(2021年2月11日更新)
発達障害という言葉を聞く機会が以前よりだいぶ増えたように感じていました。
で、調べてみると、少なくとも子どもの間では発達障害は本当に増えていました。
このグラフからは、水色の部分、つまり「小中学校の特別支援学級在籍者のうち自閉症(発達障害の一種)・情緒障害(発達障害も、それ以外も含まれる)の数」が、2003年の23,456人から2013年の74,116人と、3倍以上に増えていることがわかります。
発達障害がこの10年でかなり増えている。これはなぜなのでしょうか?
そして、そもそも、発達障害とはいったい何なのでしょうか。自閉症、アスペルガー症候群、ADHDなど、他の症状と何が違うのでしょうか。
この2点を整理していこうと思います。
目次
発達障害とは何か
まずはじめに、発達障害とはなんなのかをまとめてみます。
発達障害の概要
- 社会生活が困難になる障害。
- 本人に悪気がなくても「空気が読めない」「衝動的でわがままだ」「人の話を聞けない変わった人だ」と誤解を受ける 等
- これらは誰にでもあることだが、それが社会生活が困難になるレベルで起こると障害になる
- 15人に一人の割合(6.5%)で存在する(文部科学省 2012年)
- 生まれつきの脳の発達のアンバランスさが原因で、本人の努力不足や親の育て方のせいではない
- 知的能力については、知的障害がない人(一般程度)も、知的能力が一般以上の人(特定の分野に非常に詳しい等)も、知的障害がある人も、どのタイプも存在する
- 現在の医学では治癒できないが、工夫やサポート、療育によって社会生活をスムーズにしていくことはできる
- 「発達障害」の意味は「ずっと発達しない障害」ではなく「発達に凸凹がある障害」
1970~80年代との違い
なるほど。生まれついての障害で、かつ小中学校でいえばクラスに2人はいるくらいの頻度なのですね。
それなら昔から発達障害の人は身近にいたはずですよね。
でも、個人的な感覚ですが、よしてるが子どもの頃(1970~80年代)には、知的障害を持っていて特殊学級(当時の名称)に通ってる同級生はいたけど、「知的障害のない発達障害の同級生でサポートを受けている」というケースは知らないな・・・
発達障害は増えているのか、そもそも「昔からあったのにそう診断されていなかった」だけなのか。(この点については後述します)
発達障害は大きな概念
一方で「自閉症」という言葉は子どもの頃から聞いたことがあります。それは発達障害にどう関係あるのでしょう。他にも、「アスペルガー」「ADHD」ということばも、子どもの頃には聞いたことがなかったけど、この15年くらいで耳にするようになりました。発達障害と関係あるのでしょうか。
実はこれら「自閉症」「アスペルガー症候群」「ADHD」は「発達障害」という大きなカテゴリーに含まれています。「発達障害」のひとつなのです。
また、「自閉症」「アスペルガー症候群」は、2013年に診断基準*1が変わり「自閉症スペクトラム」の中に含まれるようになっています。
以上を整理するとこんな感じです。
- 発達障害の中に以下の3カテゴリーがある:
- 自閉症スペクトラム(かつて「自閉症」「アスペルガー症候群」と言われていたものも含む)
- ADHD
- 学習障害(LD)
それぞれのカテゴリーの特徴は以下の通りです。
発達障害の3つのカテゴリー
自閉症スペクトラム
- コミュニケーションと社会性の困難さを特徴とする
- 友達関係をうまく築くことなどが困難
- 偏食・同じ服をいつも着るなどの特徴的なこだわりや特定の興味に熱中する
- 記憶力・集中力が非常に高いことがある
- 言葉の発達に遅れや偏りが見られることもある
- くるくるとまわったり手のひらをひらひらさせたりする、等
- 以前は「自閉症」「アスペルガー症候群」など別の障害とされていたものを一つの連続した症状とみなすようになったので「スペクトラム」(連続体)という。診断項目に「当てはまるか当てはまらないか」を判断するよりも、それらに「どの程度当てはまるか」を判断するほうがが適切だろうという考え方による。
- かつて「自閉症」と言われていた障害:自閉症スペクトラムの症状のうち、言葉の遅れがあるもの
