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日本の社員の解雇が難しい理由 - チームJ「日本をダメにした10の裁判」

日本をダメにした10の裁判 日経プレミアシリーズ

最高裁の判例は事実上法令と同等の効力を有します。そのように大きな効力をもつ判例(最高裁以外も含む)の中から、特に後の世に大きな影響を及ぼしたものを紹介し、検証する本です。どの章も興味深い例を挙げている上に批判するだけでなく提言も行っていること、チームによる著作ながら巻末にはメンバー全員の氏名・略歴(東大法学部)・所属組織が記載されていたことから正々堂々とした印象を得られました。いつものように、特に印象深かったものをメモします。


日本の社員の解雇が難しい理由

<判例> 東京高裁昭54.10.29「東洋酸素事件」:整理解雇の有効性が争われた。判決は「解雇の四要素」を必要とした。「人員削減の必要性・辞任削減の手段として整理解雇を選択することの必要性・対象者の選定にあたって客観的で合理的な基準を設定し、公平に適用したこと・整理解雇に先立って、労働者や労働組合と誠実に協議したこと」である。有期契約社員やパート社員についても安易な雇い止めは許されないという判例がある(最高裁昭61.12.4「日立メディコ事件」等)。このように社員解雇のハードルが高くなったことで、企業は四要件を満たすかどうかについて過度に慎重になり、非正社員の割合が増加することになった。さらに、正社員と有期契約社員での賃金差についても「適用される賃金に関する規定が異なるため」という理由で容認した(大阪地裁平14.5.22「日本郵便逓送事件」)。

<判例に伴う現状> 非正社員の増加、正社員と非正社員の待遇格差拡大

<提言> 解雇要件のハードルを低くする。同一労働同一賃金の徹底。

就職難・非正規雇用者の増加 ← 正社員の既得権益 ← 正社員は解雇しにくい、というふうに原因を突き詰めていくとこの判例に行き当たるということで、けっこう有名な判例ですね。驚いたのは、同一労働同一賃金ルールを否定している判決があったこと。いや、否定というよりは「契約優先」ということかな。いずれにしても、判例がどれほどの社会的影響力を持っているかを痛感させられる事例だと思います。


公務員バリア

<判例> 最高裁昭53.10.20「芦別国家賠償請求訴訟」:「公権力の行使に当たる国の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって、公務員個人はその責を負わない。」(その他同様の判例多数)理由としては、(1)そのような規定がない(2)国家賠償制度の目的は被害者の損害を填補することであり、加害者個人に対し制裁を加えることではないから。

<判例に伴う現状> 不法行為が業務上なされた場合、会社員は、個人として被害者に対し直接賠償責任を負う(会社が負う場合、両方が負う場合もあるが)、公務員はそのような責任を負わない。これは特権意識と無責任体質の温床となるのではないか。

<提言> 警察官・消防官などに個人責任を認めると過度の萎縮を招き業務の停滞を招くことは理解できるので、これらの職種に「バリア」を設定することは理解できるが、それ以外は設定すべきでない。ただし設定有無の判断が難しいので、問題となった公務ごとに範囲を画していくのはどうか。

このような「バリア」があることはまったく知りませんでした。これ、公務員でない人だけでなく、大部分の公務員の方にも迷惑なルールではないでしょうか。「また公務員が攻撃される理由が出てきた」と感じる公務員の方が多いような気がするのですが・・・とはいえ提言にもあるように、「どこからバリアをはずすか」は確かに難しい問題です。


一票の格差

<判例> (多数):国会議員選挙における一票の重みは、概ね、衆議院で3倍程度、参議院で6倍程度までなら違憲とはいえない。また、違憲であっても、選挙の効力は失わない。

<判例に伴う現状> 国家財政が危機に瀕しても地方経済が優先される(地方の一票のほうが都市部のそれより重いため)。なお、諸外国では、有権者の総数を選挙区数で割り、そこで得られた一選挙区当たりの有権者の数を基本数とし、そこから何パーセント離れているかで平等性を判断している。アメリカでは2%程度、イギリス・フランス・ドイツでは10〜20%を超えたら問題視されている。日本では、例えば1995年の参議院選挙では、20%未満に入っている人口は全体の2割程度であったが、最高裁は合憲判断とした。

<提言> 最高裁が違憲無効判断を出すべき。

市場というものがなぜ力を持ち続けている(時には揺れることもあるけれど)のかといえば、それは結局、フィードバックが概ね正確に働くからだと思うのです。同じように、民主主義国家がきちんと機能するためには、投票というフィードバックが正確に働かないといけないと思うのですが、それが日本はできていないということなのですね。ちきりんさんのブログ「格差問題@一票の価値」すぎやまこういち先生の発言を読んだときもこれは本当に問題だと思っていたのですが、改めてこれはいろんな問題の根幹にある問題のように考えられます。自分が何ができるのか調べてみましたが、まだよくわからないままです・・・


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