庭を歩いてメモをとる

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高橋哲雄「アイルランド歴史紀行」

(表紙画像なし)

今回、アイルランド行きの機内で読んだ本です。アイルランドについて、いい点もいまひとつと思える点も率直に、しかし愛情を持って書きつづられた本。

この本には、以前から私が感じていた疑問へのひとつの回答例がありました。その疑問とは、「どうしてアイルランドは海に囲まれているのに、人々はどうしてそれほど魚を食べないんだろう」というものです。伝統料理でも肉はふんだんにでるのに、魚を使ったものはほとんど思い浮かびません。19世紀のジャガイモの病気による大飢饉についても、「魚を食べればもうちょっとなんとかなったんでは」と考えてしまいます。著者によると、水揚げ量は全土合計で愛知県のそれと同じに過ぎないとか。

著者はこれに対し、基本的な理由は宗教から来る伝統だと述べています。ご存じの通りカトリックが生活に根ざしているこの国では、金曜日に肉を食べず、魚しか食べなかった。ここから、魚は代用食というイメージが定着し、さらに貧乏人が食べるものという意識が強くなった、というのです。そんなことだけで魚をあまり食べなくなるというのはちょっと理解しがたい面もありますが、逆に言うとそれだけ宗教の力が強い、ということなのかもしれません。

ちなみに現在は、カキやサーモンはそれなりに名物になっています。そういえば、少し前に、テレビの「世界ウルルン滞在記」でカキむき大会の様子がレポートされてました。あと、友人によれば、現代では「アイルランドでは肉よりも魚のほうが高価なものでそうそう毎日は口にできないものだったように思う」とのことです。状況は変わってきているようです。

他にもこの本では、他にも今まで知らなかったことがいろいろと書かれていて、この国の歴史を眺める上での新たな視点が得られました。例えば・・・

・アイルランド近代史上欠かすことのできない「イースター蜂起」。独立のきっかけとなった重要なもので、国民には誇り高く語られることが多いが、実はけっこうお粗末。ドイツからの兵器援助は受取日を間違えてうまくいかなかったし、内紛も多く当時の市民の多くもついてこなかった。結果的に起こったのはスラム住民による略奪で、子どもが多く参加したので菓子屋、おもちゃ屋、靴屋が特に略奪された。

・なぜダブリンだけで、クライストチャーチとセントパトリックという二つのアングリカン*1大聖堂があるのか?→先にクライストチャーチが土着民の拠点として存在したが、英国王ヘンリ2世がその拠点の権力に対抗するため後からセントパトリックを作ったためらしい。1300年、両教会に「大聖堂」の称号が認められた。

・立派な運河を造ったが水を通してみると水がすべてしみこんでしまい役に立たなかった「水なし運河」(コング)、立派すぎる門を作ったせいで予算がなくなり肝心の館は小さいままになったバリサガートモア城U(ウォーターフォード)、イギリス王チャールズ1世を迎えようとアイルランド一の壮麗な館を作ろうとしたがそのチャールズに殺されて完成しなかった館ジッギングズタウンハウス(キルデア)、設計者が施主の意向を無視して勝手に自分好みのデザインで館を作っていったが、施主は予算内でおさまると勘違いして黙認、結局は予算大オーバーで訴訟になったヒュームウッド城(ウィックロウ)など、建築にまつわるとほほなエピソードがけっこう多い。

まあ、いずれにしても、私にとっては愛すべき国に見えます、アイルランドは。1995年まで離婚できなかったしいまだに中絶はできないなどの「恐怖」はたまに感じますが。

なお、この本は1990年代初頭に書かれているのですが、一部、内容に古さを感じてしまう*2、のはそれだけ90年代以降アイルランドにいろいろ変化があったためでしょう。現在のそういった変化・活気もアイルランドの魅力のひとつになっていると私は感じています。

*1:ここでは、アイルランド国教会のこと。イギリス支配によってもたらされたもので、イギリス国教会のアイルランド版。アイルランドはカトリックがほとんどでアングリカンは信者は少ないが建物は豪華です。

*2:実際の方向に向けて立体的に表示されていてとても見にくい道路標識や、若い女性のヒッチハイクも珍しくないという記述がありますが、2005年現在は両方ともほとんど見かけませんでした。


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