- かつて「アスペルガー症候群」と診断されていた障害:自閉症スペクトラムの症状のうち、知的障害がなく言葉の遅れもないもの
ADHD(注意欠陥・多動性障害)
- 不注意・多動・衝動性の症状が複数見られる
- うっかりしたミスを、生活に支障のあるレベルで何度も繰り返してしまう
- 席についていられずに歩き回ったりしてしまう
- 思いついたことをすぐに声に出してしまったり突発的な行動をしてしまう、等
学習障害(LD)
- 知的発達には問題はないが「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」などの特定の能力を要する学習が極端に困難
- 人よりも計算はできるが漢字がうまく書けない
- 読み書きに人一倍努力が必要で、疲れやすく頭痛が起こったりすることもある、等
ちなみに、これらのカテゴリーは、一人の人にどれか一つだけが当てはまるのではなく、複数がそれぞれ別の程度で混じり合っていることもあります。
(出典:発達障害の特徴・症状・分類や診断方法について【専門家監修】【LITALICO発達ナビ】 (監修:井上雅彦 鳥取大学大学院教授) , 厚生労働省「発達障害の理解のために」)
以上、「発達障害とは何か」を整理してみました。
次の疑問「発達障害がなぜ増えているのか」について。これにはいろんな説があるようなのですが、調べてみてよしてるが確実性が高いと感じたものは2つありました。
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発達障害増加原因その1-父親の高齢化
発達障害が増えている原因のひとつは、父親の高齢化です。
研究結果
高齢の父親がから生まれた子どもは、発達障害になる可能性が高まるという別の3つの研究結果があるのです。
- 2021年1月4日、東北大学は、父親の加齢が子どもの神経発達障害様行動異常の原因となりうることを発表
- 12か月齢以上(加齢)の父親マウスから生まれた仔マウスは、母仔間の音声コミュニケーションである超音波発声の頻度低下や鳴き方の単調化といった神経発達障害様行動異常を示す
- 出典:加齢した父親の精子が子どもの神経発達障害に影響する、東北大が確認 | TECH+(テックプラス)
- スウェーデンの200万人以上を対象とした大規模な研究によると、父親が20~24歳の時点で生まれた子どもに比べ、父親が45歳以上になってから生まれた子どもは、双極性障害の可能性が25倍高かった。
- また、高齢の父親から生まれた子どもは、注意欠陥多動性障害(ADHD)の可能性が13倍高かった。
- 以上は、米国医師会の精神医学専門誌「JAMAサイキアトリー(JAMA Psychiatry)」に研究論文が掲載された。
- 出典:2014年2月27日 AFP通信「子どもの精神疾患リスク、高齢の父親で高まる 研究」
- 自閉症ないし統合失調症と診断された子どもを持つアイスランドの78家族を対象とした研究によると、比較的高齢の父親は、若い父親と比べると、新規の遺伝子変異を子どもにより多く伝えることが分かった。このため、自閉症、統合失調症、その他の病気の発症リスクが高まるという。
- 以上は、科学誌ネイチャーに論文が掲載された。
- 出典:2012年 8月 23日 ウォールストリートジャーナル日本版「遺伝子変異、高齢の父親が子に伝える傾向強い-自閉症などのリスクに」
上記の研究に出てくる「注意欠陥障害(ADHD)」「自閉症」は発達障害の一種なので、「高齢の父親がから生まれた子どもは、発達障害になる可能性が高まる」といえます。
本当に父親は高齢化しているのか
ところで、日本では本当に父親は高齢化しているのでしょうか。念のため確かめてみます。
厚生労働省「平成29年 我が国の人口動態」P.10より抜粋
これによると、第1子出産時の父親の平均年齢は1975年の28.3歳から2015年の32.7歳に上昇しています。たしかに父親は高齢化しています。
32.7歳は父親になる年齢としては高齢とはいえないかもしれませんが、これは平均値ですから、上記の2つの研究結果にあてはまる「父親が45歳以上」「父親が比較的高齢」という人たちも増えていると考えられます。
母親の高齢化の影響は
では母親の高齢化はどうなの?発達障害が増えている原因ではないの?
