庭を歩いてメモをとる

おもしろいことや気になることのメモをとっています。

「パピルス」2006年8月号 村上龍の創作現場

papyrus (パピルス) 2006年 08月号 [雑誌]


ロングインタビューや本人コメントつきの年表もおもしろかったのですが、特に目を惹いたのは「半島を出よ」の創作プロセス。


まず最初に核が生まれる。

核は最初から物語です。・・・探して見つかるようなものではありません。そもそも、小説のネタは探しても絶対に見つからないものだと思います。


資料を集め、取材する。物語の重要な場面になるシーホークホテルには20回以上、毎回違う部屋に泊まったそうです。取材当初にはホテルがああなってしまうというアイデアはなかったんだとか。これは意外。あんな重要な展開も後から出てくるもんなんだ。やっぱりプロットを書かず、「核」から積み上げるタイプなのですね。

そして執筆。恐ろしいほど付箋を使うようです。アイデアが出れば即書いて貼るので、仕事場のあらゆるところに貼ってあるとか。誌面では、その実物もいくつか紹介されています。

『五分後の世界』『ヒュウガ・ウィルス』を書いていた頃は、すごいシーンを書いたなって自分でも思ったときは、興奮して一人で酒を飲んでビートルズを歌ったりしていたんですよ。・・・でも『半島を出よ』ではそういうことはなかったです。自分で自分を戒めていたんですよ。ちょっとうまくいったからってはしゃぐなと。・・・いつものように、静かに風呂に入って、映画を観て寝る。

「半島を出よ」が龍さんの小説には珍しく、最初から最後まで同じような緊張感とエネルギーを保ち続けていた理由はこのへんにあるのかな。


そういえば、龍さんの創作といえば、思い出すのが担当編集者のコメント。1998年頃、ファンのメーリングリスト主催で当時の担当編集者を会場に呼んでインタビューするという企画があったので覗いてみると、3人(だったと思う)の編集者のコメントで共通していたのが次のふたつだったのです。「締め切りに遅れることがない」「最初にお会いしたとき、『どう、コーラでも飲むか?』と龍さんから誘われ、リラックスさせようとしてくださっていた」作品世界から受ける印象と正反対とも思えるし、一方で順当だとも思えるようなコメントでした。


総じて、龍さんって、ビジネスマンとしても「いい仕事をしている」人なのかも、という印象です。いい意味で。


(広告)