以前から、著作権についてはある程度体系的に知っておきたいなと思っていました。それで手にとったのがこの本です。
著者は2001−3年に文化庁著作権課長を務めた方。そのせいか、文中に「日本の著作権法整備は世界でもトップクラス」「実はアメリカが一番遅れている」との記述がちょっと目立ってしまっていますが、この本は私個人の「著作権についてわかりやすく体系的に知りたい」という希望には十分添ったものでした。
で、この本で知ったことを、自分の頭の整理のために以下にメモしておきます。以下、枠内はよしてるによる本書の要約または引用です。なお、本書は2003年12月発行です。それ以降、著作権ルール等が変わっている場合があるかもしれませんのでご了承ください。
「知的財産権」と「著作権」の違いとは
知的財産権
┃
┣著作権 → 著作権、著作隣接権など
┃
┣産業財産権 → 特許権、商標権など
┃
┗その他 → 植物の品種、IC回路の保護など
この整理で、著作権の範囲がわかりますね。個人的には、商標権と著作権を今まで混同していましたが、これらはまったく別物ということですね。
著作権にはどんな内訳があるのか
(1)著作権
┃
┣著作権(著作者の権利)
┃┣(2)人格権(無断で改変、公表、名前表示を変更されない権利)
┃┗(3)著作権(財産権)(無断でコピー、公衆伝達されない権利)
┃
┗著作隣接権(伝達者の権利)
┣(4)人格権 → 実演者のみ
┗(5)財産権 → 放送局、レコード会社、実演者等
このディレクトリは、著作権を理解していく上で極めて重要ですね。この本でも何度もこの整理を元に説明がなされています。私自身は、著者によるこの整理のおかげでかなり頭がすっきりしました。
以下、それぞれの権利について見ていきます。
(1)著作権
著作権の特徴は、権利を持つのに政府の登録や審査がいらない点にある。しかし、実はアメリカがこのルールに適合したのは1989年。そのため、著作物がアメリカのような国に持ち込まれた場合でも「登録されているものとみなす」とするために、©マークが使われた。
あの©マーク。今までは、あれをつけるのがルールなのかな、その割には最近見かけないな、と思っていたのですが、そういうわけだったのですね。
著作物として保護されるのは、表現であってアイデアではない。このため、既に存在している言葉をあるシチュエーションでギャグとして用いる場合は著作物とはみなされない。
漫才のネタ全体は著作物になるけど、一言ギャグは対象にならない、というところでしょうか。
既存の「著作物」や「データ」を「部品」として使い、これらについて「選択」または「配列」を工夫しながら「組み合わせる」ことにより、新たな著作物がつくられることがある。これらについては、「組み合わせた人」が著作者となるが、この新たな著作物を丸ごとコピーするような場合は、「組み合わせた人」だけでなく、「部品」の著作者の了解も得る必要がある。
これを読んでまず思い出したのが、サンプリングを用いた音楽です。あれも「サンプリング元ネタ」の著作者の了解が必要なんですよね。以前、プロディジーがビートルズの曲をサンプリングした曲を出そうとしたがビートルズ側からの了解が出なかったケースもありました。でもポール・マッカートニーは、プロディジーのことは気に入っている、了解を出さなかったのは僕の本意ではない、みたいな発言もしていました。これは(5)著作隣接権の絡み?あるいは他の(1)著作権者が待ったをかけた?(確認できていません)
三越の包装紙には著作権があるが、高島屋のものにはない。ミッキーマウスのぬいぐるみには著作権はあるが、ファービー人形にはない。 なぜかというと、三越の包装紙はもともとあった絵画(著作物)からとられたものだし、ミッキーマウスは人形より先にまんがとして世に登場したからだ。一方、高島屋の包装紙は最初から包装紙としてデザインされたので著作権がない。ファービー人形も、人形にする前にまんがでも出していれば著作物になったがそうではなかった。 ただ、道具として楽しむものは、特許権や意匠権で保護されることがある。
ちょっとした(ように見える)出発点が大きな違いを生み出すのですね。高島屋はともかく、ファービー人形の作者は損をしているのでしょうか。それとも、人形も意匠権で保護されるからそうでもない?(よくわかっていません)
著作物として保護されるには、自分なりの「創作性」が加わっていることが必要。映画などの題名や、短いギャグなどの場合は、新しく考え出されたものであっても、長さの関係で十分な創作性を発揮する余地がないため、一般には著作権がないと考えられているが、長いものの場合には著作権が認められることもあり得るだろう。
映画"Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb"を「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」という邦題にした人には、個人的にはぜひ著作権を認めてあげたいように思います。最初の部分は誤訳ですけど強烈な創作性を感じますので。それに長いし。
(続きは「(2)人格権」についてです。)