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村上春樹さん東京ゆかりの地と料理-早稲田周辺、千駄ヶ谷、「ノルウェイの森」コース、そして小説料理

村上春樹さんの東京ゆかりの地をファン3人で3日にわけてまわり、最後には小説に出てくるメニューを手料理でふるまっていただいたときのメモです。


2024年3月1日 目白

今日は早稲田大学で春樹さんと川上未映子さんの朗読会「みみずくは春に本を読む」が開催されます。ならばせっかくだから、ということで3人とも仕事を休み(私はさらに新幹線に乗って)目白へ向かいます。

まずは春樹さんが上京して、早稲田大学に入学した時に数ヶ月間だけいた宿へ。あの「ノルウェイの森」のワタナベと突撃隊がいた寮のモデル、和敬塾です。


正門。



和敬塾について。創立者の前川喜作さんは、名前から容易にわかるように前川喜平さんの御祖父です。



正門の奥、この写真の左の門柱のすぐ右側に細い白いポールがあるのが見えるでしょうか。これこそが「ノルウェイの森」に出てくるあの国旗掲揚ポールのモデル。ここでしびれる3人。

そしてそのすぐ右に見える建物が西寮で、春樹さんが入寮していたところ。もちろん建物はその頃のものではなく、新しく建て替わってはいますが。



塾の向かって右側(つまり北側)の下り坂を、早稲田大学に向けて下っていきます。この写真の中央あたりに位置するのが西寮です。それにしてもさすが男子寮、カーテンがきちんと閉められていない部屋が多いです。


早稲田大学

塾から早稲田大学までは歩いて10分ちょっとくらい。大隈講堂の前を右に折れてキャンパスの中に入り、演劇博物館と村上春樹ライブラリーのあるところに進みます。



春樹さんも学生時代に通ったという演劇博物館も見学しましたが、ここでは省略します。この写真の右手の村上春樹ライブラリーへ。



村上春樹ライブラリー。



入り口。右側にはライブラリー創立にあたって多額の寄付をしたユニクロ・柳井正さんのメッセージが書かれています。



安西水丸さんの展覧会。願ってもないタイミングでのこの特別展、ありがたい。



個人的に春樹さんの短編の中で一二を争うお気に入り「午後の最後の芝生」が収録されている短編集「中国行きのスロウ・ボート」の表紙になったイラスト。素晴らしい。これが原画で拝見できるなんて。やはり当時いろんなところで評判になったとのこと。春樹さんも「「僕は『中国行きのスロウ・ボート』の表紙を最初に見たときの驚きが忘れられません。ほんとうにセンスの良い、素晴らしい絵でした。」*1と書いてらっしゃいましたね。



展示スペース。



「少年カフカ」の原画と解説。このように原画を見ることができただけでなく、それぞれの創作時の水丸さん自身の筆になるエピソードが紹介されているのも見どころのひとつ。ここでは、本の中の企画で「海辺のカフカ」の製本所を見学に行ったこと、そのとき春樹さんはアロハシャツを着ていたこと、旅先の情景や本屋で見た絵などもじっと見ているだけであとで絵に描くことができること、などが書かれておりとても興味深い。



このライブラリを象徴する階段。ここにある本をじっくり手に取ってよってみたかったけれども、今回は残念ながらそれほど時間がありません。



この繭(空気さなぎ?)みたいなスペースでじっくり本も読んでみたかった。



カフェスペース。ここのレジで、あのイラストをあしらったマグカップがあったので、迷わず購入。

朗読会の時間が近づいてきたので、名残惜しいけどライブラリを出たところ・・・



水丸さんのイラストが外からもほんのりと見られるようになっています。この演出に友人たちと感心。



ポストカードと、アンケートに答えたらもらえたステッカー。


このあとのことはこちらに書きました。



さて、この次の日は、「ノルウェイの森」でワタナベくんと直子が散歩した道をたどったのですが、実は以前に途中までそれをやっているのですよね。なので便宜上、その「以前」にさかのぼります。5か月前の2023年11月へ。「ノルウェイの森」コースの前に、神宮と千駄ヶ谷を訪れました。


