビリ開始)後記述率:69%(333ページ中104ページ以降)
- 著者は医師か:Yes
特徴
- 見開き2ページでひとつのテーマを扱っておりイラストも豊富
- 家庭介護についての具体的な記述が豊富
- 発作予防・嚥下障害のためのレシピ集がある
- 大判で重く、持ち運びには適さない
- 発行年がやや古い
よしてるの感想
他の本と比べて一番の特徴は、介護やリハビリについての図解が大変豊富なことと、患者さん向けのレシピが充実していることです。
なおかつ全ページが見開き2ページでまとめられています。一方で、書名に「事典」とあるように、大きく重い本なので持ち運びには適しません。
以上のことから、本を開いて参考にしながら患者(家族)に介護をする・・・というようなシーンでおすすめできそうです。ただ、介護やリハビリに関してはまずは専門職の方に相談した上で行うことが必要だと思います。
なお、「おすすめできそう」という書き方にしているのは、個人的にはそのようなシーンを経験していないので実用度について自信をもって書けないためです。
目次
- 第1章 まず脳卒中のことを知ろう
- 第2章 脳卒中の原因を知り、発作を防ぐために
- 第3章 発作が起きたとき、どうする?
- 第4章 病院で受ける検査・治療を理解する
- 第5章 後遺症とリハビリテーション
- 第6章 退院は準備が大切
- 第7章 再発や悪化を防ぐ健康管理の秘訣
- 第8章 家庭で生活するためのリハビリテーションと介護
- 第9章 ポジティブに生きるために.........
イラストでわかる脳卒中―治療後・退院後の生活・リハビリ・食事
概要
- 発行年:2012年
- 退院(リハビリ開始)後記述率:78%(159ページ中36ページ以降)
- 著者は医師か:Yes
特徴
- 見開き2ページでひとつのテーマを扱っておりイラストも豊富
- 大きすぎずページ数も適当で持ち歩きやすい
- 保障関係(介護支援、障害者手帳による割引など)の記載がほとんどない
よしてる
最初にご紹介した「身近な人が脳梗塞・脳出血になったときの介護と対策」にいろいろ似ています。見開き2ページ図解入りで退院後の記述に焦点をあてていることや本のサイズ、色使いまで。この本のほうが先に出版されているので、「身近な人が・・・」のほうが本書を参考にしたのかもしれませんが。
しかし、残念ながら本書は保障関係の記載がほとんどありません。私の経験したケースでは保障関係はかなり必要度の高い情報だったので、この本のおすすめ度はどうしても下がってしまいます。
それ以外の概要をつかむには適している本です。
目次
- 第1章 脳卒中の治療
- 第2章 脳卒中後の家族のケア
- 第3章 後遺症を克服し再発を防ぐリハビリテーション
- 第4章 再発を防ぐ生活のしかた
以上が、医師の目が入っている本のご紹介でした。
ここから先は、医師の目が入っていないものの、脳卒中患者を身近にもつ方に参考になる本を番外編としてご紹介します。
(番外編1)鈴木大介「脳が壊れた」
特徴
- ライターさん本人の闘病記
- 脳卒中そのものより、脳卒中等によって起こる「高次脳機能障害」に焦点をあてたルポルタージュ
- 文章が巧みで、時にはユーモラスに、時にはリアルに当事者実態を伝えている
よしてるの感想
脳卒中患者を身近にもつ方のみならず、そうでない方にも広くおすすめできる本です。
というのは、脳卒中によって起こることが多い(他の疾患などでも起こりうる)「高次脳機能障害」というものがどういうもので、当事者はどんな感覚でどんなつらい思いをしているのか、どんなサポートが望まれているのか、そして他の社会問題との意外なつながりを克明に綴っているからです。
例を挙げると、障害により集中力が保てなくなり、買い物をするときにおつりが数えられなくなるだけでなく、手に持っていること自体が継続できないつらさ。そしてそれは、著者が以前の仕事で取材した「メンタルに問題を抱えた貧困女子」(高次脳機能障害ではなくDVなどで深刻な被害を受けている)にも数多く見られたケースであること。
