庭を歩いてメモをとる

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ジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄」

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)


ヨーロッパ人がオーストラリアを初めて訪れたとき、先住民は金属器すら知らなかった。インカ帝国はあっという間にスペインに侵略された。なぜこのようにユーラシア大陸とそのほかの大陸では文明の発展に差ができたのかという疑問に対しての回答を、「人種的な能力の差」ではなく、人類学、生物地理学、言語学などの様々な分野を駆使して論じた本です。

テーマ自体が個人的にはものすごく興味深い上に、読みやすい文章、脱線しない程度の様々な興味深いエピソードの紹介、全編にあふれるささやかなユーモアはさらにこの本を魅力的にしています。もうはまりまくりました。電車の中で読んでいるうちに止まらなくなり、駅に降りてから自宅までの10分の道のりすら我慢できず駅のベンチでそのまま最後まで読み切ってしまったくらいです。

以前から、なんでこんなに国の発展具合が違うのかは大きな疑問だったんです。歴史に関する興味はすべてそこに行き着くといっていいくらい。ヨーロッパ人はアボリジニより優秀なのかなあ・・・とも感じつつも、割り切れない思いはずっとありました。

その割り切れなさに対して、「発展に差ができたのは、究極的には地理的な要因、つまりその地域に栽培可能な植物や家畜化可能な動物が多いか、そしてそれらを栽培・家畜化し続けることができる環境かどうかで決まる」と述べるこの本は新鮮で非常に興味深かったです。

こう書くと、当然「そんな単純なものじゃないだろう」と思われるでしょう。もちろん、今のような格差のある世界になった道のりは単純ではありません。しかし、それを驚くほど幅広い分野の研究から分析し、結果的に充分納得できる(と私個人は感じました)内容にしていくその過程には魅せられ続けました。

こんなに面白い本が、結局「人種ではなく環境」という結論を導き出しているということから、私は逆に、「環境」がどれほど恐ろしいものかを痛感させられたともいえます。

あと何回、こんな面白くて物の見方を激変させる本に出会えるのかな。

注:なお、この作品の原書には参考文献一覧があり、秀逸な読書ガイドにもなっているのですが、邦訳時にはなぜかカットされています。出版社である草思社は後にこれをサイトに掲載していましたが、最近はアクセスできないようです。一方で、山形浩生氏が自身のサイトで「翻訳権・著作権侵害にあたります」と断った上で有志と訳を完成。その成果は今も読めます(こちら)。

追記:文庫化にあたっては、日本に関する章が追加されています。これも山形浩生さんがご自身で訳されています。(こちら)。


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