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アフリカはなぜ経済発展が遅れているのか - ジャレド・ダイアモンド「歴史は実験できるのか」

「銃・病原菌・鉄」以来、興味深い著作を送り出し続けてくれているジャレド・ダイアモンド博士の2018年の本。

本書の中で一番感心し、かつどす黒い気持ちになった内容は、「アフリカの経済発展が遅れている理由のひとつ」について、「ひょっとしてそうじゃないかなあ」と思っていたことが、精緻な分析で明らかになっていたことでした。

現代アフリカの経済

本当に遅れているのか

さて、アフリカの経済は本当に発展が遅れているのでしょうか。

この点、本書にはほとんど記述がありませんが、念のため確認しておきます。

たとえば、ケニアは世界でも電子マネー決済がかなり普及していると聞きます。「日本キャッシュレス化協会によると、2019年において、世界一のキャッシュレス先進国は、中国でもスウェーデンでもなく、また韓国でもなく、アフリカのケニア」なのだそうです。引用元:タクシー料金を携帯電話で支払うのは、ナイロビでなら簡単/野口悠紀雄|文藝春秋digital

多くの発展途上国が経済成長を続けている今、アフリカの経済も例外ではない、そんなことはないのでしょうか。

世界と比較してみると

そこで、世界各国の一人当たり国民所得を比べてみると・・・

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2018年時点の一人当たり国民所得を色分けした世界地図。赤色が濃いほど収入が多く、青色が濃いほど収入が少ない。世界銀行 The World by Incomeより抜粋。

これを見ると、アフリカ、特にサブサハラ(サハラ砂漠以南)は、世界の他のエリアと比べて収入がまだまだ少ないことがわかります。

上述のケニアも、薄い青色なので最貧国というわけではないですが、世界レベルで見るとまだまだ貧しい国なのです。

収入の低い国が集まっている世界最大のエリア、それがアフリカということです。

なぜ経済発展が遅れているのか

なぜアフリカは、このように経済の発展が遅れているのでしょうか。

ダイアモンド博士の「銃・病原菌・鉄」によれば、(ものすごく単純化すれば)アフリカに農耕に適した植物が少なく、家畜化できる動物もほぼいないかったため、農耕を始めることが難しく、よそから伝わった農耕の生産性を高めることができず、それらが豊富にあるヨーロッパや中国に比べ発展に遅れをとった、ということになります。

しかし、数千年レベルの発展速度の違いはそれでわかるとしても、遅れをとっていた様々な国が収入を伸ばしている中、なぜアフリカは今も収入が少ないのでしょうか。


経済発展が遅れた理由 - 仮説と検証

アフリカだけの大規模なマイナス影響とは

アフリカだけが受けた、大規模なマイナス影響・・・それで真っ先に思い出すのは奴隷貿易です。

非常に多くのアフリカの人たちが奴隷にさせられ、アメリカやヨーロッパに送られました(本書によれば400年間で1,800万人)。その逆はありません。アジアやオセアニアからどこか別の地域にアフリカ以上の規模で人々が奴隷にされ送り出されたこともありません。

まさに本書ではこの問題に焦点をあてています。ネイサン・ナン氏による「奴隷貿易はアフリカにどのような影響を与えたか」という章があるのです。

以下は、その章の記載をまとめていきます。

基本的な考え方

それにしても、「奴隷貿易はアフリカにどのような影響を与えたか」なんて、どうやったらわかるのでしょうか。

本書での基本的な考え方はこうです。

  • 現在のアフリカが発展から取り残された一因が奴隷貿易だとすれば、過去に最も多くの奴隷が連れ去られた地域が現在最も貧しい地域のはず
  • しかし、現在最も貧しい地域は最初から未開の地域だった可能性もある
  • そのため、過去に奴隷貿易が盛んだった地域がその当時貧しい地域だったかも調査する


どこから何人の奴隷が連れ去られたか

その考え方はわかるけど、「どこから何人の奴隷が連れ去られたか」なんてどうやったらわかるのでしょうか。

  • 大西洋経由の奴隷貿易に関するデータは、1514年から1866年にかけての34,584回の航海の記録による。
    • ヨーロッパのほとんどの港では、貿易にあたって船の登録・運ばれる商品の価値・数量などを申告することが義務付けられていたので、資料が残っている。
    • 研究者がこれに関するデータベースを作成しており、1700年以降の大西洋経由の航海の77%に関して、複数のソースから情報を集めている。
  • さらに、奴隷がどこで捕獲されたかを明らかにするために、もう一つのデータベースも作成されている。
    • 奴隷売買の記録、プランテーションの目録、裁判歴、死亡証明書、洗礼の記録などによる。
    • これによると、全部で229の民族集団の呼称を確認することができる。

ここまで丁寧にデータを紐解いた結果なら、信頼してもよさそうに思えます。

で、これによって判明した「過去に奴隷貿易が盛んだった地域」は次の通りです。

「過去に奴隷貿易が盛んだった国・地域ワースト10
  1. アンゴラ 3,607,402(←貿易の対象となった奴隷の人数)
  2. ナイジェリア 2,026,303
  3. ガーナ 1,603,392
  4. エチオピア 1,447,456
  5. マリ 1,033,981
  6. スーダン 863,963
  7. コンゴ民主共和国 766,317
  8. モザンビーク 625,862
  9. タンザニア 534,864
  10. チャド 528,864


「奴隷が多く連れ去られた地域」と「現代貧しい地域」は一致しているか

本書では、最初に結論を言ってしまうと、「過去に奴隷貿易が盛んだった地域」と「現代の貧しい地域」は正の相関関係にある、つまり関連性がはっきりあるのだそうです。それを示したグラフもあります。

