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地球温暖化の原因はCO2か-「ウソ・本当」両方の意見を比べてみた(2)

(2021年11月13日更新)

前回は、地球温暖化問題に対して肯定的な研究者だけでなく、懐疑的な研究者たちも、ほとんどが「過去100年で0.7℃程度の温度上昇があった」ことについては異論がないということを確認しました。

今回は、その温暖化が本当にCO2によるものなのかを確認してみます。

方法としては、前回に引き続き、研究者による文字ベースの討論をもとに、温暖化懐疑派・肯定派の意見を比較し、自分で考えていきます。

(前回の内容や、そもそもなぜ私が温暖化がウソか本当か調べたくなったわけは以下のメモに書いています。)


討論内容を確認(1)一般向け書籍

こちらの本での「懐疑派(ご本人は懐疑派と呼ばれることに疑問をお持ちですが*1)」武田邦彦氏の意見はこうです。

地球の気温が上がっているということ、そして気温上昇にCO2が関与しているということの2つについては異論はありません。どのくらい関与しているかという程度問題については、少し異論がありますが。(P.54)



さらに武田氏は、別のページでは「気温上昇が人為起源であるという認識については(中略)IPCCの認識については7割がたその通りだとは思いますが、残りの3割にはそれ以外の見解も加味する必要があるのでは」と述べています。

なお、「それ以外の見解」が何なのか、本書では具体的に述べられてはいませんでした(しかし、温暖化肯定派への異論は多数お持ちです。それは次回以降のメモで確認していきたいと思います)。

では、学会誌の討論ではどうなのでしょうか。


討論内容を確認(2)学会誌

エネルギー・資源学会誌の2009年1月号・3月号「地球温暖化:その科学的真実を問う」での研究者による討論では、アラスカ大学名誉教授・赤祖父俊一氏、横浜国立大学教授・伊藤公紀氏、東京工業大学教授・丸山茂徳氏が「CO2が原因説」に異論を述べています。

要約するとこうです。

CO2原因懐疑論A

赤祖父氏:CO2が排出され続けているにもかかわらず、2001年から温度上昇が止まっている。ということはこれまでの気温上昇の原因はCO2ではなく自然変動。具体的には小氷期からの回復や太陽活動との関係が推測されるが、研究途上である。IPCCはこれらの自然変動を考慮しておらず、予測をはずしている。

CO2原因懐疑論B

伊藤氏:IPCCの報告内容について、拙速は危険。なぜなら、観測データによると、気候感度*2は小さい(二酸化炭素が温暖化に与える影響はIPCCの報告より小さい)からである。

CO2原因懐疑論C

丸山氏:近年の気候変動の主因は太陽活動であり、CO2ではない。


以上に対し、国立環境研究地球環境研究センター・江守正多氏の反論はこうです。

CO2原因懐疑論Aへの反論
  • 温度上昇について:温度上昇は止まっていない。過去15年の変化率で見ると近年に至るまでほとんど同じ率で気温上昇が続いている。2007~2008年はラニーニャによる寒冷化が生じたが、現在では収束し気温上昇傾向が回復している。
  • 自然変動原因説について:自然変動は「自然機嫌の強制力への応答(太陽活動変動や火山噴火への応答など)」と「気候システムの自励的な内部変動(エルニーニョ南方振動など)」を区別する必要がある。「赤祖父様のお考えの自然変動がどちらにあたるか、前者であれば強制力は何か、後者であれば内部変動のメカニズムは何かを明確にして頂かなければ、科学的議論の質としてIPCCに遠く及ばないといわざるをえません。」
  • IPCCが自然変動を無視しているという意見について:IPCCは小氷河期も、20世紀前半の温暖化とその後の慣例化も考察しており、予測もはずしていない。


CO2原因懐疑論Bへの反論

気候感度が小さいという証拠は弱い。少数の研究を例示しているが、それがIPCCの結論を導いた多数の研究を凌駕する説得力を持つかどうかを吟味すべき(伊藤氏が例示した研究の信頼性に問題があることについても具体的に指摘)。ただ、地域・局所規模の気候変動にはCO2以外の要因も重要という点については同意。

CO2原因懐疑論Cへの反論

丸山氏が引用している太陽活動を示すグラフに誤りがある。正しいグラフに基づくと、1985年以降太陽活動は低下傾向だが気温は上昇傾向にあるので、丸山氏の主張は根拠が危うくなる。また、成層圏の寒冷化は太陽活動による温暖化では説明困難。


