引き続き、小熊英二さんの「論壇日記 2011.4-2013.3」から。
グローバル経済と村上春樹
2013年1月で、小熊さんは香港における村上春樹の受容を研究している香港人研究者と食事をしました。
そこで聞いた香港の村上春樹読者のプロフィールは次のようなものだったそうです。
- 20代から40代で、比較的豊かで自由度の高い知的職業で働いている
- ジャズやスターバックスに代表される近年の都会的なテイストを好む
- 政治志向はリベラルだが政治運動や労働運動には縁がない
これは、小熊さんが東アジア各地やフランスで聞いたものと同様でした。
特徴としては、日本文化へのオリエンタリズムとはほぼ関係がないということ。「エキゾチックな日本」「東洋趣味」「日本独特の世界」があるから村上春樹を読む、というわけではないのです。
よしてるとしては、その割には海外の村上春樹本の表紙↓にはそれこそオリエンタリズムの視線を感じるのですが、それは措くとして。
haruki murakami cover - Google 検索
(参考)「オリエンタリズム」について
小熊さんは村上春樹作品が世界的に受け入れられている理由を、社会学者の視点で次のように考察しています。
- グローバル経済の中で世界普遍的な憧れになりつつある生活文化と村上作品の親和性が高い
- 村上作品は日本製だから、無国籍風に脱色されており、だからこそアメリカ文化に抵抗がある西欧や東アジアでも受け入れられやすい
なるほど。村上春樹作品の魅力がこれだけのものとは思わないですが、理由のひとつというならわかる気もします。特に「無国籍風に脱色」というところは頷けます。春樹さんの描く世界は、日本人である私が読んでも日本の出来事のように感じないような情景が多いので、
クールジャパンと西原理恵子
小熊さんが日香交流の共同研究プロジェクトで日本のアニメやマンガに詳しい研究者と話したときのこと。
その研究者は西原理恵子さんを知らなかったそうです。小熊さんが「ぼくんち」(四国の貧しい人々を描いている)の内容を話すと「いつの時代の作家ですか」と。
「『ドラゴンボール』や『ガンダム』など広義のファンタジーものは知られているが、西原氏のように日本の生活を描くマンガは接したことが少ないのだろうか。」と小熊さんは述べていますが、同様に「ナニワ金融道」「闇金ウシジマくん」「ブラックジャックによろしく」とかも知られていないに違いないんだろうなあ、と個人的には推測します。
日本のまんがやアニメはいわゆる「クールジャパン」の主要コンテンツのように言われていますが、その全般が海外で受けているわけではなくて、あくまで「ファンタジー」が対象ということ、言われてみれば当たり前ですが、現地の声から改めて気づかされた次第です。