村上春樹さん曰く「これまでの人生で巡り会ったもっとも重要な本」3冊のうちの1冊、東大教官がすすめる本第1位、「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」さん曰く「小説のラスボス」。いやがおうにも期待が高まるこの本をついに手に取ってみました。話題の新訳で。
[物語]
19世紀後半のロシア。好色で守銭奴のフョードルには、長男で情熱的で浪費癖のある退役将校ドミートリー、次男で博識でニヒリストのイワン、三男で修道院暮らしの清純なアレクセイがいた。ドミートリーは婚約者がいながら、別の女性についてフョードルと恋のさや当てを演じることになる。フョードルとドミートリーの関係が悪化する中、アレクセイが心酔する長老ゾシマの容態が悪化し・・・
[感想]
第1巻 翻訳作品にしては読みやすい。さすが話題の新訳。
しかしロシア人、話が長すぎるだろ常考・・・それにこの情熱、ちょっと今の日本じゃ考えられない、やっぱり外国の昔の物語って感じ。
訳者による読書ガイドが素晴らしい。読み進めていく上で必要な背景知識がわかりやすくまとめられている。古典の、特に外国作品は、これくらい親切な読書ガイドがあると理解が増す。
第2巻 人物描写の深みに驚き始める。脇役も含めて、味のある人物の掘り下げられた描かれ方に舌を巻く。噂の「大審問官」の章、これはキリスト教になじんでいないと理解が難しい面があるかもしれない。私は聖書はひととおり読んで、かつて自分の意志でキリスト教系の団体の集会に参加していたことがあるが、それでもこの話の深遠さの入り口だけを理解したような感じ。キリスト教が体に染みこんでいるような人なら、より凄みのある、根源的な話として読めるのだろう。
読書ガイドに、前巻のあらすじがついている!これもありがたい。こういう長い話だと、前に読んだ内容を忘れることがあるから。
第3巻 小説として、さらにおもしろくなってきた。ストーリーがぐんぐん進んでいく。一見感情の赴くままに話が流れているように見えて、それまでに書かれた伏線がどんどんつながっていく。一番熱中できる巻だった。
第4巻 冒頭の少年コーリャについて、大人の苦悩だけでなく思春期の少年の生意気さと誇りみたいなものも活写する筆に感嘆。
衝撃。そうだったのか。この話はミステリーとしても読めるなあ。
第5巻 本編はわずかで、訳者によるドストエフスキーの生涯紹介と解題が280ページ。解題にも書かれていたように、この話は大いなる未完作品らしく、そのことについての解説に驚かされる。正直、書かれるはずだった続編が気になってしょうがない。小林秀雄が「およそ続編というようなものがまったく考えられぬほど完璧な作品」と書いていたのには大きな違和感。
感じたことをつらつら書いてみましたが、この作品は何回か読み込まないと真価がわからないような気がします。どうもいろんな仕掛けがあるようなんですが、1回の通読ではそこまで気が回らず筋を追うのに精一杯、という感じ。というわけで、この小説が本当に凄いのかどうかは今の自分にはわかりませんが、かなりおもしろく、奥が底知れず深い小説だということはわかったように思う次第です。
訳者の「親切心」にも感激しました。こんな親切な解説は今までに見たことがありません。こんな深い小説に、こんな親切心が融合して、日本の読者はラッキーだと感じました。