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地球の気候変動は今どんなサイクルにあるのか?過去にあった「夏のない年」とは?−大河内直彦「チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る」(2008年)

チェンジング・ブルー―気候変動の謎に迫る

人間の影響がなければ、これから地球の気候はどう変わるのでしょうか。本書によると、この1,000年では、温暖→やや寒冷→温暖(今ここ)なのだそうですが・・・関連箇所をメモします。



10〜14世紀

  • この時期、ヨーロッパは比較的温暖。イギリス南部でもワイン製造のためのブドウ栽培が行われていた

今ではちょっと考えにくいですね、イギリスでワイン製造。まったくない、というわけではありませんが、イギリスやアイルランド、ベルギーでビール文化が花開いたのは、この地域ではフランスやイタリアなどワインどころに比べて北にありブドウが栽培しにくかった(が、麦は育った)かららしいですし。少なくともヨーロッパは今よりあたたかかったようですね。



14〜19世紀

  • この時期は小氷期(穏やかな氷河期)
  • ヨーロッパ(0.2℃低い)だけでなく、南米や中国(0.7℃低い)でも寒冷化の影響があった。

たったそれだけの気温低下ならそんなに影響はないのでは?と思いましたが、実態は・・・

  • アルプス:氷河が前進し川をせき止め山間部で洪水
  • ロンドン:テムズ川が毎年凍って毎朝そこで市場
  • グリーンランド入植地:寒冷化により14世紀半ばに全滅(このエピソードは、ジャレド・ダイアモンド「文明崩壊」に詳しいです。)
  • ヨーロッパ各地:小麦、ライ麦の価格が上昇、ブドウの収穫が遅れる

すべて現代では見られない現象です。たった0.2℃でこれほどの影響があるのですね。まあ平均0.2℃だから実際の振り幅はもっとありますからね。ちなみに最後の「農作物の価格上昇」はフランス革命(1789年)の原因になったのではないかという話もあるそうです。

たしかに、20年ほど前の日本でも、米の不作の年にタイ米を輸入したりしたことがありました。現代でも、わずかな天候不順でも大きな影響があるのですから、生きていくのにぎりぎりの人が多かった時代ならなおさらでしょう。

ちなみに、日本の江戸時代もこの小氷期の時期ですが、何度かおこった飢饉はやはり気候変動のせいで起こったのでしょうか。本書では、ヨーロッパ気候寒冷化との関係は不明としています。

では、そもそもなぜ小氷期になったのでしょう。


小氷期になった理由

  • もっとも寒かった17世紀中頃は太陽黒点が最も減少したので、太陽黒点説がとられていた。
  • しかし近年の研究では、黒点数の変化に伴う入射エネルギーの変動は非常に小さいので、太陽黒点説だけでは理由として不十分だと考えられてきている。
  • 現在では、別のいくつかの理由が模索されている。

まあこれがはっきりわかってくれば、現代でも農業その他に与える影響は非常に大きいでしょうね。

ちなみに、この小氷期には、火山による一時的な、でも大きな気候変動もありました。「夏のない年」です。


夏のない年

  • 1815年、インドネシアでタンボラ火山が噴火。
  • 4,200メートルあった山の上部1400メートル分が噴火で吹き飛んだ。
  • この噴火によりインドネシアで10万人が死亡。
  • 火山灰量は、1982年のメキシコ・エルチチョン火山と1991年のフィリピン・ビナツボ火山を合計したもののさらに20倍

この影響で、1816年は「夏のない年(The Year Without a Summer)」と言われるようになったそうです。どんな様子だったかというと・・・

  • ロンドン近郊:8月31日に雪が降った
  • フランス:ブドウの収穫が実質ゼロに
  • アメリカ・ニューイングランド地方内陸部:6月6日〜8日に吹雪、積雪15cm
  • インド・ベンガル地方:天候不順による凶作。これによりコレラが大流行し1832年にヨーロッパに到達、大流行

これはひどい。当時の人々の受けた打撃はいかばかりか・・・日本はヨーロッパよりインドネシアに近いのに、なぜか大きな影響はなかったようですが。



19世紀の後半〜21世紀初頭

この期間、つまり現代に至るまでの百数十年には、地球全体の平均気温が0.8℃上昇しています。人間の活動による温暖化を差し引いても小氷期は脱していると考えてよさそうです。

ところで、現代から過去7,000年の間は、さらにそれ以前の10万年と比較すると「異常なほど安定な気候」といえるそうです。以前の10万年には、海水面が数十メートル変動したり、グリーンランドで数十年間に10℃もの気候変化があったりと、14〜19世紀の小氷期とは比べものにならないレベルでの気候変動があったらしいのです。

