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公文書をどうやって・なぜ隠すのか、なぜ増えたのか

ここ数年、公文書が捨てられたり隠されたりするニュースをよく耳にします。

私は民間企業に勤務していますが、文書、特に契約書や決裁文書をすぐに捨てたり隠したりすることはありえませんし、もしやったとしたらそれは大問題になります。ビジネスの約束事とガバナンスの証明になる重要文書ですから、どの企業でも同じ扱いでしょう。

ニュースなどで、「該当の文書は廃棄した」「(ないと言った文書が)出てきた」という政府組織のコメントを聞くたびに、「自分の勤務先がもしこんな対応したら、社会的信用がた落ちだよ」と感じている人は、私だけではないと思います。


一方で、法律は私文書より公文書のほうがより重要だと定めています。

例えば、有印私文書偽造罪は「三月以上五年以下の懲役」、有印公文書偽造罪は「一年以上十年以下」です*1


ではなぜ、政府が作成した公文書が、民間が作成した私文書より簡単に捨てられたり隠したりできるのでしょうか。

この問題については、こちらのルポルタージュが詳しかったので、その内容をまとめつつ、私の考えも書いてみます。

公文書危機 闇に葬られた記録

公文書危機 闇に葬られた記録



公文書の隠し方について私が知った二、三の方法

まず、政府組織は実際にどうやって公文書を隠したり捨てたりしているのか。

いくつかの方法がありました。


そもそもメールは公文書とみなさない


メールの扱い

例えば、大臣などの政治家や政府職員が業務で使っているメール。

これらは、公文書になっていません。

毎日新聞の取材を受けた福田峰之・元内閣府副大臣も、「メールってしゃべっているのと同じ扱いだよね」とコメント。

まあたしかに、民間企業でも、社員が使っているメールを一通も削除するなと規定しているところは少ないかもしれません。

しかし、逆にすべてのメールになんの保全措置もなされていないとなると、政府組織においてそれでいいのかという気はします。

公用メールは使われていない

また、より驚いたのは氏のその後のコメントです。「公用メール?一回も使ってないね。(中略)副大臣室備え付けの官用パソコンを開かないと送受信できないから。(中略)一番使ったのはSNS。LINEだよ。」

うーむ・・・業務上のやりとりを私用メールやSNSで行うのは厳禁という企業は多いのではないでしょうか。私の勤務先もそうです。

それが、大臣クラスの人たちならOKというか、実施されている。これは福田氏だけのことではなく、むしろ政府では一般的なことだそうです。

しかも、公文書管理法を所管する内閣府公文書管理課も、私用メールは公文書にあたらないとコメントしています。

この時点でかなりの違和感を感じます。国政を左右するような情報をLINEでやりとりして大丈夫なのかな。

一方で、公用メールがモバイル対応していないのが(というかそのことこそ)問題の根っこだとも考えます。


ちなみに、ヒラリー・クリントン氏も同じようなことをしました。調査によると、公用サーバに氏のメールが8通しかなく、他はすべて私用メールでやりとりしていたそうです。

が、ヒラリー氏はこのことで大きな批判にさらされ、それが大統領選でトランプ氏に敗北した理由のひとつになったといわれています。


ファイル名をぼかす

国民が公文書のファイル名を検索できるイーガブ(e-gov)というシステムがあります。
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ここにあるファイルは、ファイル名をもとに情報開示請求ができます。つまり、ファイル名は中身がわかるような名前である必要があります。

そのファイル名を、中身が推測できない名前にするのです。

そんなことしていいの?そうしないためのルールは?

あります。国が定めた公文書管理のガイドラインには「わかりやすい名称を付さなければならない」とあり、「文書」「綴り」「その他」などの抽象的な言葉は使わないようにと定めています。

しかし、検索してみるとこんなファイル名が続々ヒットするそうです。たとえば防衛省。「28年度 公文書」「H28その他(1年)」「運用一般(10年)(A)」・・・

これでは中身がどんな公文書なのかわかりません。

しかし最後の「運用一般(10年)(A)」というファイルは、実はイラク人道支援関連の文書でした。このファイル名からこのファイルの重要性を推測するのは不可能です。


公文書を「保存期限1年未満」に設定する

極めつけはこの方法です。

公文書にはするけれど、保存年限を「1年未満」に設定するのです。

こうすると、イーガブへの登録もいりませんし、いつでも自由に捨てられます。前述のファイル名ぼかしも必要ないのです。
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Photo by Levi Clancy on Unsplash

こんな設定があるなんて、ものすごいザルでは?

