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スティーヴン・ロック&ダグラス・コリガン「内なる治癒力 ー こころと免疫をめぐる新しい医学」

内なる治癒力―こころと免疫をめぐる新しい医学

「病は気から」とよく言われますし、私たち自身もそれを実感する機会はかなり多いのではないかと思います。この現象を西洋医学の観点からアプローチしたのがこの本です(ただし、書かれたのが1986年なので、20年前の話だと意識して読んだほうがよさそう)。

それにあたって、著者は西洋医学の常識である「免疫系は他のどの系からも影響を受けない」という考えを捨て去ることから始めます。「病は気から」なんてありえない、という考えから離れてみるのです。素人の私から見ると、むしろ「免疫は心の影響など受けない」と考える方に無理があるように思うのですが、少なくとも20年前の医学界ではそうではなかったようです。そのせいか、「病は気から」の実例がこれでもかというほど出てきます。よくある「火渡の儀式」から、多重人格者は人格が変われば身体にも変化が起きるとか、偽薬で重い病気が劇的に改善した例など、様々です。

しかしこの本が貫いているのは、ここで精神世界方面に行ってしまうのではなく、著者は世の中の数々の調査・研究をピックアップしていくという姿勢です。そのうちのいくつかをご紹介します(枠内はよしてるによる要約です)。

日常的なストレスも免疫に影響を与えている。例えば試験を受けるといった不安や緊張や、「小さないざこざ」などでも。またある実験では、長期のストレスはある程度以上の悪影響を及ぼさないのに対し、短期間の急性ストレスは免疫機能をより弱めるという実験結果もある。

ふうむ。そうなると、日々のちょっとしたストレスは避けようがないので、免疫力を保ちたいなら、それにどう対処するかということが課題になりそうですね。で、適応力のある人とそうでない人についての調査結果が以下です。

イリノイ州のある電話会社の管理職を調査したところ、客観的にはみな相当なストレスを受けているように見られたが、それによって病気になるグループとそうでないグループは明確に分かれた。病気になるグループは、意外にも家族や友人からのサポートは十分に受けていた(サポートを受けていても、「わかってくれるのはサポートしてくれる人だけだ」という意識だと、せっかくのサポートも有効に働かないようだ)。病気にならないグループに特徴的なのは、「3つのC」だった。ストレスや挑戦(challenge)がかえって励みになり、自分のしていることに心から熱中し(commitment)、事態を切り開いていく自信をもっていた(control)。逆に、病気にかかりやすいのは、行動の基準となるコンパスをもっていない人たちだ。自分自身を知らず、変化に適応する方法を知らない。彼らは10年前から電話会社で働いているのだが、合併によって職場の環境がまったく違ってしまったと感じていた。電話会社に裏切られたとぐちをこぼしているのである。

ううむ。これを読む限りでは、要は性格によるってこと?性格は変えるのが難しいので、ちょっとこれは「対処法」の参考にはならないなあ。興味深くはあるけれど(ちなみに、過去にご紹介した関連本としては、セリグマン「オプティミストはなぜ成功するか」がありますが、セリグマン氏の研究はこの本にも頻出します。)。

ただ、「コントロール」という点では、少しは私でもなんとかできそうな対処法がありました。目新しくもなんともない方法ですが、コントロールが難しい問題に出会ったら、それはさておきコントロール可能な問題にも目を向けてみること、だそうです。ほんとに当たり前のことですが。あとは運動。これも当たり前の話ですが、運動による緊張の軽減はかなりのものとのこと。

ところで、「病は気から」というと、よく耳にするのがいわゆる「がん性格」というものですが、それって本当に存在するのでしょうか?この本によると以下のとおりです。

・カリフォルニア大学の心理学者テモショックが、皮膚がんのなかでも特に悪性のメラノーマにかかった150人以上の患者を面接したところ、「否定的感情を表に出さない」「がんに直面しても平静さを失わない」「常にやすらぎをもとめ気持ちをコントロールしたがる」という性格傾向が見られることに気づいた。この傾向を持つ患者の病状を1年半にわたって追跡したところ、大部分が症状が悪化するか死亡するかした。

・ロンドン王立大学による10年間に及ぶがん患者の研究では、再発もなくもっとも長く生存した患者たちは、はじめてがんの宣告を受けたとき、「異常は全くないとかたくなに否定する」か「なんとしてもがんに打ち勝つという闘争心を見せる」かしていた。逆にあっけなく死んでいった女性たちは、「平然としていた」か「まったく絶望的になる」かだった。

・がんとこころの関連性は否定できないが、関連性を明らかにすることも難しい。今言えるのは、「性格傾向などががんの原因になりうるという科学的証拠はない」「しかし心の持ち方ががんの経過に影響しうるという考えは受け入れられつつある。特に抑うつ状態はリスク要因になりうる。」といったところ。

この本によると、抑うつ状態というのは、それだけで十分つらいことでしょうに、さらにやっかいな副産物を生む可能性があるということのようですね。

ここまで紹介しておいてこう書くのもなんですが、この話、興味深いものの、あまり考えすぎるとそれこそ体によくない気もします。とりあえず個人的には、スポーツクラブ通いとヨガを続けようっと。無理のない、自分でコントロールできる範囲で。

ちなみに、この本によれば、ナチス強制収容所の生存者へのインタビューで繰り返し登場したひとつの態度とは、「理屈抜きのひたむきな希望」だったそうです。


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