10日間聴き込んでみた、本日時点での全曲感想です。
1.ダンス・トゥナイト
最初は、「え、これがシングル?弱くないかな?」って印象でした。もうひとひねりほしい。何度か繰り返し聴いてもその思いは変わりませんでした。でも、この曲のいいところを30秒に凝縮し、かつこのうえないポップセンスあふれる映像をつけてくれたアップルのCMで一挙に好きに。6月15日のメモにも書きましたが、映像の力は侮れませんね。
ところで、この曲の間奏のギターが「サザエさん」のエンディングの間奏に似ている、という指摘が2ちゃんねるにありました。はははなるほど、と思って妻にそれを話したら、彼女は最初に聴いたときからそう思っていたとのこと。それ以来、我が家ではこの曲は「サザエさん」のコードネームで呼ばれることになりました。
ちなみに、iTunes先行予約限定アコースティックヴァージョンは、アドリブヴォーカルが随所に入ったりしてよりカジュアルで楽しそうではあるんですが、この曲のひとつのポイントだったビートの利いたバスドラムが軽くなっているところが個人的には残念かな。
2.エヴァー・プレゼント・パスト
この曲がアルバム発売より先行で流れはじめたとき、その意表を突いた、「今他に誰もやりそうにないサウンド」に、アルバムへの期待が高まったものです。でも何度も聴いた今、この曲で一番魅力に感じるのは、その独特なサウンドでも自在なメロディでもなく(それらもいいなとは思うんですが)、ポールのダブルトラックヴォーカルかな。ポールのヴォーカルの健在ぶりを示してくれていると思います、この曲は。
3.シー・ユア・サンシャイン
ベースを聴いてるだけでも面白い曲ですね。最初から最後まで。逆に言うと、せっかくメロディや展開も興味深いのに、ベースばっかりに耳がいってしまう面もあります。曲総体の完成度はかなり高いように感じています。
4.オンリー・ママ・ノウズ
こういう曲を待っていたポールファン、たくさんいたんじゃないでしょうか。もちろん私もその一人。彼にしか書けない、ストレートに見えて実はいろいろひねってある、でも素直に楽しめるロック。何よりかっこいい!聴き始めから今に至るまでずっとお気に入りです。欲を言えば、このタイプの曲、もっと書いてほしいなあ。個人的に大好きなポイントは、メジャーコードに乗った"Only Mama knows〜"と最後の"never knew↑〜"。
5.ユー・テル・ミー
残念ながら、ボーナストラックを除けばアルバムの中で一番聴き返した回数が少ない曲です、現時点では。じっくり聴けば味わい深いようにも思うんですが、まだ他のお皿をいただくのに忙しくてなかなかここまで箸が伸ばせない、という感じです。手抜き感は全然ないので、そのうちしっかりいただくとは思うんですけど。
6.ミスター・ベラミー
おもしろい。またポールが新しい一面を見せてくれた、そういうところが好きです。それにそれだけじゃなく、最初から耳について離れないフレーズがポンポン出てくるのはさすがという感じです。でも個人的には、ラストの1分10秒はなくてもよかったかな。
7.グラティチュード
いい曲だと思うんですよ。アレンジも。肯定パワー全開で何のてらいもない歌詞も。でもポールのヴォーカルが・・・つらいです。そこがもったいない、と聴くたびに思ってしまいます。かと言って70年代のポールに歌ってもらったとしてもこの曲の「深み」を表現できるとは限らないし。そんなわけで、この曲には聴くたびに複雑な気分にさせられます。デヴィッド・カーンはそのへん何も言わなかったのかな?
