庭を歩いてメモをとる

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アントン・チェーホフ「桜の園」

桜の園・三人姉妹・ヴァーニャ伯父さん・接吻・退屈な話・六号室・中二階のある家・いいなずけ (1952年) (世界文学全集学生版)

[物語]
しばらくの外国住まいから南ロシアに帰ってきたラネーフスカヤ夫人。しかしそのロシアの屋敷にある「桜の園」は借金返済のため他人の手に渡ろうとしていた・・・

[感想]
って、それだけといえばそれだけの話なんですが、なんだか時代の移ろいというか、諸行無常というか、そういうはかなさと人間の変わらなさみたいなものの対比が美しく感じられた作品です。

高校生のころに読んだ太宰治の「斜陽」に、「マイ・チェーホフ」って言葉が出てきたような記憶があります(もしかしたら違っているかも)。それって、この「桜の園」のことなんじゃないかなと、ふと思い出しました。

20年前の読書経験とこの作品で描かれている「人間の変わらなさ」が思わず自分の中でオーバーラップして、より印象深くなりました。

それにしても、なぜチェーホフはこの作品を「喜劇」にしたんだろう。私にはとてもそうは思えないんですが、かといって「悲劇」でもない気がするし。

いずれにしても、ストーリーの起伏のなさに比してみると、意外なほど奥深い印象を持つことができる作品でした。


それから、同じ本に入っていた短編も粒ぞろいでした。物語も描写も普通に「おもしろい」、短編小説の見本のような作品が並んでいました。特に「接吻」は、パーティのハプニングで見知らぬ女性のキスを受けてしまった男の自問自答心理描写が秀逸でした。自信なさげな男がああでもないこうでもないと心の中で逡巡する様子は梶井基次郎の「檸檬」に匹敵する気がします。

檸檬 (新潮文庫)


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