2020年に出会って、何度も聴いている音楽はこちらです。
エンニオ・モリコーネ「1900(Romanzo)」ピアノ:坂本龍一
もっとも繰り返し聴いたのはこの曲。エンニオ・モリコーネがベルナルド・ベルトルッチ監督の映画「1900年」のために書いた"Romanzo"という曲を坂本龍一教授がカバー。モリコーネ追悼でどなたかがTwitterに挙げていらっしゃったのを聴いてから虜になりました。
オリジナルはこちら、オーケストラの曲です。
一番好きなのは、教授が80年代に弾いたエモーション爆発バージョン。数分の曲ひとつで人生を振り返るような壮大さと繊細さ、そしていとおしさがあふれだすような名曲名演。まあ、後半の鍵盤をたたきつけるような演奏はちょっとやりすぎとも思いますが、YouTubeにあるコメントでは「当時、教授とごく親しい仕事仲間の方が亡くなられたことを受けて弾かれたものでもあるよう」とあり、それが事実ならこのtoo much感も必然性をもって聞こえます。
2020年12月29日追記:仕事仲間の方とは、教授のマネージャーをされていた生田朗さんのことだそうです。The Monkeymind You Cube BandのメンバーさんからTwitterでご教授いただきました。ありがとうございました。参考:第6回 「ラスト・エンペラー」坂本龍一|オンリー・イエスタディ|見城徹 - 幻冬舎plus
そんな私にとって大切になったこの曲、マテリアルにたどり着くにはちょっと注意が必要です。
まず上記の「教授が80年代に弾いたエモーション爆発バージョン」の音源は、”Playing the Orchestra"というアルバムに入っているのですが、教授には同名のアルバムが何枚もあるんですよね。その中の最初のもの(1988年)で、かつ初回限定版(3枚組)収録のシングルCDにしかこの曲は入っていません。
あと、Spotifyで「エンニオ・モリコーネ 1900」と検索するとヒットはするんですが、それは別の映画「海の上のピアニスト」のサントラなんです。原題が"The Legend of 1900"だから。主人公のピアニストの名前が「1900」なのでこういうタイトルになるわけです。前述のベルトルッチの「1900」も「海の上のピアニスト」も同じモリコーネが作曲したからこうなるのですが、最初はこれでちょっと混乱しました。「エンニオ・モリコーネ Romanzo」で検索しないといけません。ややこしい。
原曲のピアノ譜も、この混乱のために探すのに一苦労。モリコーネのピアノ譜はたくさん出ていますが、調べた限りではこの「1900(Romanzo)」が入っていたのはこれだけでした。"Theme of 1900"が入ってるのは多いけど、これは「海の上のピアニスト」の曲なので。
- エンニオ・モリコーネの世界 : ピアノ・ソロ (ドレミ楽譜出版社): 1997|書誌詳細|国立国会図書館サーチ(同じタイトルの、1997年版「ではない」ものは内容が異なります)
藤原さくら
最初に"Ellie"を耳にした時、ハスキーなヴォーカルも含めてのアーシーな雰囲気、そして何よりなじみのいいメロディに感心。
で、検索してみたら、これですよ。
Heart Of The Country / Paul McCartney 世界で一番大好きで尊敬しているアーティストです。ポールマッカートニー、無人島に一枚アルバム持って行くなら「RAM」です。とんでもない曲ですよ。 この曲をベストアルバム「Pure McCartney」のdisc1の2曲目に入れたPaulに乾杯をしたいです。
ポール・マッカートニーのファンとしてはこれは驚きであり、納得でした。ほんとにポールの"Heart of the Country"やRAMのエッセンスを別のメロディで体現したような音楽。それが真似でなくあくまで藤原さくらさん自身の音楽になっているわけですから。今年の前半一番聴きました。
私にとってのアルバムのベストはこれかなあ。どの曲にもフックがあって、そういう意味では濃厚なのに、のびのび・さんさんとした空気が流れています。
Jacob Collier
新鮮さを一番感じたのはJacob Collier. 今ごろ聴き始めたのかと言われそうですが、遅ればせながら驚愕しています。前のメモで書いた平野啓一郎さんのラジオ「そろそろいい時間」で知りました。
ジャズをベースにしながらもジャンル不明、でもクロスオーバーというわけでもない「ジェイコブ・コリアー」としか言いようのないサウンド。音楽のいろんな要素が次々出てくる玉手箱のような展開。
オリジナルで今のところ一番好きなのはこの曲かなあ。
でもカバーも秀逸。もとの曲のメロディをちゃんと残しているのに「ジェイコブ・コリアー」になっている。
まだ26歳か、末恐ろしいな・・・と感じたのもつかの間、10代でこのアレンジを自作自演していたことを知り唖然としました。