そうだったのか・・・

これは重要なポイントなので、自分でも本書とは違う方法で確かめてみようと思います。

上記のワースト10の国を、一人当たりGNIのワーストランキングから抜き出してみた結果がこちらです。

世界銀行:一人当たりGNIワーストランキングから抜粋(出典:https://data.worldbank.org/indicator/NY.GNP.PCAP.CD

(以下のリストは、「185か国・地域からにおけるワースト順位」「国名」「2018年の一人当たりGNI[USドル]」の順)

  • 4位 モザンビーク 460
  • 6位 コンゴ民主共和国 490
  • 14位 チャド 670
  • 18位 エチオピア 790
  • 20位 マリ 840
  • 25位 タンザニア 1020
  • 35位 スーダン 1560
  • 44位 ナイジェリア 1960
  • 49位 ガーナ 2130
  • 62位 アンゴラ 3370


完全に一致しているわけではありませんが、「過去に奴隷貿易が盛んだった地域」は、現代世界の貧しい国ワーストの上位1/3にすべて入ってしまっていることはわかりました。

さらに、「過去に奴隷貿易が盛んだった地域」を上位5位までに絞れば、実に「現代世界の貧しい国」ワーストの上位約1/10にすべて入ってしまいます。

「過去に奴隷貿易が盛んだった地域」と「現代の貧しい地域」がだいたい一致していることがわかりました。

過去に奴隷貿易が盛んだった地域がその当時貧しい地域だったか

奴隷貿易と現在の貧困との関係が明らかになってきましたが、「過去に奴隷貿易が盛んだった地域がその当時貧しい地域だったか」についても確認しておく必要があるのでしたよね。

これは、本書では次のように検証しています。

  • もともと、アフリカとヨーロッパのあいだの貿易は合法的な商品からはじまっている。
    • 一例として、ポルトガルは1472年から1483年にかけて中央アフリカを西海岸沿いに南下しながら貿易相手国を探していたが、コンゴ王国を発見してようやく継続的な貿易相手国に巡り合えた。
    • コンゴ王国は中央集権国家で、自国通貨を持ち、市場も貿易網も発達していたので貿易しやすかったのである。
  • 後にヨーロッパ人の関心が奴隷に映っても「繁栄している国」との奴隷貿易がより盛んだった。
    • 上述のように、繁栄している国とは貿易がしやすい
    • 繁栄している地域は人口が密集しているので、内戦や戦闘が勃発すれば奴隷を効果的に確保できる
  • さらに、当時の人口密度(推計値)に関するデータを用いれば、その地域の繁栄度がわかる。
    • この時期のアフリカでは、物質的な進歩と人口増が比例していたため。

上記のデータを用いても、やはり「過去に奴隷貿易が盛んだった地域はその当時貧しい地域だったのではなく、むしろ反映している地域だった」ということがわかるそうです。

ほかの要素も考慮する

本書ではさらに、別の要素も考慮しています。

ここで比較しようとしている国や地域はいろんな特徴があるから、その影響も考慮しようというのです。

その「特徴」は以下です。

  • 所在地(緯度・経度)
  • 気候(降水量や気温など)
  • 土地面積の中で海岸線が占める割合
  • 天然資源の埋蔵量
  • 植民地支配における入植者のアイデンティティ(※よしてるには何のことかわかりませんでした)

これらの特徴を多変量回帰分析という統計的手法を用いて考慮に入れたうえで、「過去に奴隷貿易が盛んだった地域」と「現代の貧しい地域」を比較しても、やはり強い相関関係があるそうです。

奴隷貿易の影響を定量化

奴隷貿易が現在のアフリカの経済発展を遅らせている要因のひとつだということがわかりました。

では、その影響度はどのくらいなのでしょう。

本書では、それも計算しています。

  • 奴隷売買と所得の間に推定される関係を数値化
  • その数値に、各国から連れ出されたと推定される奴隷の人数を掛ける
  • その絶対値を各国の実際の所得と合計する

その結果は次の通りです。

  • 奴隷貿易が行われなかった場合のアフリカ諸国の一人当たり所得の平均は、2,679ドルから5,158ドルの間になる
  • なお、アフリカ諸国の典型的な人物の実際の年収は1,834ドル(2000年、以下同じ)
  • アフリカ以外の途上国の一人当たり所得平均は4,868ドル
  • つまり、奴隷貿易がなかったら、アフリカ諸国も他の発展途上国と同様の経済発展ができていたかもしれない。

まとめ

いろいろ書きましたが、わかったことはこういうことでした。

  • アフリカ(特にサハラ砂漠より南の地域)は、世界の他の発展途上国よりもさらに貧しい
  • なぜアフリカは貧しいのか?それは過去に奴隷貿易があったことが大きな理由のひとつである
  • それは、当時奴隷貿易が盛んだった地域が今貧しい地域になっていることからわかる
  • もし奴隷貿易がなければ、アフリカの貧しさは世界の他の発展途上国と同じくらいになっているはず

あと、個人的に強く感じたのはこのことです。

  • 記録って大事だな。
    • 当時、数百年先にこうした分析に使われるとはきっと誰も思っていなかったであろう貿易の記録などが、こうした興味深い考察につながっているのだから。
  • 社会科学の世界でも、こういう数値・統計によるアプローチがあると俄然説得力が強くなる


書かれている結論もとても興味深いですが、そこに至るいろんな「仮説と検証」にも大いに惹かれた本でした。



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