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放送大学「ビートルズde英文法」第1回 All Together Now- 拍と音節の関係

(2024年3月12日更新)

放送大学の2021年基盤科目「ビートルズde英文法」。

ビートルズを使って英語の学び直しをする授業が無料で聴けるというので、毎週聴いています。

おもしろくてためになるので、私自身がこの講義から学んだポイントをノートにとっているのですが、それをこのメモに書きだそうと思います(つまり、講義を網羅的にまとめたものではありません)。


どんな講義で、どうやって聴くのか

どんな講義か

放送大学のシラバス(講義概要)にはこう書かれています。

思慕、歓喜、悲嘆、不満、嫉妬、回想、後悔、至福、誘惑……さまざまな感情と思いが踊るビートルズの歌詞に即し、英語の抑揚とリズム、発音と発声込みで、英語文の成り立ちを基礎から習得する。

引用元:放送大学シラバス

音声のみで1回45分、全15回。毎週日曜日の13:30~14:15放送です。

聴き方

※放送大学ラジオの放送番組のradiko配信は、2024年3月31日をもって終了するとのことです。

PCやスマートフォンからradikoのサイトに接続するか、スマートフォンのradikoアプリ(無料)で聴けます。

しかもタイムフリー対象なので、聞き逃しても放送後1週間は聴けます。

私はPCで「らじれこ」(以前は「どがらじ」という名前でした)という無料ソフトを使って録音し、iPhoneに音声ファイルを移して聴いています。

テキストは

テキストもあります。214ページで2,800円+税と、ちょっと割高に感じますが、大学の教科書としてはむしろ良心的な価格設定かもしれません。

なくても十分学べますが、せっかくなので私は買いました。



ちなみに、2021年4月25日時点では、amazonの放送大学テキスト売れ筋1位のようです。



講師

主任講師は佐藤良明先生(東京大学名誉教授)。ビートルズ来日時に高校1年生。トマス・ピンチョンの翻訳で知られた方ですが、ポピュラー音楽研究者としての側面も有名です。一般向けのご著書としては「ラバーソウルの弾みかた」「J-POP進化論―「ヨサホイ節」から「Automatic」へ」等。

発音担当(以下、よしてるによる勝手な役柄設定です)で、佐藤先生との掛け合いで講義をより楽しく明るいものにしてくださるのは大橋理枝先生(放送大学教授)。とても聞き取りやすいきれいな発音をされています。お母様の英会話の先生から紹介されたカセットテープがきっかけでビートルズが好きになり、1987年(おそらく高校時代)には外国出張に行くお父様に懇願しリヴァプールを訪問されたそう*1

ギター担当は中野学而先生(中央大学准教授)。ウィリアム・フォークナーの研究者。講座ではビートルズの曲を歌うexerciseが頻出しますが、その際に伴奏のギターを弾いてくださいます。「三宅裕司のいかすバンド天国」で難波弘之さんに審査された経験がおありとのこと。

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Session 1 All Together Now

講義の最初に

オープニングは"I Will"

講義の冒頭、いきなり"I Will"が流れ、科目名がアナウンスされます。

この点からして、他の講義とはまったく違う感。なお、オリジナル音源(ビートルズが演奏)がこれでもかというくらい出てきます。この点、著作権が理由でNGになっていないようで何よりでした。もしカバー音源だったら、この講義のおもしろさとありがたみはまったく変わっていたでしょうから。

それにしても、この講義、編集の人は大変でしょうね。講師が3人で、かつしょっちゅうビートルズ音源とギター演奏が間に入るのですから。

英語学習に最適なフレーズをビートルズから引用

講師自己紹介のあと、最初に流れるのは”The Word".

"Say the word and you'll be free, Say the word and be like me." ビートルズを使った英語学習の導入として最高。期待が高まります。

例文もビートルズ

ちなみに、講義で使う例文もビートルズづくしです。こんな感じで。

佐藤良明著 放送大学テキスト「ビートルズde英文法」P.13から引用


さて、講義本編に使用する1曲目は"All Together Now"です。

拍と音節の関係

この回で一番印象的だったのは、歌を使った講義らしく、拍と音節の関係についてです。音節をきちんと拍に乗せて歌うことの重要性が説明されています。

One, two, three, four,
Can I have a little more,
Five, six, seven, eight, nine, ten,
I love you.

