[物語]
新約聖書の「マタイ伝」をそのまま映像化。イエス・キリストの生涯と復活を描く。
[感想]
もと舞台俳優で相当な映画好きである前ローマ法王ヨハネ・パウロ2世がお気に入りの映画ランキングで2位に挙げていた(1位は「シンドラーのリスト」)ということと、その映画を創り上げたパゾリーニ監督が無神論者だったということで、そりゃいったいどんな作品なんだと思って観てみました。
ほんとにそのまま聖書をダイレクトに映像化しているな、というのが第一印象です。そしてこれは、聖書を読んだことがない人への「福音書入門」としても、おそらく聖書を何度も読んでいる人にも新たな視点でイエスの生涯を見直せる「中上級者向け映像版福音書」としても通用するんだろうな、とも感じました(ちなみに私は四福音書をおそらく10回以上は通読していますが、クリスチャンではありません。)。そういう強力な純粋さを保った映像作品だと思います。
映像の力といえば、突然人のアップが登場したり奇跡が起こったりという「いきなり感」がすごいな、とも感じました。これってどこかで感じたような・・・北野武監督作品かな(順番が逆ですが)。
一番印象深かったのは、若きマリアがエジプトに向かうときの表情でしょうか。将来王になる人物が産まれたというお告げを得たヘロデ王は、その時に国内にいた赤ん坊全員を殺してしまうのですが、天使がそれを事前にマリアとヨセフ夫妻に告げ、エジプトに一時逃亡するように命じるのです。その時、何も知らずに残った人々に向けるマリアのまなざし。そう、彼らイエスの家族は、人々に何も告げず去っていったのです。聖書を読んでいるとなんとなくしかわからないこの事実を、パゾリーニはクリアーに描き出していました。
あと、当然ながら、イエスの印象的な言葉も満載です。「自分はこの世の中に平和をもたらしに来たのではない、剣をもたらしに来たのだ。父や、母や、姑に敵対させるために来たのだ。」 特にアクションをつけるわけでもなく、ただ言葉を発するイエスのみをとらえただけの映像であっても、映画で見聞きすると改めてその強烈さに震撼しました。
イエスが、いかにいろんな意味で強烈な人物だったかを、聖書をダイレクトに映像化することで改めて描き出したのがこの作品なのかもしれません。