・・・などと書くと、読むのがつらい深刻な内容を想像するかもしれませんが、そんな雰囲気では全くなく、むしろユーモラスでときどきは笑わされるくらい。著者・鈴木大介さんの力量なのでしょう。
何より、読んでいて(こう書いては語弊があるかもしれませんが)抜群におもしろい。下の目次をご覧になっただけでも関心がかき立てられるのではないでしょうか。
極めて個人的な闘病記でありながら、名人芸のような文章が楽しめ「高次脳機能障害」とその当事者について多くを学べる「おもしろくてためになる本」です。
目次
- 第1章 どうやら脳がまずいことになったようだ
- 第2章 排便紳士と全裸の義母
- 第3章 リハビリは感動の嵐だった
- 第4章 リハビリ医療のポテンシャル
- 第5章 「小学生脳」の持ち主として暮らす
- 第6章 感情が暴走して止まらない
- 第7章 本当の地獄は退院後にあった
- 第8章 原因は僕自身だった
- 第9章 性格と身体を変えることにした
- 第10章 生きていくうえでの応援団を考える
- 鈴木妻から読者のみなさんへ
(番外編2)川嶋光「お父さんが倒れました 脳梗塞わが家の闘病記」
特徴
- ライターさん本人の闘病記
- 家族とのかかわりについての記載が多い
- 具体的に費用がいくらかかったかのレポートあり(脳卒中以外の病気も含む)
よしてるの感想
こちらもライターさん本人の闘病記です。
前述の「脳が壊れた」に比べての大きな違いは、著者の奥さんやお子さんという家族とのかかわりについての記載が多いことです(「脳が壊れた」でも著者の奥さん・お義母さんとの支援については書かれていますが、より多い)。ポジティブな内容だけではなく、時に家族間で感じるネガティブな感情についても率直に綴られています(とはいえ、読後感が悪いほどの内容ではありません)。
そして、治療にあたって実際に払った金額が記されています。3割負担の場合の入院費、CTなどの画像診断費、その他の医薬品や検査の費用、その後の入院しながらのリハビリ費用、社会復帰後の血栓予防等の薬代・・・と内訳も詳細です。
脳卒中になった家族をサポートするようになり、ふと「他の家族はどうしているのかなあ」と知りたくなったようなときに、一例として参考になる本です。
目次
- プロローグ
- 第一章 目覚めると体が動かなかった
- 第二章 手術家族の結束はなぜ揺れたか
- 第三章 看病哀しそうな目をされるのは辛い
- 第四章 医療費倒れて初めて知った「命の値段」
- 第五章 左手が動くようになった日
- 第六章 仕事のスピードは格段に鈍った
- 第七章 脳卒中誰にでも可能性がある病気
- 第八章 家族の日記読んで、私は泣いた
- エピローグ
結局おすすめはどの本か
「家族が脳卒中になってしまった!入院した!さて、私は何をすればいいの?」という方は、まず「身近な人が脳梗塞・脳出血になったときの介護と対策」で全体像をつかみ、
(上記の本が本屋さんにない場合は、kindleで「脳梗塞 最新治療・再発予防・リハビリのすべて (別冊NHKきょうの健康)を読み)、
少し落ち着いた後「身近な人が脳卒中で倒れた後の全生活術 」で今後のリハビリ転院、在宅介護、保障・サービスの活用などについて検討するのがよいのではないでしょうか。
脳卒中になられたご家族の障害の度合いや必要な支援によっては上記以外の本がより役立つこともあると思いますが、私個人が最も役立ったのはこれらの本でした。改めて、著者・編集者の方々にはお礼を申し上げたいと思います。
そして、今現在、ご家族も含め脳卒中とかかわりのない方にとっても「おもしろくてためになる」のは「脳が壊れた」です。
以上、ご参考になれば幸いです。
関連メモ
他の疾患についての本
自分の経験