庭を歩いてメモをとる

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阿川大樹「インバウンド」

インバウンド

[物語]
東京でリストラされた上原理美は、故郷の沖縄・コザに戻り職を探す。「コールセンターだけはやめとけ」と言われながらもコールセンターのエージェント(オペレーター)になった彼女は、日々奮闘しながら成長していく。ある日理美は上司から突然呼び出され、ある特別な使命を与えられるが・・・


[感想]
私自身コールセンター受託企業での営業(委託元企業との契約条件等の折衝窓口)を仕事にしているので、いわゆる職場小説として読みました。

結論から言うと、これは実際のコールセンターをよく取材して書かれています。沖縄にコールセンターが多く東京や大阪からかけた通販などのフリーダイヤルが実は沖縄につながっていることがある、というのはよく知られた話でしょうが、始業前に発音練習をすること、用事がないのに電話をかけてくる「かまってちゃん」のお客様と対応方法、仮の名前で応対しているオペレーターがいること(珍しい名字だとお客様が聞き取りにくいため。本名で応対しているコールセンターも多いですが)、オペレーターにはお客様とお話する上で「真心よりも大事なこと」があること、シフト勤務で人の入れ替わりが激しいので歓迎会や送別会は行われないこと、などはあまり知られていないことかもしれませんが、本書ではきちんと描写されています。主人公が与えられる「特別な使命」も、実はこの世界では非常によくある話で、そこにもリアリティを感じたり。

あまり劇的な起伏がないので盛り上がりに欠ける面はあるのですが、その分さらっと読めるとも言えます(私はそう感じました)。職場の描写以外はリアリティに欠けるところもあるものの伏線などもちゃんと回収されていて読後感もいい(主人公がとるある行動は、リアルワールドでは絶対にやってはいけないことですが、小説の中ではさわやかなエピソードになってます)。小説という架空の空間の中で、自分になじみのある世界が登場する不思議な感覚を流れるように味わうことができました。


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