よしてるもそう思って調べてみたのですが、信頼度の高そうな複数の研究結果は今のところ探し出せませんでした(ダウン症の子どもが増える等、発達障害「以外」の障害が増えるという研究結果はあります)。
遺伝の影響度
ちなみに、発達障害は、遺伝による影響度が非常に強いこともわかっています。
以下のメモには「遺伝の影響が強い能力」つまり「生まれつきで決まる特質」をリストアップしているのですが、上位9つの中に自閉症(スペクトラム)とADHDがランクインしています(ちなみに1位は音楽の能力です)。
発達障害増加原因その2-発達障害が誤って認識されていた時期があった
ただ、よしてるは、発達障害が増えている最大の理由は、「発達障害が誤って認識されていた時期があった」からだと考えています。
つまり「昔から発達障害と診断されるはずの人は一定数いたが、発達障害と診断されてこなかった」ということです。発達障害が増えたのではなく「発達障害と診断されるべき人が適切に診断されるようになった」のが真相ではないか、という考えです。
ことばの問題か
それは今まで「発達障害」ということばがなかったからなのでしょうか。
たしかに「発達障害」ということばは昔はありませんでした。しかし「自閉症」に相当する障害が存在することは1930年代に発見されています。少なくともそれ以降は「発達障害」の診断を受ける人が今と同じくらいいてもいいはずなのです。
「発達障害が誤って認識されていた時期があった」とは
では「発達障害が誤って認識されていた」とはどういうことなのでしょうか。
簡単にいうとそれは次の通りです。
- ナチスの影響
- 発達障害を比較的正しく理解していた人物がそれを適切に世界に発信できなかった
- 自閉症の概念を広めた人物が誤った解釈をしていた
- 自閉症の原因についてのある誤った推定のため、親が子どもを自閉症と認めることが難しかった
これだけでは何のことかわかりにくいと思いますが、要はいろんな不運が重なって、「発達障害の原因は親の育て方が悪いから」という誤った考え方が定説になってしまっていたんですよね。そしてその時期が長かった。
どうしてそんなことになったのか?誤解が長く続いた理由は?誤解がとけたきっかけは?(一本の映画が大きな役割を果たしています)・・・そんな詳細を↓のメモにまとめましたので、関心のある方はお読みいただければと思います。
以上の「発達障害をとりまく歴史」について非常に詳しい本がこちら。
(この「自閉症の世界」は、発達障害がどのように研究され誤解されてきたのかを緻密に調査した非常に読み応えのある本です。しかし、一種の「歴史書」であり、「どうすれば発達障害をサポートできるか」などをアドバイスする本ではありません。)
まとめ
ものすごくざっくりまとめてみます。
発達障害とは何か?
- 社会生活が困難になる障害
- 15人に一人の割合で存在する
- 知的障害がない場合もある場合もある
- 生まれつきの脳の発達のアンバランスさが原因で、本人の努力不足や親の育て方のせいではない
- 大きく3つのカテゴリーがある
- 自閉症スペクトラム:友達関係をうまく築くことなどが困難。偏食・同じ服をいつも着るなどの特徴的なこだわりや特定の興味に熱中する 等
- ADHD(注意欠陥・多動性障害):不注意・多動・衝動性。うっかりしたミスを、生活に支障のあるレベルで何度も繰り返してしまう、席についていられずに歩き回ったりしてしまう 等
- 学習障害(LD):「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」などの特定の能力を要する学習が極端に困難
発達障害はなぜ増えているのか?
- 父親が高齢化しているため
- 発達障害が誤って認識されていた時期があった(詳細は以下)
関連メモ
学習障害のひとつ、読字障害が起こる理由と、言語による発生率の違い。
自閉症と男性ホルモンの関係、統合失調症の遺伝子が残っている理由。
うつ病が増えている理由を社会の変化から考察。
遺伝に関するメモへのリンク集。
これまでに読んで興味深かった本・まんがのリスト。要約と感想メモへのリンクつき。
*1:米国の診断基準「DSM-5」。日本を含む世界中の医療機関でも使用されています。なお、日本の行政機関と一部の医療機関では世界保健機関が策定したICDという別の診断基準が使われています。