庭を歩いてメモをとる

おもしろいことや気になることのメモをとっています。

北村薫「夜の蝉」「秋の花」「六の宮の姫君」「朝霧」

夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)秋の花 (創元推理文庫)
六の宮の姫君 (創元推理文庫)朝霧 (創元推理文庫)

「私」が遭遇する「日常の謎」を、落語家「円紫さん」がさらりと解き明かすシリーズ。第一作「空飛ぶ馬」ですっかり魅了され、全作読み進めました。

日常の謎」を味わえるという点では、「空飛ぶ馬」と「夜の蝉」が一番だったかな。最近朝が弱いのですが、前の晩に「謎」が解き明かされる直前まで読んでおいて、次の朝の通勤電車で円紫さんのあざやかな謎解きを読む、という方法をとったところ、毎朝の電車がぐっと楽しくなりました。

「夜の蝉」で印象に残っているのは、冒頭の作品。本屋で、あるコーナーの本だけがあるときは上下逆、あるときは前後逆、そして本のケースと中身が入れ替えられる、といういたずらがあった。なぜ?というやつかな。

「秋の花」は、主人公の後輩の女子高生が校舎の屋上から落ちて亡くなったことから始まる話。自殺と思われたが、直前にその生徒は鉄パイプでチャンバラごっこをしてふざけるなど、とても自殺するようには思えなかった。なぜ?というストーリー。これも謎解きは見事ですが、本当に悲しい話でもあります。最後の文章の締め方が見事だと思いました。

「六の宮の姫君」は、主人公が卒論に取り組むにあたって、芥川龍之介の同名の作品が書かれた背景について調べていく、このシリーズでは異色のストーリー。これ、芥川の時代の国文学が好きな人・詳しい人ならもっと楽しめるんだろうな、と思います。

最終作「朝霧」は、読み終わるのがほんと残念でした。ああ、もうこのシリーズも終わりか、って気持ちで。「謎」の日常性・意外性については、それ以前の作品よりやや弱い印象を受けましたが、代わりに、大学生だった主人公「私」がついに社会人となり、少しずつ年齢を重ねてきたこれまでの流れを思い出しながら読み進めることで、今までとはまた違った味わいを感じられました。

もう続編は出ないのかもしれませんが(「朝霧」が98年刊行)、こういう「日常の謎」ものってまた読んでみたいなあ。でもこのシリーズのような、「私」や円紫さんのキャラクターの魅力や、国文学をはじめとする著者の深い知識があふれ出ている作品はなかなかないんだろうな。「私」と私の年齢がほぼ同じということもあり、30代後半になった「私」の近況も知りたいし、続編が出ないかな、という望みをもつようになった今日この頃です。


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