そして、赤祖父・伊藤の両氏とも、上記の江守氏による反論に対する再反論は行っていません*3

丸山氏は、江守氏への返答を続け、最終的にはリアルタイムでメール討論をしていますが、太陽活動に関する江守氏の指摘については回答がありません*4



以上を見る限りでは、「地球温暖化の原因はCO2」論のほうが根拠がしっかりしているように見えます。

では、これで論争には決着がついた、と考えていいのでしょうか。


2021年ではどうなのか

以上の討論は2009年前後のものですので、2021年現在の言説も確認してみます。

前回もとりあげた、キヤノングローバル戦略研究所・杉山大志氏による「「脱炭素」は嘘だらけ」には次の記載がありました。

IPCCによれば、地球の平均気温は産業革命前に比べて約0.8℃上昇した。これがどの程度CO2の増加によるものかはよく分かっていない(P.145)

同書では、なぜ「よく分かっていない」のかの根拠はなく、代わりに「以下では、これが全てCO2の増加によるものだった、としてみよう」と仮定。その上で「温暖化で人類は困らない」という論を展開されています。

一方、同じ2021年、IPCCはこう報告しています。

人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。(中略)1750年頃以降に観測された、よく混合された温室効果ガス(GHG)の濃度増加は、人間活動によって引き起こされたことに疑う余地がない。(P.4)
向こう数十年の間に二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に、地球温暖化は1.5°C及び2°Cを超える。(P.17)

出典:IPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約(SPM) 暫定訳(2021年9月1日版)文部科学省及び気象庁が翻訳したもの

約2,000人の専門家や政府関係者がチェックした報告書*5に「疑う余地がない」とあるのに、具体的な根拠なく「よく分かっていない」と書かれているのには違和感を覚えます。


ただ、上記の報告は杉山氏の本が出版された後のものですので、念のため過去のIPCCの報告を確認してみましたが、むしろCO2が原因であるとする確定度が高まってきている、ということが確認できました。

  • 2001年第3次評価報告書「人間活動が主な原因である可能性が高い(66%以上)」
  • 2007年第4次では「可能性が非常に高い(90%以上)」
  • 2013年第5次では「可能性が極めて高い(95%以上)」*6


IPCCの報告書は信頼できるのか

ところで、IPCCは信用できないと述べている人たちもいます。

「クライメート事件」をその根拠にしているケースもあれば、上記の伊藤氏のように「IPCCの報告書に合致しない研究結果があること」を根拠にしているケースもあります。

では「クライメート事件」とはどんなものだったのでしょうか。これがIPCCの報告書の信頼性をゆるがすようなものなのか、確認してみます。

クライメート事件

これは、2009年11月、英国イーストアングリア大学の気候研究ユニットから流出した電子メールにデータの捏造を疑われる記載があり、それによってIPCC評価報告書への不信感などが報じられた事件です。

具体的には、研究者らが過去1000年の北半球の気温変化のグラフを描く際に、木の年輪などから復元された過去の気温と近年の温度計のデータをつなぐ部分で、恣意的なデータ操作をしていたという疑い等がありました。

この事件については、ミューア・ラッセル卿(元グラスゴー大学学長)を中心としたチームによる独立レビュー組織により報告書が作成されています。それによれば、「科学者としての厳格さ、誠実さは疑いの余地がない。」「IPCC評価報告書の結論を蝕むような行為のいかなる証拠も見出さなかった。」と結論づけています*7

つまり、疑いはあったが、IPCCの報告書には影響がなかったということのようです。

IPCCの報告書に合致しない研究結果の存在

では、IPCCの報告書に合致しない研究結果が存在していることについては、どう考えればよいのでしょうか。

これについては、エネルギー・資源学会誌2009年1月号で江守氏が述べているこの意見が参考になります。

IPCCに対する反論の中には、不確実性を感じさせる知見をたくさん並べたてて、なんとなくIPCCが間違っているような印象を与える手法をとるものがあるように思います。しかし、提示された個々の知見がIPCCの結論にどのような定性的、定量的な影響を与えるのか吟味しなければ、科学的な議論とはいえません。

私自身は、これを読んで「飛行機事故の印象」と「飛行機の安全性」の関係に似ているな、と感じました。

飛行機事故、特に大型旅客機で一度に何百人も亡くなったというような死亡事故は大ニュースになります。一方、自動車事故で一度に何百人も亡くなるようなことは普通はないので、一度の事故の印象では飛行機のほうがずっと強く、恐怖心も感じます。

しかし、統計上の事故死亡率は自動車より飛行機のほうがずっと低いというのはみなさんご存じのとおりです。

飛行機が自動車より危険だという結論には、「飛行機が危険だ」という少数の根拠(1回の飛行機事故での死亡者数)だけではなく、その根拠が自動車事故による死亡率を上回るくらいの影響の提示(この場合は事故の発生頻度等)が必要です。

