庭を歩いてメモをとる

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日経新聞2011年8月5日夕刊「学びのふるさと 小熊英二」

新聞に小熊英二さんへのインタビューが出ていました。小熊さんが「歴史社会学者」になる前の軌跡についてです。記事のサイズの割に今まで知らなかったことがけっこうあったのでメモします。

小熊さんがもともと理系で、名古屋大理学部から東大農学部、そこから岩波書店で編集者をやっていた。ここまでは知っていました。ししかしその編集者時代、本人曰く「はっきり言って、できない編集者でした」(企画がさっぱり通らない)「浮いた存在」「楽しい思い出とは言い難い」という状況だったことは初めて知りました。最初に「単一民族神話の起源」を読んだとき、これが修士論文と聞いて、とんでもない才能と熱意が社会人大学院生から現れたもんだなと思ったものですが、そこに至る道のりは予想以上に長く曲がりくねった道だったのですね。あと、率直にこういうことを語る小熊さんにも、さすがというか、今のご自身に一定の自信があるから言えるんだろうなとか、そういうことを感じました。

その芽のでなかった時代に、先輩編集者から言われた「自分が100面白いと思っても、他の人は10も面白いと思うかどうか」という言葉が今の著作につながっているそうです。たしかに、小熊さんの本は、普通に読んで面白さが伝わります。量は膨大ですが、文章や論旨はシンプルでわかりやすく、題材の提示の仕方にも「物語」を感じさせます。こういう「わかってもらえるための努力」のようなものがこの種の本のわりにかなりちゃんとしてるなと常々感じていたのですが、その原点はこの言葉にあったのですね。

他にも、指導教官が見田宗介さんだったとか(だから著書の端々で引用されてるんだ)、「続編を書こうという気が起こらないほど、とことんやる。」「テーマ設定の条件として気をつけているのが、自分が面白いと思うことと、社会的に意味のある問題であることです。」という言葉からは、それは著書を読んでもよくわかりますよ、という感じです。

ドラッカーの言う「ところを得る」ということ、本当にあるんだなと思えた記事でした。


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