旅行日: 2005年8月18日(木)~19日(金)
空路ダブリンへ
だんだんとなじんできたバラナーからも、この朝でお別れです。宿で早めの朝食をいただいてから、スライゴーへ車を走らせます。約1時間で空港に着きましたが、レンタカーのガソリンを入れるスタンドがありません。日本ならレンタカー営業所のすぐそばにあるものですが、小さな空港だからか、アイルランドが商売熱心でないのか・・・レンタカー営業所で場所を訊いてもよくわからないので、だいたいの方向を聞きそこにあったスーパーでまた道を訊いて、なんとかスタンドを探し出し給油しました。
スライゴー空港。
約1時間のフライトでダブリンに。朝ばたばたしていて疲れたので空港内で少しお茶してから、バスで市内に向かいます。天気はあいにくの小雨。今回はダブリンのほぼ中央にあるセント・スティーブンス・グリーン(St.Stephens Green)公園の向かいにあるホテルに泊まります。
セント・スティーブンス・グリーン・ホテル。かなり疲れていたので、ここでしばらく休憩。サンドイッチを食べ、ビジネスセンターでメールをチェック(無料なのがありがたかったです)。
サイト:O’Callaghan Stephens Green Hotel in Dublin, Ireland
キルメイナム刑務所
ここからは妻と別行動。16時過ぎ、私は、6年前に行けなかったキルメイナム刑務所(Kilmainham Gaol)へ向かいます。
1796年に建てられ、1924年まで使われたこの刑務所は、アイルランド独立にかかわった多くの活動家が投獄されたことでも知られています。
最終のガイドツアー(英語)が始まるまでの間、入り口近くにある展示物を見てみます。囚人のプロフィールなどが掲示されているのですが、それを見ると、当時、ちょっとした罪であっても、そして容疑者が年少者であっても簡単にの刑務所に投獄されていたようです。ローティーンの少年がジャガイモを数個盗んだだけで(記憶が曖昧ですが)ここへ、というようなケースがたくさん。
しかし私は、ここで激しく後悔しました。電子辞書を持ってこなかったことにです。なぜかというと、この罪状説明に使われている単語が、私の知らない言葉ばかりだったのです。larceny, buggery, mug shot...それぞれ「窃盗」「男色」「犯罪者の顔写真」なのですが、見学中は??の連続でした。とほほ。その他にも、この刑務所に投獄された「独立の志士」たちに絡んだ紹介も多く、アイルランドの歴史も学べる構成になっています。
それほど広くないスペースでしたが、展示されている事実そのものが興味深いことに加え、展示方法もなかなか工夫されていました。例えば死刑に関するコーナーでは、世界各国の死刑制度の有無などが解説されているのです。もちろん日本もありました。そして、来場者による死刑制度賛否投票も。私が見た時点で賛成21,062、反対35,718でした。
まだすべての展示物を見終わらないうちに、ガイドツアーが始まりました。当然英語で、話のほとんどはわからないと思われますが、参加してみました。
まず最初に見学したのが教会。囚人たちの心の支えだったようです。逆に言うと、それだけカトリックの信者が多かったってことでしょうか。
監房。古くなっているせいもあるのでしょうが、あまりの荒れ果てぶりにちょっと震えました。
こちらはうってかわって開放的な雰囲気の独房。アイルランド大統領イーモン・デ・ヴァレラが入っていた独房もありました。ガイドさんの説明によると、風呂にいつでも入れたし、食事も栄養価が比較的高かったとのこと。ただしその食事はうさぎスープやうさぎパイだったりしたそうですが。
処刑場。黒い十字架のあるあたりで囚人が銃殺されていたとのことです。例えば、独立運動「イースター蜂起」のリーダーのひとりジェームズ・コノリーは、蜂起での怪我で入院中のところをこの処刑場に連れてこられ、体を椅子に縛られたまま銃殺されています。
刑務所にこれほどいろんなトピックがあるところに、アイルランドにおける英国支配の重みを感じさせられました。
6年前泊まったホテルにて
