友人と3人で村上春樹作品を再読しZoomで語り合う会の記録、第6回は、春樹さんの短編小説集第5作目の「パン屋再襲撃」についてです。
短編集全体を通して
3人の意見が一致したのは、「ファミリー・アフェア」人気。他にも味わい深い作品はあるのですが、これが突出しておもしろいよね、という。春樹さんの作品の中で、こんなに笑える作品ってほかにあったかな。
あと、この短編集を通してのテーマは「結婚」なのではないかという意見があり、これは気づきませんでした。
以降、作品個別へのコメント。
パン屋再襲撃
- 飢えを描写するときの比喩が素晴らしい。
- 「特殊な飢餓とは何か? 僕はそれをひとつの映像としてここに提示することができる。(1) 僕は小さなボートに乗って静かな洋上に浮かんでいる。(2) 下を見下ろすと、水の中に海底火山の頂上が見える。 (3) 海面とその頂上のあいだにはそれほどの距離はないように見えるが、しかし正確なところはわからない。 (4) 何故なら水が透明すぎて距離感がつかめないからだ。
- そういえば「辺境・近境」の「神戸まで歩く」にも、「深い海鳴りのような飢え」という表現があった。
- 「妻」は昔特殊部隊にでもいたのだろうか?奥さんが実は特殊な訓練を受けた人、というのはBBC「シャーロック」を連想する(詳細はネタバレになるので控えます)。
- なぜケーキの台だけがあるのか?
象の消滅
- パーティで象の話をした瞬間の描写に惹かれる。
- 「僕」が
- 「僕」は最後の日の象と飼育係を見たことで一種の呪いにかかったといえるのでは。
- 作品と関係はないが、どうしても井の頭公園の象とドラえもんの「ぞうとおじさん」を連想してしまう。そういえばドラえもんの話は象をスモールライトで小さくする・・・
ファミリー・アフェア
- とにかく笑える。
- 風呂場に積み上げられた妹の汚れ物が「アマゾンの蟻塚」
- 「妹が僕に男の写真を見せるなんてはじめてのことだ。これもまた危険な兆候だった」
- 「だいたいにおいてバイク・マニアが好きになれない」(妹の婚約者がバイク好き)
- (「僕」が妹の婚約者に余計なことを言いそうになると)「妹が不吉な煙をかぎつけるようにやってきて」
- 「フリオ・イグレシアス!と僕は思った。やれやれ、どうしてそんなモグラの糞みたいなものがうちにあるんだ?」「お兄さんはどういう音楽が好きなんですか?」(中略)「ブルース・スプリングスティーンとかジェフ・ベックとかドアーズとかさ」(中略)「やはりこういう感じの音楽なんですか?」「だいたい似てるね」
- 女性に嫌悪感を持たれる言動のオンパレード
- (結婚にあたって)「きっといろいろ調べ上げたんだろう。でも十六まで初潮がなくて、慢性的便秘に悩んでいることまでは知るまい」
- これの初出が女性誌「LEE」というのが驚き。
- 2回に分けて掲載されたらしいが、どこで切ったのだろう。
- でも妹と「僕」の関係は強く、お互いを大切に思っていることもわかる。
- これと妹の変化に傷つく「僕」との対比が、単なるコメディ小説とまったく違うところ。
双子と沈んだ大陸
- これまでの、そして今後の春樹作品の登場人物が集まっている。
ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ヒットラーのポーランド侵入・そして強風世界
ねじまき鳥と火曜日の女たち
- (二作品とも)とにかく不穏な空気が充満している。
以上のように、作品によって語り合う内容に濃淡が激しい(我々3人の好みが一致し、人気に差がついた)結果になりました。こういうのも読書会の楽しいところですね。まあ、これからもこういう展開はあると思います。