庭を歩いてメモをとる

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貴志祐介「新世界より」

新世界より (上)新世界より (下)

[物語]

千年後の日本。14歳の少女渡辺早季は利根川流域の神栖66町に住み、学校で呪力(念力)の使い方を学んでいる。町は自然豊かで八丁標(はっちょうじめ)と言われる注連縄により外界の悪しきものから守られている。ある日、級友と町の外に出てしまった彼女は生物を擬した移動図書館端末に遭遇。人間が呪力を使うようになった忌まわしい経緯と町の異常な管理体制を知ることになる。その後、人語を解し直立歩行するネズミ「バケネズミ」の抗争に巻き込まれ・・・


[感想]
今までに読んだ貴志さんの作品は、現代日本を舞台にしたものでした。それが今回は千年後の日本。そこには貴志さんの想像力がどれほど縦横無尽に駆け巡っているのだろうと期待していましたが、果たしてそれは裏切られませんでした。

科学技術が発達しきった世界、環境が破壊し尽くされた世界などの当たり前の未来世界ではなく、人間が普通に超能力を使い、現代には存在しない異形の生物が跋扈する世界でした。そしてもちろん、それらが存在するに至った理由についてはいつものようにある種科学的な側面を活用しながら説明。大いに楽しみました。

しかし・・・意外なほど、前半に現れた「謎」に対する明確な回答が少ない。たぶんこういうことなんだろうなという自分なりの「回答」は思いつくのですが、作中での言及はない。このことを筆頭に、全体的に他作品に比べて大味な印象を否めませんでした。もっと練り込めばもっとおもしろくなったような気がするのは読者のわがままでしょうか。

もちろん、いつものように「頭からしっぽまで退屈させないエンターテインメント」であり、生物学をはじめとしたトリビアが随所で披露される「知識欲を刺激する書物」であり、また「気持ち悪さを効果的に突きつけるホラー」でもある、いろんな角度で楽しめる小説には違いないのですが、以前に読んだ作品に比べると完成度の点で及ばない気がします。まあこんなことを書いてしまったのも、貴志さんへの期待値が高すぎるせいだと思います。まだまだ他の作品、読んでみたい気持ちは続いています。


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