2023年11月18日 神宮外苑

信濃町駅で集合。私はこのために関西から東京に来ました。



待ち合わせ場所はつば九郎神社。駅直結のアトレの中にあるのですが、ちょっと入り組んだところにあって、三人とも探すのに少し時間がかかりました。



神宮外苑のほうに向かい、まずは聖徳記念館絵画館前の一角獣の像を眺めます。一角獣といえば「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」ですが、「貧乏な叔母さんの話」にも登場しますね。



そして神宮外苑へ。すでに木を伐採するためでしょうか、工事の準備が始まっているようです。このタイミングで来られて間に合ったと言うべきなのか、遅かったと言うべきなのか。



神宮球場へ。関西在住の私は来るのが初めてです。春樹さんはこの屋根の下をジョギングしていたのですよね。三人でそんな話をしながら歩きます。ウォーク、ドント・ラン。



神宮球場では大学野球をやっていました。おそらく関西在住の私にとってはこれが最初で最後の神宮球場になるでしょう。

オリンピックのミュージアムを抜けて、千駄ヶ谷方面に向かいます。その途中に・・・



「私は地上の風景を頭に浮かべてみた。もし彼女の言うとおりだとしたら、この上あたりに二軒並んだラーメン屋と河出書房とビクター・スタジオがあるはずだった」(「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」下巻より)。


千駄ヶ谷

千駄ヶ谷は春樹さんがかつて住んでいたところ。住んでいらっしゃったと思われる集合住宅が2か所現存していて、その外観も確認しましたが、現役の住宅、つまりお住まいの方がいらっしゃるので、写真は控えておきます。



春樹さんのエッセイでも言及されている鳩の森八幡宮へ。春樹さん曰く「千駄ヶ谷という土地の中で僕がいちばん好きな場所である。」*2



境内にはミニサイズの富士登山ができるところがあります。我々も上りました。



ここを出てすぐ、春樹さんが通っていた理髪店。

個人的な話をすると僕の行きつけの床屋は千駄ヶ谷にある。僕は今のところ藤沢に住んでいるが二ヶ月に三回の割合で小田急のロマンスカーにのって千駄ヶ谷まで髪を切りにくる。藤沢の前は習志野に住んでいた。その時も1時間半をかけてこの床屋に通っていた。習志野に行く前は千駄ヶ谷のこの床屋の近所に住んでいた。

「村上朝日堂の逆襲」所収「何故私は床屋が好きなのか」より




春樹さんが経営していたジャズバー「ピーターキャット」が入っていたビル。ここの2階です。今はイタリアンレストランが入っているようで、ぜひここに伺いたかったのですが、この時は貸切になっていて入れませんでした(お店の方は大変恐縮されていました)。


そして、閑静で緑が多いこの界隈を少し歩いて千駄ヶ谷駅へ。ここから「ノルウェイの森散歩コース」が始まります。

なお、ワタナベと直子が出会ったのは中央線の車内なので、総武線ではなくて中央線に乗り直そうかと言う話も出ましたが、そこまではしませんでした。


ノルウェイの森散歩コース(前編)

「僕と直子は四ツ谷駅で電車を降りて、線路わきの土手を市ケ谷の方に向けて歩いていた。」(「ノルウェイの森」上巻より)

この描写の通り、3人で四ツ谷駅で電車を降りました。

線路脇の土手を市ヶ谷のほうに向けて歩き出します。今回歩いたのは線路脇の東側。千代田区側です。



右手に見える雙葉学園。緑が通っていた女子高はここがモデルでしょうね。




市ヶ谷方面に向かって歩きます。関西で生まれ育った私はよく思うのですが、東京は本当に緑が多い。この散歩道もそうで、歩いていて気分がよくなる。



法政大学を過ぎて、飯田橋に向かって北上。ハワイアンのカフェで昼ご飯を食べました。ビールは「HANALEI」。もちろん春樹さんの「ハナレイ・ベイ」を連想して。


しかし!ここで私に、関西の家族からどうしても今日中に実家に帰らなければならないとの知らせが。ここでノルウェイの森散歩コースは中断となりました。同行のお二人には飯田橋駅まで送ってもらって、そこでお別れしました。続きをまたきっとやりましょうと約束して。

