明治時代から1960年代に至るまで、「日本人」の定義がどのように変遷していったかを膨大な資料とその分析により明らかにしていく大著。
小熊英二を知ったのは、村上龍が自身のメールマガジンでこの作品と前作「単一民族神話の起源」を激賞したとき。どんなものかと手に取った前作で唸らされ、本作で圧倒されました。
これだけの資料を集め的確に分析しているので、相当説得力のある「事実」が提示されています。そのこともすごいのですが、私が小熊氏の作品を素晴らしいと思うのは、そういった資料を通じてその時代、あるいは資料の作者の「声が」聞こえてくるかのように読ませてくれるところです。引用された文章が息づいて読めるのです。しかもそこから明らかにされる内容が「へえ」の連続(私にとってはそうでした)。要するに面白い。
その上、大著にもかかわらず、内容がスムーズに頭に入り理解できる。簡潔で的を射た文章と構成によるのだと思いますが、ここのところも素晴らしい。読みやすくて面白くためになるという、ノンフィクションの見本のような作品だと感じました。
一方で、結論が非常にシンプルなので物足りなさを覚える方もいらっしゃると思います。私も最初そう感じていました。しかし、この作品で明らかにされる「日本」の方針の非一貫性を目の当たりにすれば、歴史や現状をこれまでと違う目で見るきっかけになるように思います。それは、短絡的でしっくりと納得できないような結論よりも、より強い意義を読者に投げかける力を持っていると思うのです。
小熊氏のその他の著作も非常に面白いのですが(特に「インド日記」は別の側面から著者の考え方や人となりもわかり興味深い)、テーマが個人的に関心のある分野とどんぴしゃだったためこの作品を挙げました。