そういえば、自衛隊日報や森友学園の件でも、このルールが原因で公文書が隠されたり廃棄されていたはず。

実は、このことを踏まえて、政府は2017年12月にガイドラインを改定しています。保存年限を「1年未満」に設定してよい文書を次の通り定めたのです。

  • 定型的・日常的な業務連絡、日程表等
  • 意思決定の途中段階で作成したもので、当該意思決定に与える影響がないものとして、長期間の保存を要しないと判断される文書
  • 他、計7種類*2

対策は打っている。ではそれ以降、ガイドラインは守られているのでしょうか。

毎日新聞が、ガイドライン改定後約1年間の首相面談・官房長官面談の記録を内閣官房に請求した結果、次のことがわかりました。

  • 首相面談79件、官房長官面談は157件分の「レク資料」が開示された。
    • レク資料とは「複雑な課題の要点を箇条書きにしたもので、部下が上司に報告する際の補足資料として使われる」もの。*3
  • 内容は「観光戦略」「国土強靭化計画」「健康・医療戦略」「女性活躍」「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」等
  • しかし、打ち合わせ記録は1件も作成されていなかった。

補足資料は開示されたが、それを首相や官房長官がどう判断したかがわかる打合せ記録は1件もない。

ということは、これらはすべて、ガイドラインのいう「意思決定の途中段階で作成したもので、当該意思決定に与える影響がないもの」なのでしょうか。

もし仮に、首相または官房長官と計250案件打ち合わせして1件も意思決定がなかったとするなら、首相と官房長官、幹部官僚の執務時間のものすごい無駄づかいということになり、どちらにしても非常に問題だといえます。


なぜそこまでして公文書を国民の目に触れないようにするのか

ここまで見ると、政府組織が公文書を隠したくてしょうがないようにも見えます。

それはなぜなのでしょうか。

「トップが適切な対処をしていない」というのはどんな組織の問題にもあてはまりますし、他でたくさん見るので、ここではそれ以外について自分で考えてみます。

幹部官僚の人事権の所在

大きいと思うのは、2014年の国家公務員制度改革です。

これにより、内閣人事局が設置され、審議官以上の幹部公務員を任命する際には、首相・官房長官・閣僚による協議が必要となりました。*4

こういうしくみなら、官僚は、首相・官房長官・大臣のほうを向いて仕事をするようになるのが当たり前だと思います。納税者としてそんな仕事はしてほしくないけど、人の気持ちの多くは結局しくみで決まる。

結果、政治家の足をひっぱる材料となる公文書はできるだけ隠すなり廃棄するなりして、議論を呼ばなさそうな公文書は残すようになる。

ではなぜ、こんな制度をつくったのか。

大きな理由は「政治主導」です。

かつて日本の政治は、官僚主導だと言われてきました。官僚が法律を作り、政治家がチェックする。高度成長期などはこれが非常にうまく機能しました。当時の首相が元官僚だった(池田勇人は元大蔵次官、佐藤栄作は元運輸次官)のも大きかったかもしれません。

しかし、90年代以降、世の中がより複雑になり、複数の省庁にまたがる社会問題を迅速に意思決定していくには、このやり方だと難しいのではないかという声が増えました。元官僚の首相も、宮澤喜一(首相在任1991~1993年)以降出ていません。

また、そもそも選挙で選ばれていない官僚が政治を主導するっておかしいのでは?という意見もありました。

そこで、政治家、具体的には首相や大臣が官僚をコントロールできるしくみをつくるべきという流れができ、その大きな結果が2014年の国家公務員制度改革というわけです。

たしかに、このころから、公文書の扱いについての不祥事が増えてきている印象があります。マスコミ等が報じ始めた時期は、それぞれ南スーダン自衛隊日報問題が2016年、森友学園問題と加計学園学園問題が2017年、桜を見る会問題が2019年です。


