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なぜ人類は支配者になれたのか?「サピエンス全史」を他の本と比較しながら読んでみた

昨年秋くらいから話題のこの本、人類史の本をつまみ食いするのが好きなよしてるとしては読まずにはいられません。その中で、特に興味深かったところを、今までにつまみ食いした本と比較しながらメモしていきます。

人類は「虚構」のおかげで支配者になれた

本書の主張

人類史本の定番にして最高傑作「銃・病原菌・鉄」は、「なぜ人類は地域によって発展度合いが異なったのか」を解き明かす本ですが、本書は「なぜ人類は地球の支配者になれたのか」を解き明かす本です。そしてその答えは「人類だけが『虚構』を作り出せたから」とのこと。どういうことでしょう。

  • 虚構のおかげで、私たちはたんに物事を想像するだけではなく、集団でそうできるようになった。
    • (1) アリやミツバチも大勢で一緒に働けるが、彼らのやり方は融通が利かず、近親者としかうまくいかない。
    • (2) オオカミやチンパンジーはアリよりもはるかに柔軟な形で力を合わせるが、少数のごく親密な個体とでなければ駄目だ。
    • (3) ところがサピエンスは、無数の赤の他人と著しく柔軟な形で協力できる。

ふむ。ではその「虚構」とは具体的に何?

  • 神話
  • 宗教
  • 国家
  • 通貨

なるほど。たしかにこれは人類しかもっていないものですね。ネアンデルタール人がサピエンス(人類)と戦ったとき、50人くらいの「群れ」がせいぜいだったのかもしれませんが、サピエンスは共通の神話や宗教をもとに500人の「集団」で迎え撃ったのかもしれません。

本書では、特に「通貨」の強力さについて述べています。アメリカが大嫌いなオサマ・ビンラディンも、アメリカドルは拒否するどころか大好きだ、と。たしかに、反体制を標榜する人でも、その国の通貨まで否定して物々交換しかしない、なんて言い張っている人はなかなか見かけません(ポル・ポトは通貨まで廃止しましたが・・・)

他の本の主張

さて、この点について、他の本ではどのように述べているでしょうか。

ベネディクト・アンダーソン「想像の共同体」では、人類が支配者になれた理由というより、「国家なんてつまるところ想像上のものに過ぎない」という考え方について述べています。ビートルズファンとしてはやはりジョン・レノン「イマジン」の歌詞"Imagine there's no countries / It isn't hard to do"を思い出してしまいます。なお以下のメモでは、「想像の共同体」が広がっていった理由や明治維新(新しい「想像の共同体」)が成功した理由についても書いています。


一方でマット・リドレー「繁栄」では、人類が支配者になれた理由を「交易(異なるものを交換する)」だと述べています。いわく、「何かをしてもらったらお返しをする」のは様々な動物が行う。チンパンジーも行う。しかし異なるものを交換するのは人類だけだ、と。


これは一見「サピエンス全史」と異なる意見のように思えます。しかし、どうやら根っこは一緒のようです。「サピエンス全史」では、交易は通貨などの「虚構」があって初めて成り立つと述べています。たしかにそうかもしれません。

また、人類からは離れますが、上記(1)にある、ミツバチが大勢で一緒に働くこと、特に働きバチは自分の子孫も残さずに働き続けることの合理性については、リチャード・ドーキンス「利己的な遺伝子」で見事な謎解きがなされています。


以上のように、他の本と比較してみても、「人類が地球の支配者になれたのは『虚構』のおかげ」という本書の主張は納得できるものだと感じます。

ちなみに、著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏自身が語った「虚構の重要性」については以下で聞けます。英語ですが、日本語字幕付きです。

ユヴァル氏の講演@TED(非商用ブログでのシェアが許可されています


農耕のわな

本書で「そういう視点もあるのか」と感心したのは、「農耕は人類にとっていいことばかりではなかった」という指摘です。

農耕を始めたことで・・・

  • 子どもの数が増えて必要な食料も増えた
  • 赤ちゃんが母乳を摂取する機会が減ったことで感染症が増えた
  • 単一の食料(農作物)への依存を強めれば天候不順の影響が大きくなる
  • かといって豊作の年に穀倉が膨れあがれば盗賊や敵の対策が必要

