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真山仁「ハゲタカ」「ハゲタカII」

ハゲタカ(上) (講談社文庫)ハゲタカ(下) (講談社文庫)
ハゲタカ2(上) (講談社文庫)ハゲタカ2(下) (講談社文庫)

[物語]
1997年、外資系企業買収ファンド(ハゲタカファンド)の辣腕マネージャー鷲津政彦と、三葉銀行で不良債権処理を担当しつつターンアラウンド・マネージャー(企業再生担当者)を目指す芝野健夫、日光の名門ミカドホテルの再生に一身を捧げる松平貴子の3人を軸に、不良債権処理や企業買収・再生の実態を描きつつ、実在の企業及び実際の事件をモデルにした展開にスパイ小説のような権謀術数・心理戦を織り込んだ意欲作。

[感想]
もともと企業買収や不良債権処理に何の知識もなかった私ですが、スムーズにどっぷりはまれました。エンターテインメントとして飽きさせない上に、普段知り得ない企業買収の内幕や実在の企業(三和銀行、東ハト、カネボウ、キヤノン等)や事件のイメージも得ることができたという点で、なかなかお買い得な小説だと言えるでしょう。もっとも、著者自身は、「現実世界の暴露」ではなく、「日本の企業買収を取り巻く環境」について事実に即して書いたつもりとのことで、あまり「この小説に書かれていること」=「実在の企業のドキュメント」とは捉えるべきではないのかもしれませんが(実際、特にIIでは登場する企業はいくつかのモデルをかけ合わせている感じです)。軸となる3人もそれぞれに魅力的で、彼らを取り巻く癖のある人物たちもエンターテインメント性に磨きをかけています。

この小説を読んでイメージが大きく変わったのは、ハゲタカファンド(実際はハゲタカという鳥は存在しないそうですが)といわれる外資系ファンドについてです。死に体の企業を買って儲かるところだけ残して利益だけをかっさらっていくという感覚があったのですが、この小説では、経営者が企業を私物化しているような場合、それを正して価値のある企業に変身させるプラス面についてもしっかり描かれてありました。

あと、著者は日本という国への愛着と危機感を持っているんだなということが随所で感じられました。この小説のテーマは「勇気を持って日本の国が抱える問題を正視しよう」ということだそうです。そういう点でも、個人的には読んでよかった作品でした。


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