The Beatles / All Together Now 歌詞。以下同様。

たとえば、threeはカタカナにすると「スリー」で3音節ですが、英語では1音節。

I love youも「アイラブユー」なら6音節ですが、英語ではI, love, youの3音節。

まあこのことは英語の歌を歌う際に誰もが無意識のうちにそうしていると思いますが(そうしないと歌えない)、この講義ではそこから一歩踏み込んだ解説があります。

この箇所の場合、sevenが歌いにくいと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ここに出てくる数字はすべて1音節になっています。本来はsevenは2音節なのですが、この歌では-enの母音が消えて1音節化しているのです。

つまり、普段のseven、2音節のままでは歌えないということですね。

この歌の後半に出てくる、この部分も同様です。

Pink, brown, yellow, orange, and blue,
I love you.

このyellowもすごく歌いにくいですが、これも本来2音節なのを無理やり1音節にしているからなのですね。

A Hard Day's Night

ビートルズの初主演映画、そしてオリジナルサードアルバムのタイトルでもある"A Hard Day's Night".

このタイトル、英語としてはおかしい、という話は皆さんもご存じかと思います。

どうしてそんなフレーズが出てきたのか。リンゴ・スターが、"It's been a hard day...(今日もきつい日だったなあ・・・)"とつぶやいたけど、もう外が暗くなっていたから「(日じゃなくて)夜だ」とあわてて付け足した。だから結果的に不自然な英語になった、と語っています。

では、リンゴはなぜわざわざnightを付け足したのか。

佐藤先生によると、英語ではdayとnightははっきり区別するとのこと。日本語では「今日も一日きつかった。」と言えるけども、英語ではそうはいかない、ということだそうです。

これも前述のリンゴのインタビュー内容は知っていましたが、nightをあわてて付け足す必然性がわかりませんでした。それをここで学べたというわけです。

言語習得と身体の運動

「言語の基本には、我々が頭で考える以上に、身体のリズミックな運動がある、この点は外国語を習得していくうえで重要なのではないでしょうか。」

佐藤先生の言葉です。

この「ビートルズde英文法」の基本的な方針は、この言葉に集約されています。英語をとにかく口に出す、歌う。

まんが「ドラゴン桜」では、3巻から出てくる英語の先生が、落ちこぼれ高校生に英語を教え直すのに、身体を動かしながらビートルズの"Please Please Me"を歌わせる・・・という話が出てきますが、それを連想しました。


ヴァース、ブリッジ、コーラス

他に学べたのは、ヴァース、ブリッジ、コーラスについて。

ロックやポップスの解説に頻出する言葉なので、なんとなくはわかっていましたが、この講義で「きちんと」理解できました。

英語のポピュラーソングは、verseで始まり、chorusに引き継がれるという長い伝統を持っており

テキストにもこう書かれています。

曲の「セリフにあたる部分」がヴァースで、コーラスとヴァースのつなぎ部分がブリッジ。

One, two, three, four,
Can I have a little more,
Five, six, seven, eight, nine, ten,
I love you.

がヴァースで、

(Bom bom bom bompa bom)
Sail the ship (bompa bom)
Chop the tree (bompa bom)
Skip the rope (bompa bom)
Look at me.

がブリッジ、

(All together now), All together now,
(All together now), All together now,
(All together now), All together now,
(All together now), All together now,

がコーラスですね。

そんなことも知らなかったのかと言われそうですが、定義をきちんと聞き・読んだのは私はこれが初めてでした。

英語の枠にとどまらない講義

それはともかく、これは英語の講義なのでは?なぜ音楽用語を解説する必要がある?

たしかにそうなのですが、おそらく講師の方々は、英語という言語だけでなく、それにまつわる「文化」も伝えたい、そう意図されているように感じます。

実際、第3回ではキーボード奏者の難波弘之さんが招かれ、"Because"のコード進行を解説していました。

英文法の枠にとどまる講義ではなさそうです。



こんなふうに、私にとっては実りが多い講義なので、今後もメモをとっていくかもしれません。

何はともあれ、毎週日曜日の楽しみができ、NHK-FMの「ディスカバー・ビートルズ」が終わってしまったあとの寂しさを埋めていただけるのは、実にありがたいことです。



つづきのメモ

第2~5回。他の英語の講義ではあまり聞かれない「歩格」と、英語とは別に"Because"にいかに音楽的な独創性があるか、等。

第6~10回。「恋のアドバイス」という邦題へのツッコミ、「僕が64歳になったら」という意味なら未来の話。なぜwillを使わないのか?等。

第11~13回。This Boyに仮定法と直接法が混在している理由等。

第14,15回(最終回)。Taxmanの歌詞に織り込まれている「むかつく要素」や、講師3人から楽手者への英語学習とビートルズを関連させたメッセージについて等。


関連メモ



よしてるの英文ブログ



注釈

*1:放送大学テキスト「ビートルズde英文法」P.62


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