たしかにそうかもしれません。著者は、このことを電子メールを例にして説明しています。電子メールは郵便より便利だが、結果的に一日何十通も「迅速な返答」を期待しているメッセージを受け取っている。時間が節約できると思ったのに逆に人生の踏み車を以前より何倍もの速さで踏み続ける羽目になっている・・・これもその通り、という気がします。

歴史の数少ない鉄則の一つに、贅沢品は必需品となり、新たな義務を生じさせる、というものがある。

これは著者の言葉ですが、うなずかざるを得ません。


なぜヨーロッパだったのか

人類史の中でよしてるが関心のあるパートは、一時期は世界でもっとも「先を行っていた」中国やアラブ社会ではなく、なぜヨーロッパ(と、その移民が作ったアメリカ)が世界を制するようになったのかというところです。これについて今のところ一番納得しているのは「銃・病原菌・鉄」で述べられている以下の説です。

中国は平坦で海岸線も単純なため、古来から統一帝国ができやすかった。このため、皇帝一人の意思決定ですべてが決まった。これは大帝国をまとめるにはよいが、イノベーションは起こりにくい。明の鄭和はアフリカまで大船団で遠征できたが皇帝の意思で遠征が続かず、大航海時代はヨーロッパが制した。
一方、地形に起伏があり海岸線が複雑なヨーロッパは統一された試しがない。そのため、イノベーションが起こる余地がある。コロンブスはいろんな国で何度も断られた後、やっと資金提供者が見つかり、結果航海に出ることができた。中国なら皇帝がNOと言えばそれで終わりだろう。他に頼める先がないからだ。(以上、よしてるによるまとめ)

本書「サピエンス全史」ではこれはどう説明されているのでしょうか(ちなみに、コロンブスがパトロンを探しまくった話は本書にも出てきます)。それは、「ヨーロッパには前期近代の貯金があったから」。その貯金とは?「近代科学と資本主義」だそうです。もう少し詳しく見てみましょう。

近代科学と資本主義 -信用の拡大

なぜ「信用の拡大」が「近代科学と資本主義」と関係あるのでしょうか。

  • パイが大きくならなければ、信用を供与する意味がない
    • ある人が成功すれば、誰かが犠牲になる。あるベーカリーが繁盛すれば、隣のベーカリーが犠牲になる
    • 多くの文化で、大金を稼ぐことが罪悪と見なされたのもそのため

ところが、近代科学革命により「進歩」という考えが登場しました。

  • 研究に投資すれば物事は改善する → 奪い合いではなく、富の総量は増やすことができる--チョコレートケーキとクロワッサン専門の新しいベーカリーができてもパン専門のベーカリーを犠牲にすることはない(よしてる注:このたとえだと、人々の胃袋の大きさは同じなので、厳密に言うと多少の犠牲はあるかとは思いますが)
  • アダム・スミス(スコットランド生まれ)の「国富論」:利益が増えれば、そのお金で雇える人数も増える。個人が裕福になることは自分だけでなく他の全員のためになる → パイが大きくなる
  • パイが大きくなるなら、低金利で長期の貸し付け(信用の拡大)を行っても十分見返りがある

この考え方をヨーロッパが持てたからヨーロッパが世界を制したと。まあこの考え方は現代の世界の大きな主流そのものですね。

ちなみに著者は、この考え方が生み出す問題点についても指摘しています。

  • 強欲な資本主義者による市場の独占
  • 雇用主が労働者を奴隷扱いする
  • 時計に縛られた生活

そのとおりですね。

他の本ではどう述べられているか

この点についての他の本の主張はどうでしょうか。

本書に似ているのがこちら。特に、オスマン帝国がヨーロッパに遅れをとっていることに自分でちゃんと気がついていて手も打っていたけどうまくいかなかった理由などが。

なぜヨーロッパか、というよりなぜ産業革命はイギリスで起こったか、に着目したのがこちら。

同じく、なぜ産業革命はイギリスで起こったか、に着目しつつ、その理由を家族制度に求めたユニークかつ説得力のある本がこちら。


その他興味深かったトピック

噂話が言語を発達させた?

