[物語]
作家・高梨は、新聞社主催のアマゾン探検隊に参加したが、ある出来事以来、急にそれまで生活を共にしていた原住民から追い出され帰国することになった。高梨の婚約者で精神科医の北島早苗は、その後の高梨の変容に気づく。そしてついには、誰よりも死を恐れていた高梨が自殺をしてしまった。その後も、探検隊のメンバーが、またまったく関係がなさそうな人物が、その人物がもっとも恐れていたことを実行し死に至る事件が相次いだ。これはいったい何を意味しているのか?北島は調査を始めていく・・・
[感想]
角川ホラー文庫ということである程度は覚悟して読み始めたのですが、これほど「生理的嫌悪感」と「読むのを止められない感」が両立し続けたエンターテインメント小説は初めてでした。ストーリーそのものは、中盤以降はある程度予測はできます。むしろ、常にいやな予感が頭を支配し、そのいやな予感が的中していく(というか、そのかなり右斜め上であることが多いですが)ことの連続。
では先が読めてつまらないのかというとまったくそうではありませんでした。まずは次から次へと出てくる、しかし無駄な使い方はほとんどないトリビア。生物学がメインですが、医学、神話から細かいところでは囲碁、そしてこれは懐かしかったのですが十数年前のネット事情など、様々な興味深い情報が好奇心を刺激し続けます。読みながら、こんなことほんとにあるのかなと思って検索をかけたことも何度かありましたが、引用されている情報はすべて正確だったようです。
続いて、エンターテインメントとしてよくできたストーリー展開。飽きさせないように刺激が続きます。いい意味でハリウッド的。
そして何よりもこの作品を印象深くしているのは、読者の精神的苦痛を引き上げるアイデア、描写、事実引用の数々。単純なスプラッターとか汚辱ではなくて、人の精神の弱点を的確に突いてくるようなやり方です。嫌すぎてかえってそれが魅力になっているという。
睡眠をかなり重視している(しないとすぐ体調が悪くなる)私が寝る間を惜しんで読書することはほとんどないのですが、これは数年ぶりにそれに該当しました。貴志祐介の次の本はもう予約しました。楽しみこの上ないです。(「青の炎」です)