この「大きな飛行機事故があったからといって、即、飛行機が自動車より危険とはいえない(そのためには発生頻度の比較が必要)」という話が、「IPCC報告書に反する研究結果があったからといって、即、IPCCの報告書が誤っているということにはならない(その研究結果がIPCC報告書の結論に及ぼす影響を定量的・定性的に示すことが必要)」のに似ていると感じた次第です。

IPCCのチェック体制

それでは、IPCCのチェック体制はどうなっているのでしょうか。「約2,000人の専門家や政府関係者がチェックした」といいますが、ただ内輪でチェックするだけなら信頼は難しいです。

  • IPCCで扱う論文は、それぞれの学会で査読が行われたものが対象
  • IPCCでまとめた報告書の原稿にも「専門家」「専門家と政府」「政府」の3回の査読が入る
  • 3回の査読コメントをすべてインターネットで公開
  • そのコメントにどのように対処したかもインターネットで公開*8

査読があれば誤りは必ず防げる、というわけではありませんが(STAP細胞の例もあるし)、これだけのチェックがあり、かつネットでオープンにしているというのであれば、誤りを指摘しやすいですね。IPCCの査読コメントやそれへの対処内容に疑問や異議があれば指摘すればいいのですから。

STAP細胞も結局、そうやって誤りだと判明していったというふうに記憶しています。


「ウソ」「本当」を比べて私はどう思ったか

以上から、IPCCの報告書の内容は、かなり覆すのが難しい内容で、仮に誤りがあったとしても指摘・修正されやすい仕組みになっている、というように私は感じました。

なので、その報告書に「疑う余地がない」と書かれている「地球温暖化の原因はCO2を含む温室効果ガスである」という説は信頼できると思います。

また、研究者同士の討論でも、「地球温暖化の原因はCO2」説についての異論には反論がなされていて、そこで討論が終わっていることも、この説への信頼性を増すものとなっています。



次は、3番目の疑問「地球温暖化は『たいしたことない』のか」を調べています。
(↓このメモです。)


(参考)そもそもCO2はどうやって地球を暖めるのか

以上、ただ研究者の討論の比較と、関係する意見を読んでみて感じたことをまとめましたが、よく考えてみると、そもそもどうやってCO2が地球を暖めるのかについては何も確認していませんでした。

なので、気象庁のサイトから関連する箇所を引用します。

https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/figs/p03.png
引用元:気象庁 温室効果とは

地球の大気には二酸化炭素などの温室効果ガスと呼ばれる気体がわずかに含まれています。これらの気体は赤外線を吸収し、再び放出する性質があります。この性質のため、太陽からの光で暖められた地球の表面から地球の外に向かう赤外線の多くが、熱として大気に蓄積され、再び地球の表面に戻ってきます。この戻ってきた赤外線が、地球の表面付近の大気を暖めます。これを温室効果と呼びます。
温室効果が無い場合の地球の表面の温度は氷点下19℃と見積もられていますが、温室効果のために現在の世界の平均気温はおよそ14℃となっています。
大気中の温室効果ガスが増えると温室効果が強まり、地球の表面の気温が高くなります。

CO2他のガスが地球の外に向かう熱を地球の表面に戻すことで大気が暖められる。まさに温室ですね。


関連メモ

最初の疑問「地球温暖化は起こっているのか」について調べてみたことや、そもそもなぜ私が「温暖化がウソか本当か」を調べたくなったのかや、ウソか本当かを調べる方法について。


注釈

*1:「温暖化論のホンネ」P.57

*2:環境用語集:「気候感度」|EICネット

*3:実際は、伊藤氏の最初の意見に対し江守氏がIPCCへの本質的な反論になっていない点を指摘したところ、伊藤氏が本質ではなく量を問いたいと反論。それに対する江守氏の再反論をメモ本文中に記載しています。

*4:その代わりに丸山氏は「GCM(全球気候モデル)は古気候データのどれを採用するかですべてが決まる」というテーマでの議論をしていますが、これも江守氏に、GCMは古気候データに拘束されていない、逆に丸山氏は古気候データだけでなく近年の気候変動プロセス理論をもってご自身の理論を検証してほしいと返答され、そこで討論が終わっています。

*5:江守正多「地球温暖化の予測は「正しい」か」P.25

*6:温暖化の実態が明らかに | 日経ESG

*7:環境省_英国イーストアングリア大学により設置された独立レビュー組織による「クライメートゲート事件」レビュー結果の公表について(お知らせ)

*8:以上「温暖化論のホンネ ~「脅威論」と「懐疑論」を超えて 」から抜粋


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