庭を歩いてメモをとる

おもしろいことや気になることのメモをとっています。

渡辺美里"ribbon"全曲ライブ ribbon power neo Zeppなんば

まるごと大好きなアルバムを本人が歌ってくれる。そんな夢がかないました。そしてそれは単なる「完全再現」ではなく、それ以上のものでした。

会場

f:id:yositeru:20180610160801j:plain
小雨の降るZeppなんばへ。開場前から列ができています。


f:id:yositeru:20180610161129j:plain
f:id:yositeru:20180610161153j:plain
会場内は同年代の人たちでいっぱい。みなさんこの30年、このアルバムと一緒に人生を積み重ねてここに来てらっしゃるんだなあ。

グッズはタオルが完売。歯ブラシ1本700円×アルバム12曲(曲名が歯ブラシに書いてある)セット8,400円というのもありました。


待ち時間

席はアリーナの6列目ほぼ中央という、Zeppなんば私史上最高の席。なんとありがたい。

入ったとき流れていたのはリック・アストリー。そしてベリンダ・カーライル「ヘヴン・イズ・ア・プレイス・オン・アース」、ジョージ・ハリスン「セット・オン・ユー」、ガンズ&ローゼス「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」・・・

まさに今日歌われるアルバムが出た頃のヒットチューン。ベタだけどうれしい。身体が1988年に吸い込まれていくようです。リック・アストリーの前には何が流れていたんだろう。もしジョージ・マイケル「フェイス」からの曲ならグッズを眺めている場合じゃなかったな。いや、別に自分のスマートフォンには入ってるんですが、今ここで聴くことに大変な意味があるので。

ステージの向かって左には3つのソファ、その上には球状の照明。トークコーナーがあるんだな。


イントロダクション

階段を駆け上がる足音と「恋したっていいじゃない」、UCCコーヒーのCM。これから始まりました。同じく「センチメンタル・カンガルー」「10years」が流れるCM。

舞台袖から女性が登場。FM COCOLOのDJ(元モデル)の加藤美樹さん。今日の進行についての説明。丁寧でエレガントな司会に安心感。

バンドメンバー紹介。

最後に「ヴォーカルの、渡辺美里さんです」・・・大きな拍手、美里さん登場、マイクの前に、そしてギターのイントロ。

何の曲か聴く前からわかっている客席は迷うことなく総立ちです。


単なる再現ライブではなく

「センチメンタル・カンガルー」、続けて「恋したっていいじゃない」。うわ、本当にアルバム通りだ(当たり前なんだけど、夢のよう)。

ギターの音色、カッティングの感触、サックスのタイミング(音がフェードアウトするところも含めて)、そういうツボは「アルバムそのまま」。

オーディエンスも「D!A!T!E!」とその後のハンドクラップで応えます。まさにこのあたりは阿吽の呼吸といったところでしょうか(6月10日・FM COCOLOの加藤美樹さんの番組によれば、舞台袖でスタッフの方が「すごいですね。今までで一番の盛り上がりです。」とおっしゃったそうです。)。

ライブが始まったときは、そんなふうに聴き倒した音楽の細部がきっちり奏でられているのを耳にして、キーも含めて完全再現のライブと感じていました。

でもそうじゃなかった。ここは変えないでほしい、というポイントは完璧に押さえているけど、バンドの皆さんは自分のプレイを楽しんでいらっしゃる。ギターの林部直樹さんのうれしそうな表情なんて幸せそのもの。

完全再現にかなり近いけど、コピーじゃない。オリジナルを尊重しながら、プレイヤーがご自身の思いを吹き込んで、新しい生命を生み出している。特にベースの安達貴史さん。このアルバムの曲ってベースが凝っている曲が多い印象なんですが、それがさらに生き生きと飛び回っている感じでそのグルーヴがもう最高。

ドラムの松永俊弥さんも、たとえば「悲しいね」の「強くて清らかな生活に 少し疲れたよう」の後のあのドラミングのようなポイントは大事にしてくださっているけど、それ以外は楽しいというか自由というか。