「官僚主導から政治主導へ」の流れは、大筋では適切だったのかもしれません。しかし、人事制度がこのしくみのままだと、どうやっても公文書隠しやいわゆる「忖度」はなくならないように思えます。

ルールの設定が中途半端

また、いろんなルールが中途半端で改善につながっていないという点も大きいでしょう。

「ファイル名ぼかし」や「保存期限1年未満」についても、もうちょっとザルにならないルール設定はなかったのかと思います。というか、素人が見てもこのルールでは「だめだこりゃ」と思えます。

これはルールではなくしくみの話ですが、大臣や官僚が私用メールやLINEを常用している実態も、公用メールがモバイル対応していない(前掲書記載当時。現時点では不明)となれば、良し悪しは別にして、それはそうなるだろうとしか言えません。

人が足りない?

実は、公文書管理の管轄部署である内閣府公文書管理課は、「保存期限1年未満問題」に関するガイドライン改正の際、各省庁に意見照会をしています。こんな案を作りましたがどうでしょう、と。

そして各省庁からは、「判断基準や例示などが必要」(会計検査院)、「具体的な線引きをご教示願いたい」(環境省)、「文書管理者によって判断にぶれが生じ(る)」(復興庁)など、的を射た適切なフィードバックがありました。

特にうなずいたのは、国土交通省による「規則の運用に裁量的な余地のある場合、易(やす)きに流れるのが普通である」というもの。その通り。

しかし、公文書管理課は、結局これらのフィードバックをガイドラインに反映させることも、委員会の有識者に照会することもしませんでした。

これはどういうことなのでしょう。「ちゃんと改善取り組みやってます」というアリバイ作りと見ることもできますが、それだけでしょうか。

そもそも人が足りていないのでは。

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Photo by Denys Nevozhai on Unsplash

なんとかしたい気持ちはある。小手先の仕事をしたくてここで働いているんじゃない。でも手が足りない・・・これは、民間企業でもあるあるだと思います。

実際、日本は、人口比で公務員の数が非常に少ない国です。

2016年10月5日Newsweek日本版の舞田敏彦さんの記事によれば、就業者における公務員数の割合が日本は10.7%で,調査対象の58か国の中では56位、つまり下から2番目。「国際的に見ると特異だ。先進国の中でも格段に低い。」と書かれています。*5

日本の公的機関における効率化、たとえばIT化(今は「DX推進」か)はもちろん必須ですが、その辺の進まなさを見ても、「そもそもそれをやる人すら足りていない」のではないかと思えます。

つまり、政府機関におけるいろんな問題の解決には、増税という手段も必要なのかもしれません(できるだけ避けたいけど)。民間企業において「価格競争から脱却しないと問題解決にまわす余力が残らない」のと同じように。


まとめ

公文書はこんな方法で隠すことができる

  • そもそも公文書という扱いにしない(メール等)
  • 公文書としてイーガブに登録されるものは、ファイル名をわざとわかりにくくして、内容を推測させない
  • 文書保存期限を1年未満にする。そうすればすぐに廃棄できるし、イーガブにも登録しなくてよい。
    • ガイドライン改定で、1年未満に設定してよい文書は限定されたが、実行上守られていない

なぜ公文書を隠すのか

  • 2014年から幹部官僚の人事が首相・官房長官・閣僚に左右されるようになったため
  • 一応ルールはあるが中途半端な内容で抜け道があるため
  • 官僚自身は改善しようという意思はあるようだが実務が追い付いていない。公務員数が足りず、手が追い付いていないのかもしれない


公文書危機 闇に葬られた記録

公文書危機 闇に葬られた記録



関連メモ

公的機関のそもそもの問題としてあるのは、この点かもしれません。


これまで読んできた本やまんがの中から、興味深かったものについての要約・感想メモのリストです。

注釈等


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