庭を歩いてメモをとる

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宮永正隆「ビートルズ大学」

ビートルズ大学

心から好きなものを味わい、考える。時にはそれを同志と共有する。こういうひとときって人生を本当に豊かにしてくれると思うのですが、それをビートルズについて行い、本にするとどうなるか。その答えの一つがこの本です。

全米ツアーや来日の様子、イギリスでビートルズとの単独会見に成功した星加ルミ子氏へのインタビュー、ポール逮捕事件などについて、客観的な考証と宮永さんの愛情あふれる考察のミックスが素晴らしい。この本よりも多量のデータを集めた本は他にもあるし、ビートルズに関する思いの丈を語れる人は世界中にいくらでもいると思いますが、この二つが高いレベルでバランスをとっている本はなかなかありません。個人的には非常に楽しんで拝読しました。


受け付けない人もいると思います。宮永さんの思いが強烈なので、それに関する拒否反応がある方がいらっしゃったとしても、それは理解できます。先ほど書いた「考察」を「妄想」にしか感じないという受け止め方も十分ありえるでしょう。それは否定しませんが、私個人はこの「妄想」(と書いてしまいますが)も含めてとても愉しく読み進めました。


新しい発見もたくさん。このエピソードは知らなかったなと驚かされたものから、ここはそう考えることもできるのかとうなったものまで。個人的には「レット・イット・ビー・ネイキッド賞味法」が白眉でした。これを読むと、これまで2回ほどしか聴いていなかった2枚目の「付録CD」が突然興味深い「一級資料」に早変わり。他にも、全米ツアーの考察などはちょっと妄想入り過ぎかなと思わせるほどでしたが、私個人は半ば「こういう考え方もあるのか、私はそうは思わないけど面白いな」とほほえましく味わい、半ば「これは確かにそうかも」と納得しつつ読み進めました。これ読んで即「エド・サリバン・ショー」のビートルズ出演回をCMも含めてコンプリート収録したDVDを買ってしまったほどです。一部記述に誤りがあり「ここまでしっかり調べて書いてるのに」と少し驚きましたが*1、ささいなことです。


なお、この本では、宮永さん考案のいくつかの見事な「用語」が登場します。偶然とは思えない天の采配のことは、宗教的にならないために「宇宙のプログラム」と書く、とか。その中でもっとも登場頻度が高いのが「賞味」。ビートルズについて調べ考え想像し悦に入ることなのですが、これは本当に言い得て妙だと感じました。ビートルズについていろんな想像を巡らせることは、ファンにとっては最高の料理を味わうことに他ならないからです。そして私は、そのための材料とプロセスをまとめたこの本全体も深く賞味させていただきました。

続編を期待しています。

*1:ポールの3度目の来日を2003年としているが正しくは2002年、等。


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