このバランスがすごい。変えないほうがいいことと変えてもいいことを的確に理解して、変えていいところに今の命を吹き込む。今日ここに来ている客が望んでいることを大切にしながら、それ以上の満足を提供する。まさに職人芸だと感じました。これはバンドメンバー皆さんの力量に加え、音楽監督の本間昭光さんの力が大きいんでしょうね("BELIEVE"のイントロだけはピアノでやってほしかったけど。竹野昌邦さんのサックスも素晴らしかったですが。)。

最初、チケット1万円は「高いな・・・まあしょうがないか」と思っていたのですが、これだけの人たちを集め、そしておそらく相当な準備をしたのでしょう、それならコストはかかって当たり前。もう「喜んで払います」という気持ちです。


トーク

この2曲の後、クリス松村さんが現れ、美里さん・加藤さんとトーク。ステージ脇のソファーはこのためのものだったのですね。以後も曲を2~3曲やるごとにトーク。

トークの内容は、アルバム制作当時の話などが多いですが、ときどき大いに脱線します。いい意味で計算されてない感がただようこのトーク、妙な懐かしさを感じるのはなぜかなあと思っていたのですが、これはラジオなんですね。かつて聴いていた深夜放送に近い感触。これも当時を思い出して楽しい。単なるオーディエンス(とステージ側?)の体力温存のためだけではなかったのですね。

私は美里さんについては音楽以外ほとんど何も知らないのと、その音楽も追いかけるようになったのが"ribbon"が出た半年後くらいだったので、このトークはとてもおもしろく聴きました。デビューした頃、大阪のラジオ局の偉いさんに「君は目に力があるからラジオをやるといい」と言われた話など、これって「MBSヤングタウン」に出る前の話なのかなと思いながら(具体的にどこのラジオ局なのか、なぜ目に力があればラジオなのかについてははっきりした説明はありませんでした)。他にも、オリコン誌面の写真や、美空ひばりさんの次に東京ドーム女性単独公演をしたのが美里さんだったことなど、当時の個人的な出来事を思い出しながら「あの頃こんなことがあったんだな・・・」と思いながら耳を傾けていました。

爆笑したのは、クリスさんが「"BREATH"のジャケットはキング・クリムゾンを意識したんですか?」というボケ。美里さんは当然「してませんよ!」

後半では、音楽監督の本間昭光さんもトークに参加され、当時のレコーディング環境の変化(アナログからデジタルへの移行期で、現場で必要なノウハウが変わっていった時期)について話して下さったのも興味深かった。

うれしかったのは、加藤さんもクリスさんもリアルタイムのファンだったことがよくわかったこと。加藤さんが当時の駅にあったアルバムのポスターのことを話題にされたり、クリスさんのブラジル国旗みたいな服(緑・黄・黒の極太ストライプ)をクリスさん自身が「"Flower Bed"と"Lucky"をイメージしたんです」というような、そういう発言の端々でそれがわかる。これ、こういう企画ではすごく重要な点なので、その人選でもプランニングされた方はがんばったのではないでしょうか。


美里さん

そして美里さん。さすがとしか言いようがありませんでした。

鉄壁のバンドに楽しいトークの企画も、すべて美里さんの歌があってこそ。歌が残念だとすべてが残念になる。

でもそこはさすがの美里さん、女王のような貫禄で堂々と名曲の数々を歌い上げてくれました。それもオリジナルキーのまま(と思います。私自身それを断言できる音感がないのですが)。

しかも演奏同様、アルバムの勘所は押さえ(フェイクなどもなく)、でも時には歌い出しのタイミングを変えたりはする、新しい命が宿った歌でした。そして、力強さの点では、30年前以上だと感じました。

そして今回、恵まれた席で観て気づいたのは美里さんの表情の豊かさ。歌詞の世界を表情でも表現。あれだけ歌に力がある人なのに他の手段でもパワフルにそれをなさっているというこのプロ魂。特に、「彼女の彼」のかりそめの幸せって感じの表情からは、音楽と歌詞に加えて美里さんの表情からも切なさを感じて言葉がなかったです。満面の笑顔なのに。そういえば歌も、表情の豊かさは30年前以上だったなあ。