8.ヴィンテージ・クローズ
最初のピアノを一聴したときから、何かいいことが起こりそうな予感が背中を走りました。そしてその予感はあたっていました。4.と同じくストレートに楽しめるけど実はいろいろひねってあるってところ、歌詞、メロディ、そして何より口笛部分が大好きです。個人的にはポールの口笛、それも短いのには即やられてしまうんですよね。その筆頭は「リトル・ラム・ドラゴンフライ」のあれなんですけど、この曲のはその次くらいにお気に入りになるかもしれません。
9.ザット・ワズ・ミー
前作のシングル"In the Summer of '59"と曲調も歌詞の世界もなんだか共通性を感じます。
歌われている世界は興味深いけど、他の曲に比べると少し面白みに欠ける気もします。
10.フィート・イン・ザ・クラウズ
理由はよくわからないんですがなぜかすごく好きになってしまった曲です。最初のありがちなギターのカッティングから、ベタな"〜ed"や"〜re"での韻のふみかた、もっとベタな"very very very..."、ボコーダーを使った多重コーラス、全部なぜか愛おしい。曲総体としてもお気に入り。自分でも予想していなかったのですが、今のところこのアルバム中再生回数トップです。
11.ハウス・オブ・ワックス
個人的に、曲の完成度とポールの「新境地開拓面」ではアルバムで一番ではないかなと思っています。また、一種の荘厳さと怖れのようなものが混じった、独特の畏怖の念のようなものを感じさせられるところも素晴らしい。加えて、渾身のギターソロ、「詩」としての深みと味わいのある歌詞もかなりよくできているように思います。ポール、そしてバンドメンバー、さすがです。
ところで、"House of Wax"はこの曲の訳詞では「蝋の家」となっており、「蝋でできた家」をイメージさせますが、ネットで検索すると、ホラー映画「蝋人形の館」がヒットしました。「蝋の家」が「蝋人形の館」になると、詩の持つイメージはかなり違ってくるように思います(聖飢魔IIも思い出すなあ)。実際のところはどうなんだろう。今度ネイティブに訊いてみようっと。
12.ジ・エンド・オブ・ジ・エンド
この歌詞、ポールファンにはもうたまらないものがありますよね。それだけでもう曲を冷静に聴けない自分がいます。またこの曲でも、口笛がさらに泣かせる仕掛けになっていてまたそれもたまりません。ピアノとストリングスだけのアレンジも、この曲にはこれしかないって感じですね。
13.ノド・ユア・ヘッド
こういうハードなポールももちろん大歓迎。でも、これも7.ほどではないけど、ちょっとヴォーカルに残念感が・・・いや60代でこのヴォーカルというのはもうすごいことではあるんですけども、ポールですからどうしても無理な期待もしてしまいます。一方で、でもこういう曲も歌い続けてほしいな、なんて矛盾した気持ちを持ってしまっている自分もここにいます。
ところでこの曲も、曲に合わせてポールやオーディエンスがうなずきまくっている映像を見ると突然コミカルイメージがくっついてしまいました。1.同様、映像の力、恐るべし。
<ボーナストラック>
ホワイ・ソー・ブルー
ボーナストラックにしておくのがもったいない気がしています。「深み」と「味わい」という点で素晴らしい。特に後半、肯定的なメッセージを深みのある哀感で歌い上げるところが興味深く、胸を打たれます。このアルバムからは、いくつかのヴォーカルを除けばポールの「いい年齢の重ね方」を強く感じさせられるのですが(前作にもそういう側面は大いにありましたが)、この曲にもその要素は多分にあると思っています。
In Private
222
(国内通常盤には含まれていません)
ポールはボーナストラックやシングルB面曲にも時々はっとする名曲があるので実は期待していたのですが・・・まだこの2曲については、面白いなと思ったことが1回もありません。ボーナストラックだから贅沢は言えないんですけれど。
・・・などといろいろ書きましたが、最初の予感どおり、この作品、アルバム総体としてもかなりのお気に入りになっています。なんといっても前作に比べ「わかりやすさ」「曲ごとの個性」がよりはっきりしているところが好きです。個人的には、オリジナルアルバムとしては「フレイミング・パイ」以降で最高の出来に位置づけられるのかもしれないな、と思っています。
そんなわけで、今日はポールに、Happy Birthdayの気持ちとともに、いつにも増して感謝の気持ちを伝えたい気分です。