そして、その「続き」は半年もしないうちにやってきました。2024年3月の春樹さんと川上未映子さんの朗読会のおかげで。


で、朗読会の翌日(上記の目白・早稲田の翌日)、以前別れた飯田橋駅で3人が集まり、散歩コースを再開。


2024年3月2日 ノルウェイの森散歩コース(後編)


飯田橋から神保町方面にどんどん歩いて行きます。九段下では日本武道館が見えます。



神保町では有名な喫茶店さぼうるに入り、



サンドウィッチとビールをいただきます。2022年に神戸で、同じ3人で集まった時に、一緒に春樹さんお気に入りの神戸のトアロードデリカテッセンでサンドイッチをいただいたことなどを思い出しながら。



ここから御茶ノ水を抜けて米まで行くのが散歩コースなのですが、神保町から御茶ノ水に入ったときに、ちょっとわき道にそれて、これも春樹さんもお気に入りの山の上ホテルの外観を見に行きました。たしか春樹さん、このホテルのいいところのひとつとして階段があることを挙げておられたと思います。

ちょうどこの数週間前に全館休業に入ったところ*3で、この後どうなるかわからないような状態。これも神宮外苑同様、間に合ったというべきなのか、遅かったというべきなのか。


で、お茶の水から駒込までの間は、それほど散歩に適した道というわけではなくて、車がたくさん通る大通りをの脇をずっと歩いて行ったのですが、その中で目についたランドマークと言えば、この東京大学の赤門。

ところで、お茶ノ水から駒込までは相当な距離があります。歩いて1時間。ですが関西で生まれ育った私は、「ノルウェイの森」をはじめて読んだ高校生当時、東京の地名からその距離感を想像することができませんでした。それが今回、実際にワタナベと直子が散歩したコースを歩くことで、これがどんなに「尋常じゃない」散歩なのかということ、そしてこれが直子のその後の予兆のようなものでもあることを身をもって実感することができたのです。




そして、駒込の駅に着く直前、小説には出てきませんが、六義園によってみることにしました。ここでお茶をいただいて休憩。

ここで「ノルウェイの森」散歩コースはとりあえずお開き。

ですが私たちはここでは解散しません。すぐ近くの駒込駅でJRに乗り、新宿駅経由で総武線へ。この3人のうちの一人Aさんのご自宅で春樹さんの小説に出てくる料理をふるまっていただけるのです!


そして小説料理

酒屋さんでめいめいが好きなお酒を買って(3人ともお酒好き))、Aさん宅へ。



まずはスパークリングワインで乾杯。




既にAさんは下ごしらえを済ましていたので、テーブルについてほどなくして「ダンス・ダンス・ダンス」に出てくる料理がサーブされました。

いやあ、シンプルなんだけど他で食べたことがないものばかり。そしてどれも全く飽きが来ない。いくらでも食べられる美味しさ。なんか春樹さんの作品みたい。




引き続き「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」に出てくる料理。だんだんとより食べ応えのある、メイン感のあるお皿に進んでいきます。もうお酒が止まらない。





どんどん料理をいただきます。これは小確幸ではなくて、大確幸。

好きな小説の話をして、おいしい料理とお酒を飲んで、さらに音楽も楽しみました。3人ともFLIPPER'S GUITARが好きなので、そのライブビデオを見たり。村上春樹さんとどう関係あるのかという感じはしますが、小沢健二さんは柴田元幸ゼミの出身らしく、柴田さんと言えば春樹さんと翻訳に関して共著を出しているくらいですから、まぁ関係なくはないかと(無理矢理)。



デザートは、兵庫県在住の私が、春樹さんが学生時代にデートによく使っていたというアンリシャルパンティエの焼き菓子を差し入れとして事前にAさん宅に送っていたのを出してもらいました。


いやあ、ほんとに忘れられない夜になりました。一緒に付き合ってくれたお二人には心のからの感謝を。


関連メモ




注釈

*1:「村上さんのところ コンプリート版」所収「 どの「水丸さん装丁本」がお気に入りですか? 」(2015年2月26日)

*2:小原流挿花1982年6月号「私の緑地図 村上春樹」より

*3:山の上ホテル全館休業のお知らせ | 山の上ホテル 御茶ノ水・神保町


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