トークでも、昔から感じている「まっすぐさ」もさすがだなあと。当時、あれだけ12インチシングルが流行ったのに美里さんは好きになれず(理由は明言されませんでしたが)、少なくとも自分から出そうとしたことはなかった、というような話などもそのひとつ。

まあいろいろ書きましたが、やっぱり歌ですね。安心して身を委ねられる歌。30年前から生き続けている名曲たちが輝きを失わないどころか、ここでまた新しく輝かせてくれた歌。声が出てるとかそういうレベルの話ではないのですよね。いや、声もめちゃくちゃ出てるんですが、それどころではない、という話です。


終わりとアンコール

こんなに「終わりがどこなのかはっきりわかっていて、だからこそ終わってほしくない気持ちがつのってくるライブ」もないと思います。「終わってほしくない・・・いやそんなこと思わず音楽に集中しよう」と思い続けているうちに、ライブはどんどん進んでいきます。

しかもこのアルバムは、終盤3曲の内容と曲調がどれもシリアスなので、よけいに「終わってほしくない、でも終わりが近づいている」という気持ちがあふれだします。

最後のMCで、美里さんは、レコード会社の人に言われた「人生で言われてつらかったことワースト5に入るようなこと」まで話して下さいました。ファンの間の人気投票でいつも「断トツで1位」だというこの「10 years」は、、人生を振り返りこれから先を思う・・・という内容です(歌詞)。それにあわせてこの話。これもさすが美里さん・・・なんですが、シリアスさも増します。

そしてその「10 years」。いろんな時代の美里さんがこの歌を歌う動画がバックに映し出されます。そしてそれが目の前の美里さんと完全にシンクロしているのです。美里さんの目には涙が光っていましたが、ヴォーカルは「微動」程度にとどめるというか、むしろこの歌にぴったりの情感に。これもほんとプロの仕事ですね(「微動」にとどめた、という点が)。名盤が名曲の名演で締めくくられていきます。

最高なんだけど、このシリアスさを抱えてこのライブは終わるのか・・・と思いながら手を叩いていたら、バンドのみなさんと美里さんが登場。

アンコールは「君の弱さ」!「10 years」のシングルカップリング曲でアルバム未収録。そして、明るく、ステージでもみんなが手を挙げる歌。

なんという見事な締めくくりでしょうか。最初から最後まで素晴らしいとしかいいようがないライブ。人生の中の忘れられない音楽体験に間違いなく残ります。

美里さん、バンドメンバーのみなさん、クリスさん、加藤さん、他スタッフのみなさん、本当にありがとうございました。


帰り道

f:id:yositeru:20180610175951j:plain
ライブ来場者へのおみやげ。30年前のribbonツアーのパンフレット+ラスト2ページに今回のバンドメンバーと美里さんのメッセージが掲載されています。

当時のバンド名「The Lover Soul」はビートルズファンとしてはにやり。そういえば美里さんには「Here Comes The Sun~ビートルズに会えなかった」という歌もありますね(ビートルズのあの曲のカバーではなくオリジナル、作曲は小室哲哉さん。)。


実は「君の弱さ」はアルバムほど聞き込んでおらず、今のPCにも入っていないので、帰ってから購入しました・・・

君の弱さ

君の弱さ

  • 渡辺 美里
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes


そして、他のアルバム未収録曲も(30周年記念盤のボーナストラックでもある)。

Half Moon

Half Moon

  • 渡辺 美里
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes
New Boyfriend

New Boyfriend

  • 渡辺 美里
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes


あと、PC(とスマートフォン)に入ってない美里さんのアルバム10枚くらいを一挙宅配レンタル(買えよ、って感じですが)。


30周年記念盤は、買うかどうかいまだに迷っています・・・



関連メモ

1986年に美里さんがブレイクした当時の空気感を見事に切り取ったエッセイと、当時の私自身の経験。


実はこんなに美里さんの音楽が好きなのにライブは↓と今回の2回しか行ったことがないという・・・


美里さんについては書いていませんが、盟友岡村ちゃんの対談集。


(広告)