「夜のピクニック」(未読です)の評判から、てっきり青春ものが得意な人かなと思って初めて読んでみた短編集ですが、どうも私の先入観は大いなる勘違いであることがわかりました。
いわゆる「ホラー」として分類されるような作品が多数を占めています。しかしここに収められた「ホラー」は、いい意味で個人的に怖くありませんでした。震えるような怖さがないかわりに、端正な大理石の彫刻に触れたようなひんやりとした感触がそこにはありました。上品な冷たさのようなものを感じたのです。
それはおそらく、現実とほんの少しだけ遊離した世界を端正に描いているからなのかもしれません。村上春樹のような、確実に現実とは異なる世界が広がっていくわけでもなく、かといってどこにでもある世界でもなく。
それでいて、短かい物語の中でも、いい意味でストレートすぎないストーリーテリングも味わいを感じさせます。素直には進まない、でも奇をてらってもいない。そんなバランスが心地よかった。
といいながら、一番印象に残ったのは、どちらかというと上記の2点からははずれている、懐かしい想い出と共にある大きな疑惑を感じさせる喫茶店を描いた「国境の南」と、移動する、意思を持ったバベルの塔のような都市の年代記「オデュッセイア」だったりします。
いずれにしても、入浴中にはいい感じのひんやり感をもった作品群でした。