言語は、ライオンがどこにいるかを知らせるためにも発達したが、誰が誰と仲が悪いとか誰と誰が寝ているかとかを把握するためにも発達したのではないか、という指摘です。これは、次の本で述べられている、現代でも伝統的な社会では人々が噂話にかなりの時間を費やしているという調査結果を併せて考えると納得です。

キリスト教(一神教)がされた迫害、した迫害

多神教に比べ一神教は厳しい、という説に併せてのケーススタディ。

  • キリストが十字架に架けられてからローマ皇帝コンスタンティヌスがキリスト教に改宗するまでの300年間に、多神教徒のローマ皇帝がキリスト教徒への全般的な迫害を行ったのはわずか4回
  • こうした迫害の犠牲者を合計したところで、犠牲者は数千人止まり
  • その後の1500年間に、キリスト教徒は愛と思いやりを説くこの宗教のわずかに異なる解釈を守るために、同じキリスト教徒を何百万人も殺害した
    • 1572年、フランスのカトリック教徒が24時間足らずの間に5000~1万人のプロテスタントを殺害(サン・バルテルミーの虐殺。本書では「聖バルトロマイの大虐殺」と記載)
    • この数は多神教のローマ帝国がその全存続期間に殺したキリスト教徒の数を上回った。
    • この知らせを聞いたローマ教皇(カトリックのトップ)は喜びのあまりお祝いの礼拝を行い、ヴァチカン宮殿の一室を大虐殺のフレスコ画で飾らせた(この部屋は現在観光客立ち入り禁止となっている)

「純正な文化」は存在するのか

  • イギリスによりかつて何百万ものインド人の命が奪われ、何億もの人が辱めを受け搾取された
  • 一方でこんなこともあった:
    • 多くのインド人が自決や人権といった西洋の概念を採用した。独立時も西洋の民主主義を採用した
    • イギリスはインドの司法制度、行政機構、鉄道網を整備した
  • 今日、帝国主義の遺産だからという理由で、民主主義や英語、鉄道網、法制度、クリケット、紅茶を廃止する投票を求めるインド人が何人いるだろうか
    • 仮に投票したとしたら、この行為自体が、かつての支配者たちに負うものがある証になりはしないか
    • イギリスの文化を拒否したとして、タージマハルを尊重したとしたら、それはイスラム帝国主義(ムガル帝国)による異邦人の創造物を尊重することにならないか
    • それは「純正な」インド文化なのか?

この厄介な問題をどのように解決すればいいのかは、誰にもはっきりとはわからない。問題の複雑さを理解し、過去を単純に善人と悪人に分けたところでどうにもならないのを認めるのが、第一歩だろう。

まったくその通りで、完全な解決は不可能だと思います。

同じく、かつての支配者が有していた「ノウハウ」を活用したかしなかったかで、同じ島なのにまったくコンディションの違う二つの国になってしまったケースがこちら。


矛盾の効用

思考や概念や価値観の不協和音が起こると、私たちは考え、再評価し、批判することを余儀なくされる。調和ばかりでは、はっとさせられることがない。

キリスト教徒がイスラム教徒のことを理解したいと心から願うなら、イスラム教徒が大切にしている価値観ではなく、ジレンマ、つまり規則と規則がぶつかり合い、標準同士が衝突している部分を調べるべきだ。(以上要約)

考えさせられます。人類史なんてスケールの大きな世界だけでなく、毎日の仕事などにも言えることかもしれません。




関連メモ

おもしろかった本のメモリスト。歴史、人類史のコーナーもあります。

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