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佐野眞一「東電OL症候群」

東電OL症候群(シンドローム) (新潮文庫)

4月21日のメモに書いた「東電OL殺人事件」の続編。事件の被告人であるネパール人に無罪判決が出た後、高裁で逆転有罪になってしまった段階でのルポルタージュです。

全体を通じて感じるのは、前作同様、佐野氏がこの事件にはまりこんでしまい、いつもの佐野氏のルポルタージュとは違ったかなり主観的な感覚で書かれている点です。いろんなところで被害者の幻影を見た気になったりする記述が連発。個人的にはこの点は残念です。佐野氏は、彼自身の言葉を借りるならこの事件に「発情」してしまっているようで、事件の周辺を深く掘り下げようとはしているものの、客観的なルポにはなり得ていないなという印象です。

とはいえ、読んでいて興味深かった点はいくつかあり、退屈はしませんでした。一番驚いたのは、裁判官・判事のかかえるプレッシャーについてです。

この事件の一審での無罪判決の後、高裁で裁判のやり直しをいったん否認したものの1ヶ月後に正反対の結論を出し、逆転有罪への道筋を作った可能性のある判事が、児童買春で逮捕されています。それをきっかけにして、著者は人に刑を下す裁判官のかかえるストレスについて調べていくのですが、人によっては、重大な判決の際、泣きながら判決文を読み控訴をすすめた裁判長もいるそうです(この事件とは別の事件)。

それってどうよとは思うものの、刑事事件で判決を下すという仕事の重みを、わずかながらでも意識することはできました。確かに、人の人生を完全に変えてしまう仕事。他にもそういう仕事はたくさんありますが、基本的には「人助け」の方向で統一されている。でも、法曹の人々は、誠実に仕事を進めた結果、人を死に追いやることもあるわけです。

そういえば、以前読んだ小説「13階段」には、死刑執行の決裁文書は170枚ほどあると書かれていました。もしこれが本当なら、170枚の文書を作成する膨大なエネルギーを「人の死」に向かわせられる文書作成者の心境はいかほどか、と思ったこともあります。

少し話がそれましたが、総じて、この2冊のルポを読み終わっての個人的な感想は、著者が事件に対する客観性をかなり欠いている点が残念だったものの(他のルポがもっとよいバランスで書かれているだけに余計に)、普段意識したことがない世界を見せてくれたという点では十分に満足できるシリーズだった、というものです。いろいろ書きましたが、佐野氏のルポは今後も読んでいくことになると思います。


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