この後、ダブリンの反対側にあるあるホテルに向かいます。突然大雨になりましたが、それでも傘をささずに歩いている人がわずかながらにもいるのには驚きました。すぐにやむからなのでしょうが、果たしてそのとおり、雨は10分程度でやみました。
最近導入されたルアス(Luas)と呼ばれるLRT(次世代型路面電車)。ちょうどお勤め帰りラッシュの時間帯ということもあってか満員。しかしこのルアス、乗り場にある自販機でチケットを買うのですが、検札もなければ券を持ったまま降りることもできるなど、完全に乗客を信じきったシステムになっていました(後でダブリン在住者に確認しても、その気になればいくらでも無賃乗車はできる、やらないけどね、と言っていました)。
行き先のホテルは、6年前妻と新婚旅行で泊まったところ。今回はそこに泊まるわけではないのに、なぜそこに向かったのか?実は、6年前、ホテルの料金をカードで払った際、最終宿泊日にきちんと支払いができなかったにもかかわらず、ホテル側がそれに気づかずチェックアウトできてしまっていたのです。
帰国後気がついてメールで問い合せたところ、では引き落とせなかった分を小切手で送ってほしいと言われたのですが、調べてみるとその手数料だけで数千円かかることがわかり、結局ほったらかしにしていたのです。でも今回、せっかくダブリンを訪れたので、それを支払いに行くというわけです。
馬鹿正直と笑われるのを覚悟で、ホテルのフロントに事情を説明します。最初フロントの青年は、私が「6年前」と「6日前」を言い間違えていると思いこんでいました。いやそうじゃなくて、と説明すると大変驚き、なぜわざわざ?と尋ねてきました。新婚旅行でいいサービスをしてもらった(何も言わないのにただでスパークリングワインを部屋に届けてくれたり等)のに未払いというのが申し訳なくて、と話すと、青年はさらに驚いた様子でマネージャーに事情を説明、経緯を記した領収書をわざわざ発行して、正直とは大事なことだとビリー・ジョエルのような言葉を言いつつ笑顔でお金を受け取ってくれました。ああすっきりした。
ダブリンの夜
セント・スティーブンス・グリーン・ホテルに戻り、妻と、妻の友人と合流します。この妻の友人Aさんはイギリス人ですが大阪で私の妻と働いていたことがあり、その時に我々夫婦と知り合った方。現在はロンドン在住ですが、今回、わざわざダブリンまで私たちに会いに来てくれたのです。
しかも、Aさんにはダブリンに住むお兄さんがいるので、その方においしい店を紹介してもらって、3人で舌鼓を打つことに。
その店とは、Gallagher's Boxty House。テンプル・バーのにぎやかな界隈にあります。アイルランド伝統料理を食べさせてくれる人気店とのことで、かなりの混雑です。
この店のメイン料理であるBoxty。肉などをクレープのような衣で包んだ料理です。くせがなく素直においしかった。満足。飲み物は、Aさんおすすめのリンゴベースのリキュール。ここではBulmerをいただきました。
Aさんは日本に在住していたこともあるし、現在も日本の新聞社のロンドン支局に勤務しているので、お互いの近況報告の後はどうしても日本のニュースに話題が移ります。このときは、なんといっても郵政民営化のトピックがメイン。Aさんに言わせれば、こんなにおもしろくわかりやすい政治ネタはなかなかないとのこと。ダブリンでイギリスの人と日本の郵政民営化について雑談するというのもなかなか不思議な感覚でしたが、「なぜ郵政民営化がそんな重要なの?」といったシンプルな疑問について意見を交換するのは、もちろん楽しいひとときでした。
2次会はAさんのお兄さんも合流して、Oliver St. John Gogarty'sの2階のパブへ。アイリッシュミュージックのライブを聴きに出かけたのですが、ものすごい混雑で飲み物を注文するのにもひと苦労。音楽よりも、その熱気と雰囲気を味わったという感じでした。余談ですが、珍しくほとんど日本人を見かけなかったこの旅行で、初めて何人もの日本人を見た場所でもあります。