このことから、著者はこんな仮説をたてています。

四大文明(メソポタミア、エジプト、インダス、黄河)が栄え始めたのは例外なく6,000〜7,000年前。気候が安定期に入った時期と一致する。気候が安定する前は海水面が頻繁に変化する。これでは街をつくっても移設しなければならない。気候が安定する前は、それによって文明を維持発展させるエネルギーが削がれたのではないか。(以上よしてるによる要約)

非常に興味深いです。この説に畏れ多くも補足させていただくなら、街を維持発展させるだけの人口を維持するには食糧が必要ですが、そのためには安定した作物収穫、つまり気候の安定が必須だったと考えられます。

一方で、四大文明はもはや過去の考え方で、他の地域にも同種の文明はあった(中国だけでも、黄河の他に長江の文明があった)という説もあり、手放しで同意するのは難しいですが、気候の安定と文明の発展の相関関係はとても「ありそう」な考え方だとは思います。



これからどうなるのか

  • 実は40万年前は離心率や歳差(リンク先:山形大学理学部地球環境学科 希ガス・放射年代学研究室)などの点で現在(間氷期、つまり氷河期と氷河期の間の温暖な時期)に非常によく似ている。
  • この時は間氷期が3万年続いた。
  • この比較が正しければ、私たちはまだ長い間氷期の中におり、現在のように暖かい時期はあと1万年ほど続くことになる。
  • もっとも、人間活動が気候に影響を与えなかったら、という仮定での話だが。

もしこれから大幅な気候変動が起こるとすると、それは人間のせいである可能性が高いということですね。本書では、これからの地球温暖化では100年間で1.8〜3.4℃の変化があると記しています。これは、小氷期のたった0.2℃の変化でどれだけの影響があったかを考えると気候の激変と言っていいレベルのものです。改めて、地球温暖化がどれほど「やばい」ことなのかを認識できました。このことが、最終的に本書から得たもっとも大きな学びだと思っています。


その他、興味深かった点をメモします。



深層水が気候に与える影響

  • 深層水は限られた場所でしか形成されていない。グリーンランド近傍の海域とラブラドル海である。これらは世界を巡る深層流のスタート地点である。
  • 深層流のルート:メキシコ湾流 → サハラ砂漠の西側で蒸発し塩分上昇 → 大西洋を北上 → グリーンランド海で低温・低塩分の海水とぶつかる → 氷床から吹き降りてくる冷たく乾燥した風が海面から多量の熱を奪い去る + 海氷の形成(海水から水だけを抜き取る) → 水温低下・塩分増加により重くなった海水の塊が数千メートル下の深海底に「落下」 → 北大西洋深層水になる → 北大西洋をゆっくりと南下 → 南極海 → 北太平洋へ。ここまでで1,000年かかる。
  • この循環がなければ、低緯度地域はもっと暑く、高緯度地域はもっと寒くなっているはず。

深層水って、一時期流行り、今も飲み物や化粧品などに利用されている海の深いところにあるきれいな水、くらいのイメージしかなかったのですが、こんなに雄大な流れがあり、しかも気候に(つまり地球の生物に)大きな影響があったとは知りませんでした。



氷床の中にあった米軍基地

  • 1950年代半ば、グリーンランドにアメリカ軍の極秘基地「キャンプ・センチュリー」があった。なんと氷床の中にである。
  • 幅7メートルあり大型トラックも楽々通れる通路、病院、教会、映画館、フィットネスクラブ、スケートリンクなど32の施設があった。電力は原子力発電機でまかなっていた。
  • この基地で掘削されたアイスコア(筒状の氷の柱。過去に降り積もった雪を保存しているので、過去の気候変動を調べるのに役立つ)が後の研究に大いに役だった。
  • キャンプ・センチュリーは、自身が放出していた多量の熱により氷の流動速度が速くなり、1967年やむなく閉鎖。

冷戦時期だったからこそ、こんなお金がかかりそうな基地をつくることもできたのでしょうね。そして意義のある副産物もあったという。



ところで、以上の紹介内容は本書のほんの一部。とにかく情報密度が濃いのに読者フレンドリーな本でした。気候変動に関しての幅広い「研究者のドラマ」と「興味深い研究結果」、そしてそれを理解するための基礎情報・考え方を丁寧に解説。しかも文章は親しみやすく読みやすい。実に質の高い本です。学生時代に理系の勉強をもっとしておけばもっとスムーズに理解できたのかも・・・とも思いました。


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