この一連のYouTube動画を観たクインシー・ジョーンズが、彼をモントルー・ジャズ・フェスティバルに連れて行きハービー・ハンコックと会わせたのもわかるわ。
岡城千歳
演奏面で気持ちよかったのが岡城千歳さんの坂本龍一作品演奏。
こちら「ピアノワークス3」の"Dear Liz"を拝聴して、胸のすく思いというと変ですが、とにかくすっきりしました。教授のピアノもしっとりとしていていいのですが、こういう曲だとやはり細部まで粒だった演奏が大切だと思うんですよね。教授の演奏ではちょっと指がついていっていない箇所も岡城さんは確実に丁寧に紡いでいく。教授のよりずっと表情豊かで優雅で華麗。この曲の場合アレンジはないのに聴こえてくるのは全くの別物です。岡城さんのおかげで、好きな曲に新しい楽しみができてとてもありがたいです。
他にも、こちら"Grasshoppers"も曲の魅力再発見でした。やはり気持ちいいんですよね。
他にも、レア曲"Bridge"の実に丁寧な演奏が含まれているところも貴重。長い曲なので今咀嚼中ですが・・・
この秋の新譜「ワークス4」ではNHK交響楽団のコンサートマスター・篠崎史紀さんとの情感たっぷりの共演がいろいろ愉しめたり(え、ここがバイオリンなの?とか、岡城さんは伴奏も味わい深いなあとか)、私には難しすぎますがラスト・エンペラー等の詳細なアナリーゼが含まれていたりとボリュームたっぷり。
こちらの選曲も「変革の世紀」や「オッペンハイマーのアリア」など、よくぞという内容で感謝です。なかなかスポットライトが当たらない曲を取り上げていただいて。
参考:岡城千歳のCHÂTEAUレーベル大特集!坂本龍一ピアノ・ワークス — 輸入CD卸直販 東京エムプラス公式通販サイト
その他の、何度も聴いている音楽
渡辺美里ベスト盤"harvest"
コロナでほぼ毎日在宅勤務になったころ、毎日ジョギングしながら改めて彼女のキャリアと自分のこれまでを振りかえって、こういう「人生のサウンドトラック」のような存在がいてくれるのはありがたいなとか、やっぱり曲にも恵まれた人だな、と。特に何度も聴いたのは小室哲哉さん作曲の「青空」。
彼女のキャリアをまとめた本「ココロ銀河」もよかった。岡村靖幸さんのデビューが決まった日のお祝いの席で、お酒に弱い美里さんが同じく弱い岡村ちゃんにこれなら飲めるだろうということですすめたのがカルアミルク、という話はこの本で初めて知りました。他にも美里さんの洋楽志向や時代時代の思いなどが写真も含め一望できる「便利」な本でもありました。
岡村靖幸/ステップアップLOVE
岡村ちゃんといえば、DAOKOさんとの掛け合いがスリリングというか火花散らしてる「ステップアップLOVE」、夏がさらに暑くなる感じで身をゆだねてました。「いろはもまだ勉強中」「異論反論また燃え出す」という歌詞から、サウンドから、まあなんというか最近とんと忘れていた何かを再燃させてくれるエネルギーがつまった人間賛歌。
テイラー・スウィフト"forklore"
夏といえば、御多分に漏れず、テイラー・スウィフトのアルバム"forklore"もよく聴きました。アルバム全体に流れる浮遊感・静寂感がコロナで窮屈な夏の一服の清涼剤、というと陳腐ですが、本当にそんな感じ。個別の曲というよりはサウンドそのものに身を委ねていましたが、どれかトラックを挙げるなら浮遊感がもっとも心地よい"august"とポップな"betty""peace"かな。
ポール・マッカートニー"McCartneyⅢ"
コロナだから宅録でアルバムをつくった、というその経緯自体が痛快なのですが、中身も同様。やっぱりポールはやってくれた。
聴き始めて十日余りで感じていることとしては、1)聴くたびに味わいが深まっていく 2)いい音で聴くと味わいが深まる 3)以上2点は良質な音楽であればどの作品にもあてはまるだろうけど、この作品は特にあてはまる(y=ax+bのbが小さくaが大きい)。なんでかは知らんけど 4)とにかくポールのドラム好き という4点ですね。なので毎日、何かを掘り進むように聴いている次第です。
まだこのアルバムについての思いはまとまっていませんが、今年出会った大切な音楽にリストアップすることに躊躇はありません。
再生回数Top10
いろいろ書きましたが、結局、今年、iTunesとSpotifyで聴いた再生回数をLast.fmで集計し、そこから歴史教科書の朗読やマインドフルネス、英語学習系などの音声系を除いた結果はこうでした。
- The Beatles
- 坂本龍一
- Yellow Magic Orchestra
- Paul McCartney
- 渡辺美里
- J.S. バッハ
- 小沢健二
- 藤原さくら
- フランシス・プーランク
- Taylor Swift
来年はどんな音楽に出会えるのか。楽しみです。