結局、1時ごろまでお店にいました。Aさん兄妹がホテルまで歩いて送ってくれたのですが、こんな時間でも物騒な雰囲気を感じなかった外国の首都は、個人的には初めてです(いくらダブリンでも、場所によると思いますし、おすすめするわけでもありませんが)。西部の静かなたたずまいとダブリンの熱気の両方を味わえた1日でした。
つかの間の再会
いよいよアイルランド最終日。今日の昼過ぎには機中の人になる私たち。しかし、そんなつかの間にも訪ねてきてくれる妻の友人がいました。しかも、なんとベルファスト(北アイルランド)から子ども連れで、です。バラナーから電話で話しているうちに、唯一会えるタイミングがここ、ということで決まった再会です。
セント・スティーブンス・グリーンの入り口
喫茶店と、セント・スティーブンス・グリーン(公園)で妻と妻の友人が話し込んでいる間、私は妻の友人の子どもD君(5歳?)の相手をしていました。彼は、お母さんから聞いた日本の「じゃんけん」に夢中なので、その相手です。たかがじゃんけんでこんなに夢中になれるなんて、というくらいに熱中してくれます。しかし何より驚いたのは、その「じゃーんけーん」という発音。まるっきり外国人っぽくない、日本人そのもの。今この場で教えたばかりの言葉でも見事に習得する柔軟性は年齢のたまものなのでしょう、さすがです。
それから他に少し驚いた点があります。この妻の友人も含め、他のほとんどのアイルランド在住者と話をして感じたのが、私の仕事内容に対する理解です。私の仕事は、お客さん(企業)にコールセンターのアウトソーシングについてコンサルティングするのがメイン。ちょっとわかりにくいですよね。お仕事は何ですか、と訊かれたときこのことを説明すると、日本では「電話を受け付けるオペレーターをなさっているんですか」とおっしゃる方が時々いらっしゃいます。無理もないと思います。一方でアイルランドでは、アウトソーシング(外部委託)というビジネスへの認知が非常に高く、「ああ、クライアントが自社の電話受付部門をあなたの会社に外注するときに、それがうまくいくようにあなたが相談に乗ってあげてるってことね」、とほぼ確実に理解してもらえました。実際にアウトソーシング関連の仕事をやっていたという人もいました。確かに、アイルランドは英語が母語で教育水準も高い割に人件費が安い(今はそうでもないが)ことから、英語圏の様々な国のアウトソーシングの受け皿になっており、それが経済成長の一因になっているわけで、私はそれを肌で実感したということなのかもしれません。
さて、あっという間に再会の時は過ぎ、お昼近くになりました。
ふと道路に目をやると、製菓企業が宣伝のためか、お菓子の無料配布を始めました。で、開始後1分くらいでこの人だかり。それにしても、大人の、しかも男性がお菓子に群がる光景って日本ではあまり目にしないかも。なんだかほほえましくも思えます。
帰国の途に
ホテルに戻り、チェックアウト後スーツケースを持ってバス停まで移動。普段は重くてしんどい移動ですが、セント・スティーブンス・グリーンの中を散歩しながらなので、けっこう楽しくもあります。
さて、バスを待っているといわゆる白タクがやってきました。次のバスまで時間があるようだし、使ってみました(おすすめはしませんが)。特に問題もなく空港に到着。
レンタルしていた携帯電話。今回、妻が友人と連絡をとる際、大活躍してくれました。空港で、レンタルしていた携帯電話を旅行会社に郵送で返却しようとしたところ、携帯電話を入れた封筒が分厚くなっているせいで、空港のポストに入らない!仕方なく空港内の郵便局の窓口に出しましたが、時間があまりなかったのでちょっとあせります。
ばたばたしているうちに飛行機はダブリンを離れました。ほっとしながら今回の旅を振り返ってみると、ゆったりした旅程を組んだ割に、たくさんの人に会えたおかげもあって、かなり濃密な旅になったなという実感があります。これが心地よい疲労となって、機内ではよく眠れました。
今回は、新婚旅行で訪れてから6年後の再訪でした。次も6年後、あるいはもう少し後になっても、またアイルランドを訪れて、妻が友人と再会を楽しめるといいな、と思っています。なんだか日本国外にも「帰るところ」ができたような、そんな感覚です。